第8話 俺と友だちになってください
授業が終わるチャイムが流れる。
空野さんは、すぐさま椅子から立ち上がり、俺から逃げるように教室から立ち去ってしまう。
追いかけるべきか、否か。
彼女が俺から距離を取りたがっているのは間違いないだろう。そんな少女を追いかけて、無理に話ができるほど、俺と彼女の関係性は深くない。
でも俺は、空野さんとギスギスした関係にはなりたくない。ここで追いかけなくては、そうなってしまうような気がした。
だったら、追うしかない。
俺も空野さんに続いて教室を飛び出す。揺れる銀髪を目指して人混みを抜け、屋上へと向かう階段で追いつくことができた。
「空野さん!」
少し高めの位置にいる空野さんがこっちを向いた。
睨まれるかと思っていたが、空野さんは目尻に涙を貯めていた。だけど、そんな表情を誤魔化すかのように、強くて冷たい視線が俺を貫いていた。
ここで逃げるわけにもいかない。
どれだけ怖くとも、泣きそうになっている少女を、しかも気になっている少女を放っておけるわけはない。そもそも俺は彼女と話すために、追いかけて来たのだから。
一歩も引かないという強い気持ちを持って、一段一段距離を詰めていく。
「わ、私のこと……怖くないの」
それでも近づいてくる俺にびっくりしたのか、空野さんの声は震えていた。
彼女自身も銀狼姫と呼ばれて、周りから畏怖を抱かれていることを分かっているのだ。
正直に言えば、怖さはある。
だけど、それは人を睨んでいる表情だけ。
「睨んでいるときは怖いけど……空野さんのことは怖くないよ。スマホ隠してくれたし」
俺は空野琥珀という少女自身のことを恐れてはいない。仮に本当の意味で恐れているのなら、そのルックスが脳裏に焼き付いたりはしない。好きという表現に揺さぶられたりは決してしない
。
「でも、私……お礼すら言えなかった。助けてくれたのに、それどころか……」
気づけば、空野さんの睨みは解除されていた。だけど、どんどん思いつめたように苦しそうな表情が強くなっていった。
やはり、入試の日に助けた銀髪少女は空野さんだった。
彼女も、俺のことを憶えていてくれた。
確かに俺は銀髪少女からお礼は言われていない。
だけど、空野さんがそのことを後悔しているのは明白だった。
そんな女の子が意地悪い人であるわけも、怖い人なあるわけもないのだ。
「俺は空野さんと友だちになりたい」
「え、な、なんで……」
「空野さんのことが気になってるから」
俺は空野さんを責めたくなかった。あの日、確かに気まずい思いはしたけど、それだけだ。
だからと言って、空野さんが睨んでしまったという事実を肯定的なものにできる口の上手さは持っていない。それにやっぱり俺は空野さんのことを良く知らない。
「空野さんは、俺と友だちになりたくない?」
「な、なりたいよ! けど……」
その悲しそうな表情から、まだ後ろめたさを感じているように見えた。
「じゃあ、分かった。俺と友だちになってください!」
俺は思いっきり頭を下げた。そっちが強情なら、こっちも強情だ。
「あ、あたま上げて!」
「友達になってくれるなら」
「わ、わかったから。友だちになるから……頭を上げて!」
そこで空野さんが折れてくれた。
こうして、俺、高柳理央と空野琥珀は友だちになった……のか?
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