1―3 消えた?
「なんで心中なんかしようとしたんだ」
コンクリートで囲まれた無愛想な部屋だ。湿っぽくて薄暗い。他に空いている所がなかったらしく、取調室に連れてこられた。
祐介の父と同年代ぐらいの、温厚な感じのする刑事が祐介に尋ねた。彼は、
「心中なんかしませんよ。彼女とはあの場所で出会ったばかりだったし」
話がややこしくならないよう、少年の頃、湖で経験した話はしなかった。
「君が女の人と一緒に飛び降りようとしたのを、大勢が見ていたんだよ?」
「僕は飛ばなかったでしょ」
「止めてくれた人がいたからだ。なぜ飛ぼうとしたんだ」
「分かりません」
本当に分からなかった。普通に考えて、そんなことをするはずがない。座っているだけでも恐怖を感じる崖の上から飛び降りるだなんて、想像もしなかった。そう、あの瞬間までは。なぜだろう。マヤが飛んだのを見て、自分もそうするべきだと思ったのだ。
「なんで心中なんかしようとしたんだ」
およそ一時間ほど同じ言葉のやり取りを繰り返したのちに、ようやく解放された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます