ラストは三題噺バトル
天田れおぽん@初書籍発売中
第1話
アーデルハイドは戸惑った。
王立学園で開催された舞踏会がバトルになってしまったからだ。
「なんだよ、ダンスバトルって……」
アーデルハイドは学園生たちのダンスっぷりに引いた。
アーデルハイドは七歳。
侯爵令嬢だ。
「王太子さまの相手役にふさわしいのは私よ!」
「ふふふ、お下がりなさい。わたくし以上に王太子さまの相手役にふさわしい淑女はいないわ」
「わたくしのほうが綺麗に舞えるわ! そこを譲りなさいっ!」
いまダンスの相手している令息の立場ぁ~、とアーデルハイドは思ったが、令嬢たちはキラキラ輝く金髪に青い瞳の王太子さましか目に入っていないようだ。
「ツマンナイ。こんなことなら布団に潜って寝てればよかった」
アーデルハイドは呟いた。
今日のアーデルハイドは乗馬服ではない。
なぜかタキシードを着ている。
「誰もわたしと踊ろうとしないじゃないか。『アーデルハイドさま、わたしと踊って~』とか言ってた令嬢たちはどこにいった? こんなことならドレスでもよかったかも」
昨夜は、ダンスだったら天下無双のトリの降臨があり、みっちりダンスの鍛錬をしたアーデルハイドである。
今日はやれる。そんな気がしていた。気がしていたのに……。
「ちぇっ。みんな王太子に夢中じゃないか」
王太子はカッコいい。
だが自分もまけてはいないぞ、とアーデルハイドは思った。
「ん~。こんな時には、何を呼び寄せたらいいんだろ?」
アーデルハイドは右手のひらに刻まれたキラキラと輝く星を眺めた。
「ま、なんでもいいや。ダンスパートナーをここへ!」
アーデルハイドは手のひらの星に願った。
ボンッと大きな音がして白煙が上がる。
そしてミス・ローハイドが現れた。
「え? なんで?」
アーデルハイドは眉をしかめた。
ミス・ローハイドは、彼女の教育係だ。
厳しい教育係がダンスパートナーでは楽しめないだろうとアーデルハイドは思った。
「まぁ! ダンスバトルですか? 懐かしいぃぃぃぃぃぃ」
ミス・ローハイド大歓喜。なぜだ?
「アーデルハイドさま。わたくし、学園生だった時にはブイブイ言わせておりましたの。さぁ、踊りましょう!」
アーデルハイドはミス・ローハイドに手を取られて踊った。
なぜかミス・ローハイドが男性パートを踊り、アーデルハイドはタキシード姿にも関わらず女性パートを踊った。
「おお、なんだあれは!」
「まさか! あれは伝説のダンスキング!」
「ということは、あっちはダンスクイーンか⁉」
ざわ、ざわざわ。
ざわめきは会場に広がっていき、皆はアーデルハイドとミス・ローハイドの回りに集まってきた。
踊り終えた2人を待っていたのは割れんばかりの拍手。
そして鼻の孔を膨らめて頬を上気させているミス・ローハイドの姿。
ダンスキングにはミス・ローハイド、ダンスクイーンにはアーデルハイドが選ばれた。
「なんだこの茶番」
ダンスクイーンの冠を頭に乗せられたアーデルハイドは、ポカンとしながら呟いた。
―― おわり ――
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