引きこもりお姉ちゃんはダンジョンでダンスして一発逆転を狙っているところを大バズり

　布団の中で見た光景が忘れられなかった。

『ここまでよ』

　まるで踊るように舞い戦うその姿は、蝶のように舞い鉢のように刺すの言葉通りだと思った。

　ダンジョンにはびこる凶暴な生き物、モンスターに立ち向かう配信者の姿。

　私は初めて何かになりたいと思った。

「そうだ！　私もダンスをすればダンジョンが攻略できるはずだ！」

　ベッドから飛び出すなり言った私の言葉に驚いたのか近くにいた妹はビクッとした。

　それからなんだか嫌そうな顔を向けてくる。

「……急にどうしたの？　しまりお姉ちゃん」

「ひまりちゃん。探索者として優秀だったでしょ？　ついてきて」

「ねぇ、普段はそんな横暴じゃないよね？　って、ちょっと待って脱がさないで。自分で着替えるからやめて！」

　グッタリとした桃髪娘が私の妹である平木（ひらき）ひまりちゃんだ。

　成績優秀、文武両道。

　天才を地で行く？　私自慢の妹である。

　そんなひまりちゃんがいればどこへ行くにも百人力ということで、私はダンジョンへとやってきていた。

　ネットで調べても情報の出てこない、私が偶然見つけたダンジョンだ。

「見たところ、未攻略で未探索。暗くてじめっとしてるけど、こんなところで大丈夫？」

「大丈夫大丈夫。私にはイメージがついてるから」

「あのさ。本当にどうしちゃったの？　いつものしまりお姉ちゃんなら探索なんてしないよね？　授業でさえ先生に文句言いながらやってるのに」

「妹よ。私は気づいたのです」

「ほう？」

「有名な人と同じ動きができたら、私のスランプは克服できると」

「よし、帰ろう」

「待って待って」

　入り口へと歩き出すひまりちゃんに私は飛びついた。

「危険だよ。スランプはそもそもある程度できる人がおちいるものだから」

「わかってる。そうだよね。うんうん。それだけじゃなくって、私がお姉ちゃんとして力不足なのもわかってる」

「お姉ちゃんとして？」

　キッと鋭い視線を向けてくるひまりちゃんから私は目線をそらした。

「あの。探索者としても実力不足です。だ、だからひまりちゃんについてきてもらったんじゃん！」

「はいはいわかってますよ」

　やれやれと肩をすくめるとひまりちゃんは大きくため息をついた。

「無茶だけは絶対にしないでしょ？」

「わかってるって」

「ぜっったいだよ？　ぜっっっったい！」

「大丈夫だって。だからハイ」

　私は勢いのままスマホを渡した。

　当然、影響を受けたあの探索者さんに近づくため、配信を並行して行うのが目的だ。

　ひまりちゃんもそこはわかってくれたのか、意図は聞いてこなかった。

　ただし、先ほどより一層冷え込んだ視線を私にぶつけてきた。

「しまりお姉ちゃんが被虐主義者だとは思いもしなかったよ……」

「何を言ってるの？」

「自らの無様を世間にさらしたいんでしょ？」

「なんかすごい勘違いされてる！　違うよ！？　かっこいいところを発信するんだよ！？」

「……」

「大丈夫！　イメージが掴めたんだから」

「イメージって……」

　私は見せた方が早いと思い、その場でボックスダンスを始めた。

　すると、体が軽くなり、動きもどんどんと加速してくる。

　視野も広がって、驚くひまりちゃんの顔がいつもよりかわいく見える。

「な、何したの？　しまりお姉ちゃん！」

「ふっふっふ。私のスキルは……」

「ファイティングスーパーハイパーバトルダンサーオブゴッドでしょ？　そんな意味のわからないクソダサスキルに一体何ができるの？」

「……そ、そう！　要はダンスなんだよ！」

　ひ、ひまりちゃんの言う通り、意味わからんクソダサスキルだと思っていたけど、やればできる子だったんだ。

「これが私のダンススキル。踊りを踊れば天下無双。私を止められるものはいなーい！」

「……でも、伸びてない配信じゃ誰にも知られないんじゃ？」

　ぶつぶつ言っているけども、側転できなかった私がなぜか横にグルグルできているし、今ならバク転もバク宙もできそうだ。

「……わたしのSNSにも出せば、え、嘘。いや速い速い速い！」

：妹さんの紹介から来ました！

：初見です

：ダンスで地面が燃えてるって本当ですか？

：今のって本当にダンスですか？

：戦闘中みたいなエフェクトって合成だろって、マジなのか？

「……やっぱしまりお姉ちゃんなんだよなぁ。だってわたしのお姉ちゃんだもん。テッペン取るのに相応しい人だよ」

「ねぇ。そろそろ奥の方に行こうよ」

「はいはい。無茶だけはしないでね」