俺の同級生がゆるふわ小悪魔で可愛すぎる
藤本茂三
第1話 入学式前に美少女に出会った。
県外の高校から都内の高校へと進学する高校生というのは少なくはないのだろう。そして、本日新しい学び舎に進学することになった『高坂零士』は、緊張した面持ちで重い足取りで学校へと向かっていた。
(やっべぇ……滅茶苦茶緊張する。たかが高校の入学式くらいで、緊張するなんてアホみたいな話だが)
朝の通勤ラッシュを避けるために電車通勤ではなく徒歩で移動することを決めた零士は少し早く起きていた。元々朝早く起きて勉強する習慣があったため苦労することなく起床することが出来た。それでも緊張の余りか普段よりも早く目覚めてしまっていたので、やや睡眠不足を感じて欠伸して目を擦っていると十メートル程離れた位置ににスマホを弄りながら横断歩道を渡ろうとしている同じ制服の女子高生を見かけた。
(俺と同じで緊張して早起きしてしまったタイプなのかな?……いや、違うか。)
そして、零士は異変に気付く。横断歩道の信号は青であるため、車道の信号は赤なのにも関わらず、目の前のトラックがスピードを落さないのだ。そして女子高生もイヤホンをしているため気づく素振りすら見せない。零士はこのままでは彼女が車にはねられてしまうと思い、全力でダッシュして彼女の元へと向かう。
「え……」
「……ッ!ふぅ……セーフセーフ」
突然、抱きしめられて驚いた声を上げる女子高生を上げ、彼女が怪我をしないように零士は自身の体をクッションにするように背中から倒れた。信号無視をして零士の横をスレスレで通り過ぎる運転手を睨みつけると、どうやら居眠りをしているようで自分が信号無視したことにすら気づいた様子もなく、そのまま走り去っていった。
(ここは車通りが少ないとはいえスピード出しすぎだな……)
「もしかしなくても……私、車に引かれそうになっていました?」
「……そうですね。ところで大丈夫ですか?怪我とかありませんか?」
「は、はい、大丈夫です」
女子高生はトラックの方を見てから漸く自身の現状について把握したのか一度深呼吸してから口を開いた。至って冷静な零士は、抱きしめていた女子高生を離してから怪我をしていないか軽く確認する。
「良かったです。それと……これ、さっきのトラックのナンバーです。もし通報したければ警察へ連絡して下さい」
「え、えっと分かりました……それと同じ一年生ですよね?」
一瞬の出来事であったが、冷静にトラックのナンバーを暗記していた零士は鞄の中からメモ帳とペンを取りだしてナンバーを記載する。そして彼女は驚きの表情を浮かべながらもメモ紙を受け取る。
「な~んだ。なら敬語抜きで話すね。まずは助けてくれてありがとう!私は同じ一年の小鳥遊茉奈だよ、よろしくね♪」
「あ、あぁ……俺は高坂零士……よろしく」
「うん、こちらこそよろしくね、零士君♪」
「りょ、了解」
同じ学年だと分かったからか一気に距離感を縮めてくるようにフランクな物言いで話し始める茉奈に零士は一つ分かったことがある。相手が生粋の陽キャであることに。そして真正面から再び茉奈を見てみた。
ウェーブのかかった茶髪、新入生にも関わらず着崩した制服、アクセサリーなど見た目は今風の女子高生であった。中学を卒業したばかりにも関わらず、ブレザーをハッキリと押し上げる大きな胸。そして極め付けは零士が今まで見た誰よりも容姿が優れていた。
(これが東京……やはり凄いな。こんな人がゴロゴロいるんだろうか……)
フレンドりーな茉奈は一緒に学校まで行こうと言われたが、零士は忘れ物をしたと嘘を吐いて家へ戻るフリをした。その理由は明白であり、茉奈ほどの美少女と一緒に通学なんてしてしまえば高校初日から注目を浴びてしまうのは間違いない。平和に過ごしたい零士にとって、それは許容できないことだった。
****
入学式から早くも一週間程が経過した。教室内にもチラホラ集団というモノが見え始めるころなのだろうか。零士の教室にも仲のいいコミュニティが形成され始めていた。そして無論、他者と一切会話する意欲を見せない零士がコミュニティに属することはなかった。
(俺も部活動とかした方が良かったのか?それとも放課後の遊びに行った方が?いやいや、余計なリスクを負うべきじゃない。俺は何もせず大人しく過ごすのが一番、そう一番だ)
「みんな、おっはよぉ~」
『おはよう~』
『おっす~』
『ちっ』
茉奈が教室に入って挨拶をしただけで、男子たちは談笑を止めて彼女へと挨拶をする。そして、注目を浴びることが気に食わない一部の女子からは舌打ちのようなモノが聞こえる。主に零士の斜め後ろに座っている女子生徒のことであるが。
(相変わらず小鳥遊さんは凄いな……このモテっぷり……)
入学式の初日に教室に入ってみれば、茉奈がいたが既に彼女は周囲の男どもを虜にしていた。そして天性の容姿と明るい性格を存分に活かして、クラス男子どころか一週間も経てば他の教室の男子たちまでジャグラーの如く手玉に取っていた。
その光景に女子達は全員驚いたことだろう。比較的容姿に優れていた女子も茉奈の前では霞んでしまう。
「なぁ茉奈、今週の休みにでも遊びに行かない?俺、いくらでも買い物付き合っちゃうよ?」
「うん、いいよ~。あ、そうだ、せっかくだから中西君だけじゃなくて、みんなで遊びに行こっか~!」
「お、おうそうだな……」
イケメンな中西という男は、やや気落ちした様子でありながらも諦めた様子を見せず再び茉奈と会話をしていた。そして、茉奈の凄いところはコミュニケーション能力の高さである。一人だけでなく周囲の男への話を振るのが上手すぎるのだ。そして、零士が一番尊敬するところ――。
(それにしても――よく名前覚えれるよな!俺なんて、今のところ座席表で周囲の人の名前しか覚えきれていないぞ!)
未だに友人ゼロという高校デビューに完全に失敗してしまった零士は、羨ましそうに茉奈をチラリと見てから、小さく溜息を吐いて授業の準備をした。
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