限界突破ダンス

くにすらのに

限界突破ダンス

「んほおおおお!!!! がわいいいいよ゛おおおおおおお!! あの大好きは俺に向けれた言葉あああああ!!!」


 枕を抱きかかえたまま布団の上で悶絶しながらのたうち回る。この姿を醜いと蔑む者もいるだろう。しかし、これはれっきとした一つのダンスだ。


 限界突破ダンス


 推しへの愛が限界を突破した時のみに踊ることができる新しいスタイルだ。一人のオタクがカメラを固定して撮影した姿をSNSにアップしたところ「俺もやってる」「この比じゃない」「挑戦してみるわwww」と話題になり、ついに大会が開催されるまでに至った。


 一人一枚の布団が与えられて、それが自分のフィールドとなる。各自推しへの愛が限界突破する画像や動画を用意して30秒間までそれを堪能。限界突破した時点でパフォーマンスへと移行する。


 初めての大会なので審査基準は明かされていないが、愛の限界突破具合をどれだけ表現できるかが肝だと踏んでいる。


 アクションが大きければ良いというわけではないのはSNSの反応を見れば明らかだ。始めはベッドで跳びはねてその勢いで部屋から走り出した動画はやらせ感が強すぎると批判を浴びていた。


 部屋で一人、推しへの愛で押し潰されそうになりながらも発狂する姿に他のファンからの共感が得られる。


 あまりに奇をてらった行動は過剰なパフォーマンスと捉えられ減点される可能性が高いというのが俺の考えだ。大会に持ち込める物は寝具と布団に乗るサイズの推しのグッズと規定されている。


 抱き枕はレギュレーション違反ではない。それどころか多くの参加者が持ち込む定番のグッズだろう。だが、俺はあえて会場に用意された普通の枕を使う。かなり値が張る抱き枕カバーを買うことができない学生オタクが、お金をかけずに楽しむことができる配信を見て悶絶する。


 数年前の若かりし自分を思い出して今回の大会に挑むを決めた。働くようになっていろいろなグッズを買えるようになった反面、あの頃の推しに一直線だった愚直な感情が薄れているように思う。


 大量のグッズでマウントを取るのではなく、ただ自分の中にある推しへの愛を育み、発散させる。オタクにとって大切な、原点とも言えるこの感情で俺は天下無双を目指す。

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