天下無双ってそういうことじゃないと思う。

金澤流都

クネクネ、ゴリアテを倒す。

 天下無双である。なにが天下無双なのかというといまクネクネとダンスをしているこの怪しい男が天下無双である。

 クネクネとダンスをしている怪しい男には夢があった。布団の中でスヤスヤと眠り素敵な夢を観ることである。彼は布団の中で寝ることを許されていなかったからだ。


 そもそもなぜクネクネとダンスをしているのかもさっぱり分からぬ。なにやら生まれたときからの定めであるようなのだが、だとしてもなぜそれで天下無双にならねばならないのか、彼には分からなかった。しかし天下無双になってしまったのだから仕方がない。


「あの男、天下無双のクネクネだ!!」


「グワーッ!!!!」


 目の前で次々と敵戦力が倒れていく。男はクネクネとダンスするだけである。しかし天下無双であった。彼は一人で敵軍の集団を薙ぎ倒していた。それはまさにいわゆる一騎当千型戦国時代ゲームのごとく、クネクネとダンスするだけで敵が倒れていく。そしてそこは焼け野原となり、彼はクネクネとダンスしながらふと立ち向かう。


 遥か彼方からのしのしと近づいてくる敵軍の将ゴリアテ。旧約聖書の英雄ダビデのごとく石を投げるのかと思いきや、彼はクネクネと踊るばかりであった。


「おのれ……!」


 ゴリアテはどこも殴られていないのに、口から折れた歯と血を吐き出し、さらにクネクネダンスの波動を喰らって激しく吹き飛び、気絶した。


(ああ、これでも俺はフカフカの布団で夢みることが許されないのか)


 クネクネダンス男はゴリアテに近づき、クネクネ踊ってトドメを刺した。経験値が吸い上げられる。貨幣も吸い上げられる。どうやらここは本当に一騎当千型戦国時代ゲームのような世界らしい。


 クネクネダンス男は絶命したゴリアテを、生ゴミでも見るように眺めてから、クネクネしつつそこを後にした。布団で夢みることを夢見ながら。彼はステージクリア後のショップで(どうやら本当にゲームらしい)、フカフカの布団を探した。もちろんなかった。英雄は寝ていてはいけないのだ。

 こうして彼は一生の大半をクネクネと過ごし、死んでのちも布団になど寝なかった。


 フカフカの布団を夢見ながら戦った彼の伝説は、のちの世にいく世代も語り継がれたのであった。

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天下無双ってそういうことじゃないと思う。 金澤流都 @kanezya

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