【天下無双の布団ダンサー】【KAC20255】

MKT

【天下無双の布団ダンサー】

 俺の名は田中一郎。どこにでもいる普通の会社員――のはずだったが、最近、俺にはある異名がついた。「天下無双の布団ダンサー」と。


 ことの発端は一週間前。深夜まで働き、帰宅しては即布団に倒れ込む生活を続けていた俺だが、帰宅後風呂にも入らず布団にダイブし、スマホで適当に流れてきた音楽をかけた。


 その瞬間、俺の中の何かが弾けた。


 ――踊らねばならない!


 自分でも理由はわからない。だが身体が勝手に動き出した。まるで魂が布団と融合したかのように、俺は布団の上で異次元のダンスを繰り広げた。布団を巻き付け、羽織り、まといながら、ステップを踏み、回転し、跳ねる! 


 「うおおおおおおお!!!」


 何かが降りてきた気がした。俺はまさに舞神(まいがみ)と化した。


 翌朝、心地よい疲労感とともに目覚めた俺だったが、スマホにとんでもない通知が入っていた。


 『SNSで大バズり中!「布団ダンスの男」再生回数100万回突破!』


 ……何?


 慌てて確認すると、昨夜酔った勢いで踊っている自分を動画に撮り、無意識のうちにアップしていたらしい。コメント欄は大盛況だった。


 『この布団さばき、まさに天下無双!』

 『なんでこんなにかっこいいんだ……』

 『布団の概念が変わった』


 そして極めつけは、有名ダンススタジオからのメッセージだ。


 『ぜひうちでレッスンを!』


 俺はただの会社員だぞ? これでいいのか? しかし、気づいてしまった。俺の中には眠れるダンサーの魂があったのだと。


 こうして俺は、日々の疲れを布団ダンスで発散し、夜な夜な踊るようになった。次第に動画は世界中で話題となり、布団メーカーから「公式アンバサダーになってくれ」と依頼まで来た。


 そして今日。世界布団ダンス選手権に招待されてしまった。世界の布団ダンサーの為の究極の舞台。優勝すれば「真の天下無双の布団ダンサー」として認定されるらしい。


 会場の中央、俺は深呼吸し、布団を手にする。そして、心の中で叫んだ。


 ――行くぞ、俺の布団!


 音楽が流れる。布団は宙を舞い、観客が息を呑む。まさかの技が炸裂する。


 この日、俺の名前は本当に歴史に刻まれた。


 『天下無双の布団ダンサー・田中一郎、世界を制す!』


 ……俺の人生、どうしてこうなった?

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