KAC20255 天下引っ越しサービスの無双

菊武

第1話 KAC20255 天下の無双

 ピンポーン


 インターホンが鳴り扉を開く。

 築50年のボロアパートにはドアモニタなどの上等な物は無い。


「この度は天下引っ越しサービスを指名して頂きありがとうございます。」


 いかにも屈強な男が爽やかな笑顔で帽子を片手に挨拶をしてきた。


 今日はいよいよここから引っ越しをする。

 オンボロアパート。転勤して来てここに住んだのはたった3年だったが荷物の量もそれなりに増えた。

 自分で荷物を運ぶのには無理がある。なので引っ越し業者に依頼をした訳である。


 屈強な男は名刺を取り出しながら


 「担当させて頂きます無双と申します。」


 「無双?変わった名前ですね。」


 「はい。よく言われます。天下引っ越しサービスの無双。略して天下無双。格好いいでしょ?この会社で働く為に生まれたのかと思ってます。」


 「なるほど確かに。」


 この男の定番の挨拶なのだろう。


 「それじゃ早速作業に取りかかりますね。」


 「はい。よろしくお願いします。」


 無双は保護材を取り付けたり作業を始めた。


 「……?無双さん。他の方は?」


 「え?ああ!今日は僕1人での作業になります。」


 「ええ!?大丈夫?1人?大きい荷物もあるんだよ?1人じゃ持てないでしょ?」


 「いえ、大丈夫ですよ。大きい物でもコツがあるんですよ。」


 「本当に?ぶつけたりしたら嫌だよ?」


 「じゃあちょっとお見せしましょうか?」


 「そうだな……。じゃあそのタンス。そのタンスを持ってみてよ。」


 「このタンスですね。確かにこれは大きいですね。」


 目の前にあるのは1人暮らしには似つかわしくないファミリー向けのタンス。


 「しかも中身もまだ抜いてないから重いよ。」


 「まあ見てて下さい。」


 そう言うと無双は手を大きく広げタンスに抱きついた。


 「よいしょお!」


 気合いと共にタンスを持ち上げる。


 「おお~!凄い!」


 「そうでしょう。それ!」


 無双はタンスを持ったままステップを刻む。


 「タンスを持ったままダンス!?」


 「これくらい余裕です。天下引っ越しサービスの無双!天下無双のっ!うおっ!」


 無双が床に引いたままの布団に足を引っかけタンスと一緒に勢い余って吹っ飛んだ。


 「ああ!無双さんがタンスとダンスを踊りながら天下無双と叫び布団でふっとんだ!もうダジャレみたいな出来事でダジャレを連呼して自分で言ってながら何が何だかややこしい!」

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