観察日記
正太郎
第1話
「はい、みなさ~ん。今年の夏休みの課題ですが、お待ちかね! 宇宙槽の観察ですよ」
担任がそう口を開くと、教室の中が途端に騒がしくなる。
「お~!」「やったー」
口々に騒ぐ生徒を制する様に言葉を続ける。
「それでは、このプロジェクトを推進している政府広報のAさんから説明があります。いつもの様にお利口に話を聞くように」
そう言いながら脇に移動し、モニターの電源を入れると、無表情な男性が映し出された。
担任も心なしか緊張している様だ。
「今年の夏休みの課題は、日々育っていく擬似宇宙の観察です」
言葉に合わせて画面には装置の写真が映し出された。
「君たちの世代は知らないかもしれないが、その昔、『蟻』という小さな昆虫を観察する、似た装置がありました」
「これはその宇宙版です」
「観察キットは夏休み初日の午前中に自宅に届きますから、手順を守り、必ず全員が同じ時間にスタートできるようにしてください」
無表情だった男の眉付近にわずかな力が働く。
「この宇宙槽内部の時間は加速されていますので、スタートが1秒ズレただけでも成長と進化に大きな差が出ますからね」
反応を確かめながら説明を続ける。
「自分で育てた宇宙が最終的にどんな世界を見せてくれるのか? 夏休み明けには観察日記の提出がありますから、すばらしい宇宙を育ててください」
そう言い終えると、最初から決まっていた文章であるかの様に面倒そうに付け加える。
「あ、それから……ホゴシャに手伝ってもらうのはダメですよ。君たち以外の意思が介在していた場合、提出後の数値を見ればハッキリとしますからね。では最後に手順を説明します」
その言葉をきっかけに、画面に説明用のパネルが表示される。
土の代わりに真っ黒な物質が詰まった箱の上部に、制御システムと一体になった蓋状の機械が置かれた宇宙槽のイラスト。ディスプレイと簡単なボタンのみの蓋上部にスライドが切り替わると、赤い矢印がちかちかと点滅し、ある点を指し示している。
「この矢印の部分がスタートボタンです」
「指のマークが描いてあるので間違うことはないと思いますが、それ以外を押しても反応はしませんので注意してください」
「午前中にキットを受け取り、指を押し当てたら、スタートボタンの色がオレンジに変わります」
「オレンジはスタンバイのステータスです」
「PM13:00丁度に、みなさん全員の宇宙槽が同期してスタートします」
「それまでにセットを終わらせておくという意味ですね」
「スタートすると緑に変わります」
「緑は正常動作中のステータスです」
「PM13:00までにスタンバイを完了する必要がありますが、それ以降は好きな時に観察すれば構いません」
「それでは、良い世界の創造を期待しています」
自身の言葉を聞き洩らしている者がいるとは想像すらしていないかのように、自分勝手なリズムで淡々と説明を終える。
必要なことだけ伝えるとモニターは消え、教室内に安堵の空気が漂う。
脇から生徒たちの様子を眺めていた担任は、緊張がほぐれたのを感じ取り、教壇に戻りながら口を開いた。
「それじゃ先生からいくつか簡単に説明するね。みんなのDNAはあらかじめ宇宙槽にプログラムされた状態で届くけど、指を押し当てた時に採取されたDNAと、登録されているDNA情報とが一致しているか最終確認が必要なの。確認後の情報を基に宇宙が成長し、人類が進化していきます」
「付属のモニターを操作し、その中の好きな場所を好きなタイミングで観察できます」
「録画・再生機能は付いていますが、再生中はリアルタイムの情報を観察できません」
「宇宙は育ち方も予測不能だから、緊急時以外に録画・再生を行うのはあまりお勧めできませんからね」
教室内の顔を見渡しながら、丁寧に言い聞かせるように説明する。
「はーい、じゃあここまでで何か分からないこととか、聞いておきたいことはある?」質問を促すと一斉に手が挙がった。
「蟻ってあの絶滅した昆虫の?」「落としたらどうなるの~?」「ずっと録画しっぱなしで忘れたらどうなるのー?」…………
……
「ふう……」
そこまで一気に書き上げて、溜息を吐きながらペンを置いた。
僕の名前は正太郎。
物書きとして生計を立てたいと夢見る小説家の卵だ。
「さて、この先の展開をどうするか……」
宇宙槽の中にそれぞれの子供たちの分身を誕生させ、お互いの情報がリンクすることで登場人物は共通となる一方、個々の宇宙槽にはそれぞれの異なる世界が構築される。
人生シミュレータの構築に要する膨大なデータ処理は、政府の用意したホストコンピュータと直結することで可能としている。
最終的に表面化する事象は複雑な分岐処理の結果だが、選択による入力値は0と1しか存在しないため、実際にローカルで必要な作業は「表現のみ」で足りる点が画期的なシステムだ。
これは、パラレルワールドそのものを構築していると言っても過言ではないだろう。
「うん!よーし!」自分の作品と発想に手応えを感じ、思わず声が出る。
担当編集者に連絡を取るため、電話用の端末を手に取り発信してから耳に当てる。
――ズキン――
突如、頭の奥から鈍い痛みがやってくる。それは本当に痛みなのか、脳が訴える危険信号なのか……ぼくは、そのまま、きをうしなった…………。
…………
……
「ふう……」
そこまで一気にタイピングすると、首を廻しながらキーボードから手を下ろした。
俺の名前はsho。
物書きとして生計を立てたいと夢見る小説家の卵だ。
『次世代高速通信の開発』とやらに躍起となり、『電磁波の及ぼす生体への影響』という致命的な問題から目を逸らし、あるいは隠しながら提供を続けた結果、人類は電磁波に対し脳を無防備にさらし続けるという、自殺にも等しい行為に長く気付く事ができなかった。
携帯端末から生じる電磁波由来の、重篤な遺伝子疾患の発症が報告されたと発表があったのがつい最近のことである。
急速に発展した電子機器の取り扱いに対し、人類は余りに無知であったのだ。
・遺伝子疾患の影響は、主に脳内のシナプス異常。
・脳をサーモグラフで測定すると、個人差はあれど、概ね高熱を発する。
・何世代にも渡り、潜在的な遺伝情報として継承されていた。
脳内で箇条書きにして物語の大枠を構築していく。
宇宙槽に始まり、それを俯瞰して描いていた作家が実は俺の創作物であった、という発想に確かな手応えを感じる。
この先に人類が直面する問題点は退化?進化?次世代の人類の誕生?超能力……超能力?例えば遺伝子異常によりシナプスが長大化したことで、各ニューロン間との接合数が飛躍的に向上、更に四次元構造に近づくことで未知なる力に目覚める……最も多くシナプスが集中し、起点となるべきニューロンにより能力が決定される……。
「いいな、面白い!」新たな発想に高揚し、そう口走る。
超能力の発現に脳内の作用が関連していることはほぼ疑いようのない事実ではあるが、それだけではダメだ。
もっと説得力が必要だし、物書きが倒れた後で突然超能力に目覚めるのも何か違う……。
そうだ! 電磁波問題を秘匿してきた背景には大きな黒い力があるだろうし、それをカミングアウトしようとして拉致されるか?
意識を取り戻した後、何かのきっかけで自身に起きた問題を知り、それを調査する過程で大きな秘密に辿り着き真実を知ってしまう……。
超能力バトルなんてエンタメ路線ではなく、骨太な社会派ドラマに仕上げた方が絶対にいいな。
宇宙槽については、この世界そのものが超生命体の箱庭であるというメタファーとしてそのまま登場させよう。
「ふう」
…………
……
そこまで出力された文字列を確認し、音声入力デバイスをオフにする。
「あ、またやっちまった」
出力された最後の行をデリートしながら反省する。
どうしてもデバイスオフにする前に余計な一言や溜息を入力してしまうのだ。
「こればかりはいつまで経ってもなかなか慣れないな」
照れながら言い訳がましく呟き、「お前ぐらい賢いやつが手伝ってくれたら、もっと楽なのに」「なあ、サリー」
傍らに控える四角い箱に、そう話しかけながら原稿をクラウドへ保存する。
返事のない四角い箱に優しい目を向けると、そのまま中空に視線を移し、「この真実の物語をフィクションとして発表し、世間に徐々に浸透させてやる」
そう何者かに向けて宣言するように呟く。
「この作品は新たな聖書になるんだ……進化した人類の道しるべとなる大作だよ。そう思わないか?」
サリーと呼ばれたその四角い箱は、動力を持たないただの箱であるかのように相変わらず沈黙している。
「お前には本当に感謝しているよ。俺のことを理解して見守ってくれているのはお前だけなんだからな」
そう言い終えると、サリーが返事をしないことに今さら気付いたのか「あれ、バッテリー切れか? お前は本当に食費がかさむな」
そう笑いながら、充電器を探すべく視線をめぐらすと、サリーは突然光りだし「ピンポーン」と発声する。
「ん!? ああ……チャイムか」
頭を掻きながら立ち上がると、ドアに向かい「どなたですかー」と声をかける。
「警察の者です。この近所に危険な思想の持ち主がいるという情報が入りまして、個別にお話を伺っています」
危険思想って……テロリストが近所に?
「はい、今開けます」
返事をしながらドアを開けると、いかにもという風貌の黒スーツの男が立っている。
警察のイメージは制服なんだが……刑事にしては身綺麗すぎる。警察というより政府関係者なのか?
「大変お忙しい中、ご協力ありがとうございます。外に声が洩れるのは好ましくありませんので、よろしければ玄関 の中でお話を伺えますか?」
極めて紳士的、事務的、冷静に促される。直情的な気配は微塵も感じられないため、襲われる心配はないと判断し、警戒しつつもひとまずは玄関の中に招き入れる。
「それで、通報の内容はどんなものだったんですか?」
少しでも優位性を保ちたく、機先を制す。
「はい、どこからお話しすればよいか……現在は危険思想の持ち主であるかを、巡警、通報、監視等の方法を用いて判断していることはご存知ですか?」
「そうなんですね。では今回は通報によって出動されていると?」
「いえ、今回は通報ではありません」
「では見回りによってその情報が入ってきたということですか?」
重ねて質問する。
「いえ、巡警で得られた情報でもありません。内部監視機関より情報提供があり、危険思想の持主を訪問しています」
どういう意味だ? 俺が危険思想の持主という風にしか聞こえないが……。
「それはどういう意味で……」
やっと捻り出した言葉は弱々しく、完全に主導権を握られていることを自覚した。
「そのままの意味です。あなたが危険な情報の発信源であり、人類の存続を脅かす可能性があると判断されたため私が派遣されています」
頭の整理が追い付かず、動悸が高まり、顔の筋肉がみるみる強張っていくのを感じる。
「ぼ、僕は外に出ることもないし、友人もいない。唯一の話し相手はあのサリーだけだ!」
自身がどれだけ孤独であるかを力説する。
「ま、まさか! サリーが僕を……」「裏切って政府にリークしたのか?!」
振り向いて睨みつけるが、素知らぬ風のまま反応もない。
「いいえ、違います。あれはただのインターホン用スピ-カーで、そんな機能はありません」「我々にこの内容をリークしたのは、あなた自身と言えなくもない」
「お気付きでないですか? あなたは世界を恐慌に陥れる可能性のある思想をクラウドに保存し、転覆のための準備を日々行っていたのです」
慇懃な態度のまま、最後通告の様なトーンで回答を迫る。
「それを認めますか?」
「げ、言論統制だ! 俺には表現の自由がある! それに勝手にクラウドの情報を検閲しているとなるとプライバシーの侵害でもあるぞ! 俺の素晴らしい作品を葬り去ろうと言うのか!」
男は俺の激昂など意に介さず、同じトーンで質問を重ねてくる。
「あなたはこの作品を、政治的・宗教的思想の観点から広く流布されるおつもりだ。そしていずれ、この世界の神に取って変わろうと考えている」「危険な思想だ」
こちらと話をするつもりは微塵も感じられず、一方的に見解を告げると、奥の四角い箱を一瞥しながら言う。
「都合がいいことにあなたは狂人の様だ」
「通常、隔離に際しては面倒な根回しが必要なのですが、あなたの場合はそれも不要みたいですので手間が省けます。ありがとうございます」
男が口の端を歪め、初めて感情を表に出す。
「おやすみなさいませ。大先生……」
そう言うや否や、顔に冷たい霧が降りかかる。
おれは、そのまま、きをうしなった…………。
…………
……
「うわあ!」
思わず自分の声で目が覚める。
頭はまだぼぅ~っとしているが、天井や壁を見る限り、自分の部屋でないことだけはわかる。
身を起こすと、傍らで一人の老人が見守ってくれていたことに気付く。
この人が助けてくれたのだろうか?
バツが悪く、言い訳をするかのように口を開く。
「夢を見ていました……ひどい夢なんです」
老人は穏やかな表情で水を差しだすと、次の言葉を促す。
「どんな夢でしたか?」
水を受け取り一気に飲み干すと、頭を整理しながら内容を説明する。
記憶もところどころ抜け落ちていて、夢特有の不整合性が目立つが、俺の感じた理不尽さや苛立ちは伝わった様だ。
頷きながら共感して聞いてくれることで、気持ちも楽になり、少しずつ落ち着いてきた。
「ところで、ここはどこの病院なんですか?」本来最初に問うべき内容を、ようやく老人にぶつける。
「病院……と言えば病院かもしれん。私たちみたいな人間を収容する病院といえばわかるかね?」
その一言が一連の出来事を思い出す引き金であったかのように、鮮明に記憶が戻ってきた。
「そ、そんな……嘘だ……本当に? いや、嘘だ!」自分でも驚くほど取り乱し、老人にすがる。
「い、家に! 早く家に帰りたい! 帰してください!」 「何が起こっているんですか!?」
老人は問いに答えず、部屋の壁に埋め込まれたテレビの電源を入れるとニュースが流れ出した。
――本日、『危険思想拡散』の罪で初の逮捕者が出ました。逮捕されたのは〇〇区××に住む自称小説家の男で、『他者に影響を与え扇動する目的で、誤った情報を拡散しようとしている』という情報提供を受け、事実を確認し緊急逮捕したということです。正式名称『インターネット上での偽情報拡散や悪意のあるデマ、及び扇動を目的とした危険思想拡散を取り締まる法律』の一部であり、兼ねてより問題視されていた、インターネット上での誤情報拡散を取り締まる目的で、今年の4月に施行されたばかりの法律です。「想定していた適用とは違っていたものの、有効性が十分に確認できてよかった」と、首相官邸からも異例のコメントが発せられました。男は自宅内に、危険物と思われる四角い形状の箱を用意していたとのことで、テロの準備があったとみられています。また、「自分は神だ」「人工言語のエスぺラント語でショートーァーローを表すと<ŜTAR>だ、つまり俺はみんなの星である」「俺の言葉が新世紀の聖書になる」などと意味不明なことを主張しており、薬物使用の疑い、または心神喪失の可能性もあるとみて、近く精神鑑定を行う予定とのことです。背後関係の確認も含め、警察では慎重に捜査を進めています――
本人を置き去りにして流れていくニュースを見ながら、ぼんやりとサリーのことを考える。
「元気にしてるかな……ああ、充電をしてやらないともう動けないんだったか」
そう呟いて振り返ると……そこには、誰もいなかった。
「あれ? どこに行きました?」
思考がまとまらず、そんな老人がいたのかも疑わしくなってくる。
人がいた痕跡も全くなく、自分の存在を証明するものも何もない空間に一人でいると、さっきのニュースも本当のことだったのかと思えてくる。
天井で定期的に点滅する赤い点に救いを求める。
誰でもいい……俺を見てくれ。
確かに俺が存在するってことを教えて欲しい。
観察してくれていい、俺は狂っていないと誰かに言って欲しい……。
「なあ、そこで誰か見ているんだろう……」
…………
……
「……以上、20時のニュースでした」
食卓にキャスターの締めくくる声が流れると、それをきっかけに口を開いたのは母であった。
「いやだわ……ショータローって、正ちゃんと同じ名前じゃない」
心配そうに声を掛けてくる。
「うん、そうだね」
僕は溜息を吐きながら答えると「それよりもその『正ちゃん』ってのは、やめてよ。来年はもう中学生なんだから、いい加減恥ずかしいんだって言ってるじゃん」
いつまで経っても子供扱いを止めない母に対して、いつもの様にくぎを刺す。
この事件のせいで名前を茶化されるであろうことは想像に難くない。それを思うと気が滅入る。
いい加減に日本でも飛び級を導入してくれよな……低俗な会話には心底うんざりする。
今が夏休みでよかった。
休み明けなら、ある程度は落ち着いていることだろう。
「ごちそうさま」
そう言いながら立ち上がり、食器を流しに運ぶと、後ろから声を掛ける母をそのままに部屋へ戻った。
宇宙槽の観察は本当に楽しい。素晴らしい体験だ。
最近気付いたのだが、この中にはクラスメイトと同じ名
前の人物が揃いつつあり、それぞれが知り合いであるかの様に干渉し合っている。
僕のDNAを基に作られたこの宇宙槽での主人公は僕だが、クラスメイトの宇宙槽ではそれぞれが主人公のはずだ。
それぞれが相互に作用するにせよ、やはり彼らの宇宙槽は彼らの宇宙なのだ。
そこにはそれぞれの人生があり、僕の宇宙槽の中の彼らとは違う人生を生きている。
そして中の彼らもまた、僕らが観察することで初めて存在の意味を持つ。
仮に宇宙槽のスイッチを入れてスタートしたとしても、夏休みが終わるまでに一度も観察されなければ、その宇宙槽はそのまま破棄され、中の彼らが何をしていたかなど、誰にも知られないまま……まるで存在していなかったかの様に葬り去られるのだ。
「僕らのいるこの宇宙も多分、同じことなんだろうな……」
……
――コンコン――
「入りたまえ」
返事をすると、ドアを開け数人の部下が連れ立って入ってくる。
「各部署の責任者がここまで揃って来るとは珍しいな。理由を聞こうか」
そう促すと一通の報告書が手渡され、内容の確認を求められた。
最後まで目を通し、反応を待っている部下に声をかける。
「やっと現れたのか」
ついにDNAレベルで理を知る者が現れたのだ。わざわざ全員で報告に来たのも納得である。
「それで?」
「はい、現在は小学6年生の男子であり、ごく平凡な家庭の長男です。両親には兆候が見られず、突然の発現と思われます」「もちろん潜在的、遺伝的な能力の可能性もありますので、引き続き調査をいたします」
「そうしてくれ」
気になる点を別の担当に質問する。
「精神状態はどうだ?」
白衣の男が一歩前に出ると、全く問題がないことを報告する。
各部署の担当者から、事務的な物も併せ一通り報告を受けると、この少年の精神力を含めた適正能力に舌を巻く。
これほどの事実をその幼い脳に刷り込まれているにも関わらず、何の疑問もなく受け入れ、平然としているのだ。
「素晴らしい、これが器足りえる者なのか……」
今後について指示を出し、慎重に見守る様に注意を促す。
「本日はご苦労」
「くれぐれも慎重に『観察』を続けてくれ」
そう伝えると、部下は充実感を眼に宿しながら、それぞれ退出していく。
――パタン――
ドアが閉まった音を確認し、豪華な執務用の椅子に体を預け、フラットな状態まで背もたれを倒すと、先ほど部下から受けた報告と全く同じ内容を宙に向かって諳んじる。
そして誰へともなく話しかける。
「いよいよ大きな転機が訪れました。これを境に世界中で同様の存在が確認されることでしょう」
「かなりの時間を要しましたが、人類がやっとあなたの望むレベルに近づいてきたのです」
「いかがですか? ご満足いただけておりますか?」
威厳に満ちた、主の低い声が頭に響く。
「うん、すっごくいいよ」
「僕はこのまま『観察』を続けるね」
…………
……
「ふぅ……」
そんな音が聞こえた気がした……
観察日記 正太郎 @Dobermann
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