2―2 死体の山
「また君か」顔なじみになってしまった保木刑事が取調室に入ってきて、うんざりしたように祐介を見た。「飛び降り自殺の遺体は出てこなかった。そして今度はトラックに撥ね飛ばされたはずの女性が見当たらない。いったい、どうなってるんだ」
それはこっちが訊きたい、と思いながら、祐介は虚ろな気分で自分の手のひらを見つめた。確かにそこに握っていたはずのマヤの手が消えていた。
「現場にいなかったんですね、彼女」
「君と手を繋いでいた女性が大型トラックに撥ねられたという目撃証言がいくつもある。トラックは交差点内で横転して積み荷の等身大フィギュアを盛大にぶちまけた。まるで死体の山だったよ。最高の笑顔を見せる頭部が転がって来たせいで、通行人が何人も失神して倒れた。勘違いした誰かが何十台も救急車を呼んだから、怪我人を収容できてちょうどよかったけどね」保木はそこで言葉を切って一つ息をつき、体を乗り出した。「それなのに、肝心の被害者がどこにもいない。間違えて処理したのかと思って、積み上げてあったフィギュアを全部崩して確認したが、やっぱりいなかった。しかも、路面には血の一滴もないんだ。雨だからといって、簡単に流れてしまう量ではないはずなんだが」
「はあ、そうですか」
軽い興奮と共にまくし立てる保木の声を聞きながら、祐介はまだぼんやりと手のひらを見つめていた。
保木は目を細めた。
「一緒にいた女性の名前ぐらい教えてくれてもいいだろ」
「マヤ」
「名字は?」
「知りません」
ふん、と息を吐き、保木刑事は椅子に座りなおした。
「気をつけろ。君は、二回も巻き込まれて死にかけている」
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