第12話 告白

 神社の鳥居の前で、吉田君とたまたま出会い、2人で見つめ合う。


 何だかドラマのワンシーンのよう。


 だと思ったのは、ほんの一瞬。朱音が吉田君に駆け寄って黄色い声を出す。


「キャー、こんなところで出会うなんて、あたし達って運命!?」


 そう、わたしと吉田君が運命なのではなく、朱音と吉田君が運命なのだ。わたしは、おまけ。おかしに付いているおまけのオモチャ。そんな立ち位置。


 だから、1歩後ろに下がった。そして、2人の様子を1枚の見えない壁を隔てて見守った。


「吉田君も神頼み?」


「う、うん。僕、明後日受験じゃけん、今日の夕方の便で福岡まで行くんよ」


「え、でも、福岡なら太宰府天満宮があるでしょ。そっちの方が神頼みには良さそうなのに。何で護国神社?」


 わたしも不思議に思っていると、吉田君がチラリとコチラを見た。


「小鳥遊さんが、最終日は神頼みに行くって言っとったけん、もしかして会えるかなぁ……って」


 ほんのり吉田君の頬がピンクに染まったのは、寒さのせいだろう。


「それって、あたしに会いたかったってこと? 嬉しい!」

 

 朱音がテンション高めに言うと、吉田君は苦笑しながら応えた。


「う、うん。朱音さんも元気だった? 暫く2人とも休むって聞いて、みんな残念がっとったよ」


「双子ってだけで、マスコットキャラみたいなとこあるもんね。失礼な話よね」


「はは……そんなことないじゃろ」


 2人が仲良さそうに話しているのを見ると、胸がキュッと痛む。


 そんな時、朱音が目で合図をしてきた。


(え、今日やるん!? 吉田君、夕方には博多行くんやろ!? 迷惑やって)


 首をブンブン横に振るが、朱音は今思いついたかのように、吉田君に言った。


「あ、そうだ。吉田君」


「なに?」


「この後、あたしらランチ食べて帰るんだけど、一緒にどう? 夕方までならまだ時間あるでしょ?」


「僕も一緒して良いん?」


「是非是非。じゃ、吉田君が神頼み終わるのここで待ってるね」


 吉田君は鳥居を潜って、先程わたし達が歩いた道を歩いて行った——。


 吉田君の背中を見ながら、朱音に言った。


「お姉ちゃん、なにも今日せんでもええやん」


「だって、モヤモヤしたまま受験なんて出来ひんし」


「せやけど……」


◇◇◇◇


 せっかく街に出たのだから、オシャレなランチをしたいところだが、わたし達はまだ学生。アルバイトをしている訳でもないので、さほどお金は持ち合わせていない。


 ランチは、学生でも入りやすいファミレスですることに。


 ガヤガヤした店内で、吉田君がタッチパネルをいじりながら聞いてきた。


「2人とも何が良い?」


「「チーズインハンバーグ」」


 朱音とハモった。


「さ、さすが双子だね」


 感心する吉田君。わたしもいつも感心してしまう程に、こう言う場面ではハモってしまう。


「ドリンクバーは?」


「「もちろん付けるよ」」


「はは……えっと、セットつける?」


「「Bセット」」


 ここまできたら、いつも同じものを頼んでいるのではと思うかもしれないが、毎回注文するものは違うもの。


「僕も一緒のにしよ」


 吉田君も同じ物を注文し、早速ドリンクバーを取りに行く。


 わたしはメロンソーダ、朱音はオレンジジュースを注ぐ。その姿を吉田君がじっと見てきた。


「そこは違うんだね」


「ああ、多分……」


「彩音がメロンソーダ入れたから、違うのにしてみただけ。全部一緒なら逆につまんないかなって」


 良く分からないが、朱音はいつもそうする。


「吉田君は、ココアなんだ。あれ?」


 吉田君、甘いもの苦手なんじゃ……? ヴァレンタインの時に微妙な顔になっていたから、てっきり苦手なのばかり思っていた。違うようだ。


「小鳥遊さん、どうしたん?」


「いや、何でもない」


 それからは、何気ない会話をしつつ食事を食べた。まるで明日、受験なんてしないのではないかと思うほど平和に——。


 そして、デザートを食べ終え、朱音がトイレに立った。


「あたし、ちょっと御手洗」


 それを見送りながら、わたしは吉田君の名を呼んだ。


「吉田君」


「ん?」


 いざ目の前にすると、中々言葉がでない。


「どうかした?」


「あのね……わたし……」


「うん」


「吉田君のこと、好きやねん」

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