【KAC20255】人助けをしたら転生しました。~ダンススキル習得でダンス界無双するはずが、ポンコツ案内人のせいで大変なことになりました~

ほしレモン@カクヨム低浮上

第1話

 それは、本当に突然の出来事だった。

 夏の、暑い暑い日。


 横断歩道の前でこんな季節だというのに多くの布団を運んでいるおばあさんに、優しく「持っていきます」といった、あの時。


「バス停までお願いできる?」と聞かれた俺はもちろんですと胸を張って答えた。


 嬉しそうに微笑んだおばあさんを見て、俺は得意げに布団を抱えた。


 そして横断歩道の真ん中。そこで前方も全く見えなかった俺は、突っ込んできたトラックにはねられることとなる……。


 こうして俺の17歳の人生は幕を閉じた――。



 ―-―


 ハッ、ここは……。

 目を開けると、そこは真っ白な光に包まれた世界。

 さっきまでの出来事を整理した俺は、一人で納得する。


 ここは死後の世界だ。

 まさか車にはねられて死ぬなんて、なんて運が悪いんだろう。


 でも最後が人助けだったとしたら……何もない人生だったけど俺の意味はあったか。


 思い返すと、バックダンサーにあこがれて、ダンスを習ったりいろいろなダンスを研究して終わった人生だった。

 夢は世界一のダンサーだったのに。

 まぁ、そう言って夢を見るのもつらかったし、これでよかったのかもな……。


 死んだ後って、小説やマンガじゃ転生するけど、俺は平凡な男子高生だ。

 そんなことあるわけない、と思っていたら……。


 うしろの方で、ぶつぶつと声が聞こえた。

 なんだろうと思って後ろを見るとそこには茶髪の黒いタキシードを着た人が立っていた。


 死後の世界なんだ、もう疑問とかなんも浮かんでこねえ。


 何をぶつぶつ言っているんだろうと、近づいてみる。


「……ああ、春野あるひ君で合ってるのでしょうか……」


 ……あってねえよ! 俺の名前は夏野春陽はるひだ。

 そして誰だよそれ! なんで名字も名前も似てるんだよ!


「どうしよう、予定より……1週間も早く……」


 ん、なんだなんだ?


「もう一度生き返ってもらう……いやそんなの上司に怒られる……」


 生き返るだと……⁉


「ああ、おれの不注意で……! おれはなんてことをしてるんだ、なんてことをしてるんだ……!」


 おいおい大丈夫か?


「あああああああああああっ! ――――――ッ!」

「んだとぉっ⁉」


 自分でもありえないくらい声が裏返った。

 いやいやいや、こいつの言ってることがほんとなら、俺は死ぬ予定じゃなかったのに早く死んじまったのか?


「ギャーーーッあなたはいったい誰ですか……!」

「こっちが聞きてぇわ」

「すすすすみません、おれは死神の死後の世界の案内人セカイです……」


 たどたどしい口調に俺は「死神の案内人何年目?」となぜかこいつよりも冷静な頭で聞く。

 こいつ、1年目の新米だったらふざけるなよ……。

いやでもありえんな、このようすじゃ十分に。


「何の麺、とは……。好きな麺はラーメンですが……」

「ちげぇよ、案内人何年目って聞いてんだよ」

「案内銀杏何の麺とは……」


 ……耳遠すぎる、こいつ。ヤバいほど遠すぎる。


 もうあきらめよう。


 そして大事なことをもう一つ。おれは死ぬはずじゃなかったのに何で死んでしまったのかってことだ。


 次はでかい声で俺がそれを聞くと、案内人のセカイは震えながら答えた――。


 ※続く

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