夢紡ぎの布団

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夢紡ぎの布団

 ある旅館には古びた布団があった。

 それは「夢紡ぎの布団」。そこで眠る者は、内に秘めた力を引き出すことができるが、使い方を誤れば、現実と夢の区別がつかなくなる危険性も孕んでいた。


 旅館の跡取り息子、蓮は、その力を恐れて使おうとはせず、宿の仕事を手伝いながら平凡な毎日を暮らしていた。何か満たされないものを感じながら。


 ある日、神楽を舞う旅人、舞姫が訪れた。彼女は夢紡ぎの布団に気づき、蓮は布団の力と危険性を説明した。

 舞姫は、しばらく考え込んだ後、蓮に言った。

「あなたの言う危険性も承知の上で、どうか私に使わせていただけませんか?」

 蓮は、舞姫の真剣な眼差しに心を動かされ、布団を使うことを許可した。


 舞姫は、夢の中で、己の魂と向き合っていた。

 経験したことのない高揚感に包まれ、体が自然と動き出す。それは、まるで体の中に眠っていた才能が覚醒したかのような、力強く、そして美しい舞だった。彼女の動きは、指先から足先まで完璧にコントロールされ、観客を魅了した。


 夢から覚めた舞姫は、夢で見た感覚を思い出そうと踊ってみた。すると、驚くべきことに、彼女の体は夢で見たように自由自在に動いた。

 彼女は、夢紡ぎの布団がもたらした奇跡を確信した。


 舞姫は、その後も夢紡ぎの布団の上で眠り、舞の練習を重ねた。彼女の舞の才能は目覚ましい速さで開花していった。

 舞姫は、再び旅に出る日が来た。彼女は、蓮に感謝の言葉を述べ、旅館を後にした。舞姫は、全国各地で神楽を舞った。その舞は、人々の心を揺さぶり、感動を与え、まさに天下無双と称されるようになった。


 蓮も、そっと布団に身を横たえた。

 静寂の中、彼は自らの魂と深く対峙し、胸の奥底に問いかける。「本当に求めるものは何か」「成し遂げたいことは何なのか」と。

 内なる声に耳を澄ませる時間は、まるで夜の底で輝く星を見つめるように、深く、そして鮮やかだった。


 そして決意する。


 次の日から蓮は、人生に迷う人に夢紡ぎの布団を勧め、自らの魂と向き合うことで眠れる才能を開花させる、誰かの道標となる人生を歩み始めた。

 それは、まるで夜空に瞬く星々のように、人々の内に秘められた輝きを解き放つ静かで力強い光のようだった。

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