第8話 朱音とタッグを組むのは…

※朱音視点続きます※


「え、彩音ちゃんって他に好きな男おるん……?」


 藤井君は非常にショックを受けている。立ち尽くしてしまった。


 今、彩音は吉田君よりも、あたしの目の前にいる藤井君に心揺らいでいる。彩音の弱った部分に付け入って藤井君に取られる可能性大だ。先にこっちを片付けなければ。


 そして、更にそれを利用させてもらう。


「もう2人は良い感じなんだよね。もうじき付き合うんじゃないかな」


「マジかぁ……」


 藤井君はしゃがみ込んで項垂れた。


「だから、あたしと付き合わない?」


「えっと、小鳥遊さん。なんでそうなるん?」


 藤井君に見上げられて思った。


(コイツ、なんでこんな無駄に顔良いねん。腹立つなぁ)


 イケメンが嫌いな訳ではないが、彩音に告白したことに腹が立つ。他にも沢山女は寄ってきそうなのに、よりにも寄って彩音に告白したから。

 

「あたしと彩音、見分け付かないんでしょ?」


 聞けば、藤井君はバツが悪そうに謝罪した。


「……ごめん」


「だからさ、同じ顔なら良いのかなって。あたし、今フリーだし」


「は? 俺を馬鹿にしとん?」


 藤井君に睨まれて、やや怯む。


「俺は彩音ちゃんじゃけん好きになったんよ。たまたまそこに同じ顔の女がおって、ややこしくなっとるだけじゃ」


「は?」


 カチンときた。


「なに? あたしが悪いん? あたしと彩音は産まれた時から一緒やねん。何でポッと出てきたあんたらにそんなん言われなアカンねん」


「あ、ごめ……」


「なんやねん。みんなして彩音、彩音って。彩音はあたしのやねん。取らんといてや」


 無性に涙が出そうになった。こんなところで、藤井君の前でなんて泣きたくなくて、必死に涙を堪える。


 藤井君も立ち上がって狼狽える。


「小鳥遊さん、ごめん。言い過ぎたわ」


「……」


「でも、俺は顔で彩音ちゃんが好きになったんじゃないんよ。入学式の日って、俺こんなんじゃなかったの覚えとる?」


「……?」


 覚えてるも何も、藤井君のことなんて鼻から眼中にないので、申し訳ないが認識したのもここ最近だ。


「俺、前髪で顔隠してさ。地味で暗い、正に陰キャってやつ。中学でも虐められとってから、入学式の日もその延長で揶揄われとったんよ」


「そこで彩音に助けられた……とか言わんといてよ」


「いや、助けられてはないんじゃけど、彩音ちゃんと小鳥遊さんを見とったら羨ましくてさ————」


◇◇◇◇


 藤井君の言い分をまとめるとこうだ。


 入学式の日、双子のあたしと彩音は少なからず注目を浴びていた。ただ、それは2人で一緒にいる時だけ。片割れがトイレにでも消えれば、他の生徒となんら変わらない。


(当たり前や!)


 あたしがどこかへ消えた時、藤井君は1人でソワソワしながら席に座っている彩音に声をかけた。皮肉たっぷりに。


「双子だからってチヤホヤされて良いよね」


「へへ」


 彩音は嬉しそうに笑った。


「褒めてないんじゃけど」


「あ、なんか頭に付いてるよ」


 彩音は立ち上がって藤井君の頭に手を伸ばした。


「うわッ」


 咄嗟に避ける藤井君。


「めっちゃ反射神経良いやん」


「関西弁……?」


「うわ、入学初日からやってもうた。内緒やで?」


 シーと口元に人差し指を充てる彩音が可愛いくて、藤井君は心臓を貫かれたんだとか。


◇◇◇◇


「それ、顔やん! 結局顔やん!」


「俺は、あれから変わろうと思ったんよね」


 しみじみ話す藤井君にはツッコミどころしかない。


 それでも藤井君は止まらない。


「でも、それだけじゃないんよ。落とした消しゴム拾ってくれたり、日直の時に黒板消し一緒にしてくれたり、日誌だって一緒に書いてくれたんよ。優しいじゃろ?」


「そんなん当たり前や! 誰でもするわ!」


「中学ん時は、誰一人としてそんなことしてくれんかったんよね」


「寂しい中学時代やな……」


 あたしと彩音も大概だけど、藤井君に対する虐めはもっと酷かったのかもしれない。


「小鳥遊さんも可愛いけどさ」


「同じ顔やからな」


「けど、小鳥遊さん。俺に一度も笑いかけてくれたことないけんさ、トキメかんっていうか……なんていうか」


 そんな事を言われれば、あたしにも意地がある。藤井君に、可愛くニコッと笑ってみた。


 すると、どうでしょう。


 藤井君はパッと目を逸らした。


「ほら、トキメいたやん? 今、トキメいたやろ? なぁなぁ」

 

「トキメいとらんし。彩音ちゃんはもっと可愛いんよ。俺は騙されんけん」


 藤井君をイジるのは、案外面白いかもしれない。


 ただ、今はそんなことよりも……。


「フラれる予定の藤井君、あたしとタッグ組まへん?」


「言い方、酷ッ」


「藤井君がフラれるにしても、彩音を別の男に取られんの嫌やろ?」


「人の話聞いてないし。俺は別に彩音ちゃんが幸せならそれで……」


「嫌やろ?」


 念を押して聞けば、藤井君は頷いた。


「嫌……かも」


「せやから、今ここであたしに告白し」


「は?」


 あたしはチラリと2階の彩音のいる部屋を見れば、カーテン越しに彩音の姿が見えた。


「自分に告って来た相手が、双子の姉にも告ったって分かったら、純粋な彩音はどう思うやろなぁ」


「そんなの、幻滅するじゃろ。男に不信感しか抱かんくなるじゃろうし……あ」


 藤井君は察しが良いらしい。


 そう、男が信じられなくなる。自動的に吉田君も信じられなくなる。


「でも、それだと俺ってただの最低男じゃん」


(チッ、バレたか)


 まぁ、藤井君にもチャンスをやろう。


「そこは藤井君次第やな」


「俺次第?」


「彩音の好きな男は、卒業したら遠くに行くんねんけど、卒業までにその2人をくっ付けんかったらええねん」


「……?」


「せやから、その後に藤井君がめっちゃ謝罪して、彩音を手に入れる為やったとか何とか言えば」


「彩音ちゃんは、そこまでする一途な俺に惚れ直す……?」


「そういうこと」


 まぁ、その前にあたしが貰うけど。


 そういうわけで、あたしは藤井君とタッグを組むことになった——。

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