回帰王太子の夢調査
みこ
回帰王太子の夢調査
あの夢を見たのは、これで9回目だった。
君が死ぬ夢だ。
それも、いつだって、少しずつ違う。
君の姿も、君の言葉も、周りの人間も。
9回見て、共通するのは、僕のそばに見知らぬ令嬢がいる事だ。毎度、同じ令嬢が。
この時期に縁起が悪い。
王太子である僕は、貴族連中とは勉学を共にしない。
婚約者がいる現状、特に同じ年齢の貴族達と常に会う必要もない。
それは、僕の婚約者である公爵令嬢も同様だ。
けれど、流石に何も交流がないというのもまずいので、貴族の令嬢令息が通う学園へ、今年は3ヶ月も行く予定なのだ。
ちょっとした交流とはいえ、歓迎パーティーから始まり、イベントは目白押し。
そんなイベントの直前に、そんな縁起の悪そうな夢を見るなんて、嫌なものじゃないか。
それも、婚約者が殺される夢だ。
夢の内容は、いつだって同じ。
君の首にギロチンが落ちる夢。
けれど、見るのはいつだってそれだけだ。
状況は違う。セリフも違う。どうやら殺される理由も毎回違うらしい。
けれど、それ以上の情報はなく、ただいつだって、僕は王族の席でその悲劇的な演目を見ているだけに過ぎない。
こんな事、当のローズに相談するわけにもいかないしな。
隣で勉強しているローズの横顔を見る。
婚約してから3年。
教科によっては、こうして城へ出向いてもらい、共に勉強をしている。
もちろん交流を兼ねてのことだ。うちの親どもは、ただの政略結婚ではなく、夫婦で仲良くがモットーらしいからな。
こちらとしては、婚約者自体は勝手に決めておいて恋愛だなんて何を寝ぼけたことを……としか思わないわけだが。
とはいえ。
親の決めた結婚ではあるが、僕自身、別に異論があるわけではない。
ローズはそれほど最適だった。
大人達に囲まれて育ち、少々箱入りすぎるきらいはあるが、美人で頭も良く、キレイな声のこの子を、嫌いだという人は少ないだろう。
けれど、それほど楽しく会話をしたことがあるわけでもないこの子に、そんな夢の話をしたら、僕が婚約破棄を望んでいるんじゃないかと思わせてしまうだけだ。
けれど、そんな夢の話を、ローズにした方がいいんじゃないかと思わせる出来事はすぐに起こった。
「…………!?」
学園へ来て3日目。
一人の少女が、僕の前に立ち塞がったのだ。
それも、その顔には見覚えがある。
まさに、あの夢の中で、僕の横に立っていた令嬢じゃないか。
本当に居たんだな……。初対面、だよな……?
同年代の貴族令嬢なんて、そうそう忘れるはずはないと思うのだが……。
そして、あろうことか、その令嬢は、持っていたバスケットからビスケットを僕に差し出したのである。
「これ……私が作ったハーブ入りビスケットなんですけど……。もし良かったら」
……よくはない。
いいわけない。
得体の知れないものを僕が口にするわけにはいかなかった。
そんなものを直接渡してくるなんて不敬だろ。
とはいえ、交流は持たなければ、とか、学園は個人同士の付き合いだから、とか、頭の中でグルグルと思考は回る。
手を出しそうになったところで、もしかして、と思う。
これに騙されて、あれが正夢になること、なんて、あるか……?
「あ、ああ。ありがとう」
と、ビスケットをもらい、ハンカチに包んでポケットにしまった。
女生徒は、目の前でにこやかな笑顔になる。
……考えすぎ、か?
けれど、後で成分分析を頼んでみると、杞憂ではなかった事がわかる。
“ハーブ“は”ハーブ“でも、幻覚作用があり思考能力も低下する毒草だったというわけだ。
翌日、僕は、
「送るから」
と言って、同じ馬車に乗せたローズを、そのまま城へ連れ帰った。
「ど、どうなさったのです?殿下」
キャラメルのような落ち着いた色のローズの瞳が揺れる。
「ごめん。けど、話があるんだ。内密に」
そこで、真剣な話なのだと悟ったローズは、そのまま真剣な顔つきになった。
……ああ、この子は授業の時、僕の横でこんな顔をしていたのか、なんて思う。
そして僕は、ゆっくりと9回も見た夢の話をローズに話して聞かせた。
ローズは青ざめた顔こそしたものの、その夢の話を真摯に受け止めてくれる。
「不思議な話ですが……、その令嬢というのが、あの髪の短い小柄な令嬢ですのね?」
「ああ」
「その……3度目の夢で財務大臣をやっていたという茶髪の眼鏡の若者、わたくし、知っているかもしれませんわ」
「なんだって?」
「学園で挨拶をしに来たご令息が、そんな風貌でしたの。夢の内容を、もっと詳細にまとめましょう」
ローズのその一言で、僕達の夢調査は始まった。
「財務大臣は2度も変わっているね。ここはキーポイントかも」
「もしかして……、眼鏡でそばかすの平民のお嬢さんを見ませんでしたか?赤毛で……」
「あ、5度目の夢で詰め寄ってきたアイツか?」
「ええ。若いですが、やり手の記者ですわ。商会の横領の記事を読んだ事があります」
「市井の新聞まで読んでるのか」
「それが……。騎士の間で流行っているらしくて……」
真剣な話をしている時に、不謹慎なんじゃないかと思ったが、つい、じっとローズを見てしまう。
……僕の隣に居た子は、こんな女の子だったんだな。
「ふっ」
とつい、笑えてきてしまう。
「……なんですの」
少し不満げな顔。
「いや、ローズが真剣に聞いてくれて、嬉しかったんだ」
すると、ローズは、少し照れた顔で睨んでくる。
「当たり前ですわ。殿下の話ですもの」
ああ。かわいいな。
この子がいれば、僕はなんでもできる気がする。
夢のようにはならないように。
僕らで未来を変えていこう。
回帰王太子の夢調査 みこ @mikoto_chan
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