第9話 三枝、巻き込まれる

三枝が電車でお騒がせカップルに助けられてから数日後。たまたま座った学食の席が2人のテーブルのすぐ隣だった。


こんな特等席珍しいなぁ、と思いながらグループチャットで先輩2人を集合させる。


一条「おお、こんな目の前なんて最高の席じゃんか!でかした三枝!」

二瓶「こればっかりは運だからねぇ…あの2人も学食来る時間が遅いから、決まった席に座る事ないし…」

三枝『あっ、今日は四宮先輩もご一緒だったんですね』

四宮『うん、太一くんが珍しく誘ってくれたの』


キャンパス名物の喧嘩はいつもではないものの、大半がお昼時に学食で発生するイベントだ。そのため痴話喧嘩を楽しみにしている野次馬にとっては、席選びはちょっとした運試しになっている。


そしていつものように慣太がレンの浮気を糾弾し、修羅場が繰り広げられる。しかし今日は初めてと言っていいイレギュラーが発生したのだ。


慣太「俺の事を大事に思ってくれるなら、すっぱり浮気をやめるもんじゃないか?普通」

レン『今の私にとって、浮気は新発売のお菓子やジュースを買って味見する。それぐらい当たり前のこと』

慣太「完全に日常化してるじゃないか!」

レン『…ん?ねぇ、慣太…隣のテーブル、見て』

慣太「まだ話は終わってないぞ!隣のテーブルに何が…って、おや?」


突如2人の喧嘩がピタッと止んだかと思うと、2人の視線は隣のテーブルに向けられていた。もちろん一二三四カルテットの座るメンバーのテーブルだ。


一条「なぁ…なんかめっちゃ俺たち見られてるんだけど…」

四宮『太一くん、まさかまた私に隠れて振井先輩と…?』

二瓶「い、いや流石に違うと思うけど…って三枝さん?」

三枝『……………』


珍しく黙り込む三枝に不思議に思う他の3人。すると痴話喧嘩をしていた2人が自分たちのテーブルの前までやって来た。


慣太「やっぱりこの前電車で会った時の…確か、三枝くんだったか?」

レン『間違いない。あの時のおもちゃ候補生』


話しかけられた三枝に周囲の視線が一斉に集まる。目立ちたくないのに…と思いながらも観念して2人に話しかける。


三枝『あ、あはは…お2人とも、先日はありがとうございました。ところでさっきのおもちゃ候補生って…?』

レン『貴方には見込みがある』

慣太「お、おい!本人の前で何言ってるんだよ⁈すまん、気にしないでいいから…」


一条も二瓶も四宮も、いつの間に仲良くなったんだ…と驚きを隠せない。特に振井恋愛は女友達が基本的におらず、こんな風に三枝に話しかける事自体が驚きだった。


三枝『おもちゃになる見込み…ですか?見込みと言えば、この前振井先輩が慣太先輩に新しいプレイをしてたじゃないですか?』

慣太「あ、新しいプレイ?」

レン『ん…あー、私たちの日常にも触れて慣太を辱めたやつ?』

三枝『そうですそうです!あの時の先輩が女優みたいで格好良かったなぁ、ってだけの話なんですけど』

慣太「や、やっぱりこの子少し変わってるな…」

レン『私が女優…?悪くないかも』

慣太「レンが女優?そ、そりゃ見た目やスタイルは申し分ないし、演技もなんだかんだ出来るだろうが…」

レン『大学の中だけでなく、業界人とお近づきになって味見しまくるのも悪くない』

三枝『え、えっと、そういう意味では…』

慣太「後輩を揶揄うのはやめろって!」

レン『うーん、有名芸能人に上納されて、示談ににして、大金を手に入れるところまで想像した』

慣太「そんな妄想するな!もう本当にレンには何を言っても無駄なんじゃないかと思うようになってきたよ…」

レン『そんな事はない。この前言った通り浮気が本気に発展しない歯止めにはなってる』

慣太「だから浮気自体するのが…!はぁ、もういい…すまないがちょっと外で頭を冷やしてくる」

三枝『せ、先輩?私のせいで変な事に…危ない、フラフラ歩いてちゃダメです!向こうで座って休みましょ!』


心にダメージを負った慣太を支えながら近くのベンチに連れて行った三枝。突然の展開についていけず、一気に静まり返った。そんな中で二瓶が口を開く。


二瓶「…彼氏さんに付き添ってあげなくて大丈夫ですか?」

レン『心配ない。あの子は下心も無いし、純粋に慣太を心配してくれてる。今は私よりもあの子に任せた方が良い』

二瓶「よく、分かってるんですね…」

レン『20年以上一緒にいるから。慣太以外の男とは基本的に一回シて終わりだし。大学に入ってから1人だけメチャクチャ相性が良くて、1ヶ月ぐらい関係を持った事はあるけどそれだけ』

二瓶「そ、そうなんですね…って太一?下向いてそんなに冷や汗かいてどうした…ま、まさか…」

レン『太一?あ、ホントだ。久しぶり』

四宮『あの…先ほどの振井先輩が仰っていた、1ヶ月ぐらい続いた男の人って…』

レン『うん。一条太一。目の前にいる、私が唯一本気になりかけた男』


周囲の空気が完全に凍りつく。本当の、修羅場の降臨である。

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