樹菜の夢

岩田へいきち

樹菜の夢



あの夢を見たのは、これで9回目だった。



 こんな夢の話が何故9回目かと分かったかというとあまりにリアルで毎回同じで、決まって梨美菜が学校も部活も休みでお弁当が要らない日の日曜日の朝方に必ず見ているから今朝も見たなと今年になってからお弁当がいらなかった日曜日を数えてみたのである。どんな夢かというと



-ーなんだか蒸し暑い。汗をかいている。汗臭くないだろうか? と思いつつ、目を覚ますと目の前に向こうを向いて寝ている樹菜がいる。その向こうに、梨美菜とママが立っているのだ。

ぼくのイビキで起こしてしまったんじゃなかろうかと気にしながら



「樹菜、帰ってたんだ?」



と声をかける-ー



と、いうところで、いつも目を覚ますのだ。そして、今日はお弁当作らなくていい日だったと思いながらまた少し眠るのだ。



そして、今日は3月16日の日曜日。今日も入れて、今年は、9回も日曜日に梨美菜は、試合も学校もなく休みだったことになる。逆に言うと今年の日曜日は、まだ2回しか大会や練習試合が行われなかたことになる。



 ここは、梨美菜が県外のバドミントンの強豪高校へ通うために住んでいるアパート。ぼく、ヒロシは、何故か家政夫となって、潜り込んでいる。最初は、姉の樹菜を一流のバドミントン選手にすることとそれにどうにかして関わって樹菜と一緒に暮らす方法はないかと考えた必殺技のつもりだったが、これがママの協力もあって、思った以上に上手くいき、梨美菜も続けてこのアパートへやって来た。樹菜は、昨年の春から同じ県内にある企業の一流バドミントンクラブに入部してクラブの寮にも住んでいるからもう梨美菜と2人きりである。 



  私立高校も先生たちの働き方改革が始まっているのか? それとも週に1日くらいは、完全休養日をとった方が身体づくりには良いという考え方が広がってきているのか。いずれにしてもぼく、ヒロシも休めるのは有難い。家政夫という仕事は、いつでも休めそうに思われるが、なかなかそうはいかない。朝からの洗濯や掃除が遅れると夕食の時間7時半に間に合わなくなってしまうのである。

会社退職とサッカーの監督引退後の仕事として気軽に、それよりも、樹菜と一緒に住めるという正に夢の様な話だと喰いついてしまったが、何分、もう年寄りの域に入ろうとしているぼくには辛い仕事なのである。最初は、樹菜が高校生の間だけ、3年間の予定だったが、梨美菜も卒業するまでということで、とりあえず、1年延長していた。もう、3月。あと1年延長するかどうかをそろそろママと話し合わなければならない。今年になって、樹菜の夢を見てしまうのは、梨美菜と2人で暮らすようになって、次第に梨美菜に惹かれつつあるぼくの心を樹菜が戒めてるのかもしれない。





ピンポーン







「あっ、樹菜」



「ただいま〜、ヒロシ、梨美菜」





樹菜……









終わり

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樹菜の夢 岩田へいきち @iwatahei

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