チート能力持ちで学園モノ。ただし、恋愛は禁止だぞ!
秋乃光
HUNG UP‼︎
「タクミ! お弁当を作ってきたぞ!」
隣の席の子は毎日ふたりぶんの弁当を作って持ってくる。一つは重箱、もう一つは俺の手のひらサイズの弁当箱。
「安藤モアだぞ!」
隣の席の――安藤さんは、口をへの字に曲げた。小さいほうの弁当箱を俺の机の上に置く。
「安藤さんではなく『モア』と呼ぶがいい!」
別に呼んでいない。安藤さん改めモアは、俺が弁当箱を受け取ったとみて、自分の席に座った。座るなり、マイ箸を取り出して重箱の一番上の段の蓋を開ける。早弁にしては早すぎるだろ。
「朝ごはん?」
「うむ!」
そういうことらしい。箸を揃えて「いただきます!」と挨拶して、豪快に食べ始めた。
食べている間に説明しよう。
俺は
神佑学園は一学年に一クラスしかない。少数精鋭、我が国で二校しかない『能力者育成校』の一つ。俺はこの学園の入学試験で満点を取り、特待生として入学したらしい。
というのも、俺には入学式当日以前の記憶がない。
気付いたときには神佑学園の男子寮。ふかふかの羽毛布団に包まれて眠っていたところを、ルームメイトで三年生の
「起きろ参宮!」
「!?」
「参宮は入学式に新入生代表として挨拶するんじゃなかったのか!」
「えっ、えっ?」
「遅刻は許されないぞ! 着替えろ
起き抜けにこのハイテンションでは、頭がついていけない。俺は風車センパイに激励されながら着替えて、風車センパイに背中を押されながら体育館へ行く。風車センパイは生徒会長として『在校生の言葉』を言わなくてはならないから、担当の先生と俺と風車センパイの三人で入学式の直前にリハーサルをした。
「あの、風車センパイ」
「ん? ああ。朝飯なら、これから寮に戻って食べるぞ? 食べてから登校してもまだ間に合う。緊張するとお腹空くよな、わかるわかる」
「俺、なんでここにいるんですか?」
風車センパイは、俺が冗談を言っているんじゃあなくて本当に困っているのだと、表情から読み取る。ここで待っていて、のハンドサインをして、体育館から出た。その後、ラウンドボブでスレンダーな美人さんの手を引いて戻ってくる。……いいな、俺も手をつなぎたい。
「
なんか変ってなんだろ。学園長はハイヒールの底で体育館の床をコツコツ叩きながら、俺に近寄ってくる。俺は身長が190センチメートルあるんだけども、学園長もかなり背が高い。八頭身。
「ふふふ……気付いちゃった?」
学園長が意味深な笑いを浮かべる。気付いているかいないかで言えば、気付いていないのほうだろ。俺は俺が参宮拓三ってことしか思い出せないからさ。
「あなたは神佑学園で『楽しい学園生活』を過ごすのよ。ステキじゃないかしら?」
「そうだぞ参宮! 変になっている暇はない!」
学園長の問いかけに、風車センパイが同調する。風車センパイ、なんだか暑苦しい。俺、こういうタイプの人が苦手だった気はしてきた。記憶はないけどさ。なんとなく、相容れない雰囲気がある。ルームメイトとしてやっていけんのか不安になってきた。
「放課後、学長室にいらっしゃい」
「行かせていただきます」
斯くして、学園長との一対一の面談の席が設けられる運びとなった。
入学式はどうだったかといえば、
「タクミ! ダンス部を見に行くぞ!」
――と、話を中断しよう。モアが朝ごはんである重箱の一番上を空っぽにしていた。で、なんだって?
「ダンス部だぞ、ダンス部!」
「踊りは興味ない」
「いいや、タクミは行くべきだぞ! なんてったって、今年は『天下無双ダンスバトルフェスティバル』が開催されるのだからな! ダンス部に入り、ともに汗を流そうではないか!」
モアって風車センパイと似てる。主にテンションが。
「我の兄が通う“天助学園”との直接対決だぞ!」
ええと、天助学園は我が国のもう一校の『能力者育成校』だ。あちらには寮がないらしい。俺は神佑学園に入る前の記憶がないけれど、寮生活で正解だと思ってる。実家のことを思い出そうとすると寒気がするからさ。きっと、思い出したくない思い出が詰まってる。
「おにいさんいたんだ」
「うむ。我が兄に、タクミを紹介せねばなるまい」
「紹介するだけならダンス部に行かなくてもいいだろ」
「いいや! タクミは行くべきだぞ! 我と青春を謳歌するのだから!」
「遠慮しておく」
「今日だけ、一回だけでもいいぞ! 一目見たら、タクミはダンス部に入りたくなる!」
ダンス部、か。かつての俺は運動が得意だったんだろうか。……この体力のなさを鑑みるに、特に何もやってこなかったんじゃねェか?
「我がついているから、安心するのだぞ!」
「モアの有無の問題じゃないだろ」
こんなやりとりをしていたら、一時間目の数学の教師が教室に入ってきた。モアは重箱をトートバッグに押し込む。俺はモアの持ってきた弁当箱をスクールバッグにしまって、数学の教科書とノートを取り出した。
数学の授業風景を語ってもつまらないから、入学式の日の続きを話そう。
入学生の挨拶を代表として終えた俺は、リハーサル通りに壇上から降りようとして、学園長の「お待ちなさい」の言葉で止められた。学園長はホワイトボードを従えている。
「これから“能力”の授与を
マイクによって学園長の美声が拡散された。在校生からは拍手が、新入生からは戸惑いが聞こえてくる。神佑学園は『能力者育成校』で、俺は、……俺って能力者?
「他の新入生は、教室に戻ってからよ」
つまり、俺だけが先に“能力”を授与される、ってことか。全校生徒の前で、何をやらされるんだろ。
「あなたの能力は、」
学園長がマイクを置き、ペンを握った。まず、学園長は“さんずい”を書く。在校生からの「おぉー!?」というどよめき。おそらく“さんずい”史上もっとも大きなどよめきじゃねぇかな。俺は記憶喪失だし、他にも“さんずい”が注目されるシチュエーションはあるかもしれないけどさ。
「【
漢字に対して「おおー!」と歓声が上がる。在校生のほうから。新入生は困惑している。そりゃそうだろ。漢字が一つだったら『今年の漢字』が発表されたときに歓声が上がるけど、二つでこんなに沸き立つか?
「渇望って、どういう能力なんですか?」
「さあ?」
学園長はイジワルそうに微笑む。さあ? ってなんだよ。俺の能力なんだろ?
「……わかりました」
どうせあとで学長室へ行く。聞くことが増えただけか。
「これだけは教えてあげられるわ」
「なんでしょう?」
「あなたが恋愛をするとこの能力は消えてしまう」
なんで????????????
「能力者ばかりの学校で、無能力で過ごすのはつらいわね?」
いやまあそうだろ。まだこの学校に入学してきて一日も経ってないけどさ。だって『能力者育成校』と銘打ってあるからにはそういうカリキュラムが組まれているんだろ。
「えっと、その恋愛禁止って、他の人もそうなんですか?」
「あなただけ」
「なんで????????????」
「ふふふ……」
この話、全校生徒の前でする話じゃねぇな? と、いまさら気付いた。学園長の不敵な笑いが、時既に遅し、を告げている。
「タクミは我が守るぞ!」
モアが間に入ってきた。
数学の授業に集中しろ。
チート能力持ちで学園モノ。ただし、恋愛は禁止だぞ! 秋乃光 @EM_Akino
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