なにごともない日常

金谷さとる

さー。飯にしよう

 畳の部屋。

 敷かれた布団を座布団のように扱う大男が樽酒をグイとやる。

「風情があるというかないというか微妙だなぁ」

「礼儀はないよね」

 俺の愚痴に幼馴染みが素早く反応する。

「ぁあ?」

 大男がドスをきかせつつ、幼馴染みに圧をかける。まぁ、気にしないんだが。

 口撃はやめてほしいところである。

「こどもの前でみっともない行動は控えてほしいだけだけど?」

「ひとりは神の使徒でひとりは魔王の転生体だろ?」

 気を使う理由がわからないとばかりに首を捻る友人。

 当の子供達は宿の女将に選んでもらった宿着を着付けしてもらっている。

「子供は子供だろう」

「っめんどくせぇな。子供なんて広い布団に転がして枕でも与えときゃあ元気に暴れてるもんだろう?」

 まぁなぁ。

「メリハリは大事だよ。ダンスだって武術だって常に同じテンポじゃない」

 幼馴染みと友人が意外に相性が悪いらしくめんどくさい。

「あんま騒ぐと女将に叱られると思うなー」

 なんか食いたいのに茶請けはもう食ったんだよな。夕食前に食うとここの料理番の森がうるせーし。

「魔王の転生体に絡まれているのはおまえなのに」

「迷い客拾ったのはおまえなのに」

 おまえら実は仲いいだろう?

「茹であげられて妙な薄っぺらを着せられたぞ! これで立ち合いをしてくれるんだろうな!」

 バンッと襖をぶち倒して現れたのは小柄な少女。

「横! 横に動かすの! まおーちゃん!」

 こないだ拾って幼馴染みに押しつけた迷い客が息をきらせて走ってきた。

「あと、ろーかは走っちゃダメぇ」

 まぁ襖はぶち破れたな。なかなか綺麗な風景画が描かれていたんだけどなぁ。

「横? 開いたのだからよいだろう?」

「よくなぁい」

「天下無双の武芸者を自分は目指すのだ! いざ、尋常に勝負っ!」

「いや、飯にしようぜ。腹減った」

 とりあえず、戦闘は俺不得意なんだわ。

 あとで俺も温泉楽しみたいしなー。

「えいようほきゅうは大切だな! じゃあ鎧を……」

「だーめ。ごはんは宴会場でって女将さんが」

 魔合金製の全身鎧に魔合金製の棍、攻撃に対する自動呪い機能を織り込んだ装備は正直過保護ではあるが、主人と決めた魔王を守る魔物たちってそーゆーとこあるんだよな。

 つーわけで、俺は対戦しませんよ?


「お、宴会場で呑みなおすか」

 友人がのんびりと笑う。

 まぁ、俺としても良案だと思うし。

「妖精ちゃんと試合とか?」

「あんまりにも小さい! 弱いものイジメは好かん!」

『キィイイイイ!』

 妖精ちゃん(ねずみ)が金切声をあげていた。


「うるせぇ」

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