江戸の出島〈KAC2025〉
ミコト楚良
江戸の出島
正月の半ばに
長崎屋は幕府御用達の薬種問屋だが、カピタン参府の間は宿となった。江戸城に彼らが登城し拝礼献上するのは毎年、三月。長崎屋は、その先導役をも仰せつかっている。
長崎奉行所の役人から任命される検使二名、通弁や会計を担当する
最初は六十人前後であった。それが、年々、人数が膨れ上がっていくようだ。
「今年も壮観」
「いや。しみじみとしてんじゃねぇよ。これからだよ」
かめは、使用人たちと共に、ばたばたと廊下を行き来していた。
「
番頭が青ざめて駆け寄って来た。
「随行員、増えてますっ」
そこへ
「布団が足りてねぇと見た。持って来たよ」
「ありがた
かめは、姉貴分の仕事振りを讃えた。
カピタンの滞在中は、とにかく気が張る。
総じて代々のカピタンは、敷布団厚目がお好みだ。あちらのお国では、戸板に脚を四本つけたようなようなものに布団を敷くという。似たようなものを建具師に頼んで作ってみたが、しまっておくのにえらく場所を取る。
カピタンらは、ひと月は逗留する。
彼らは商人だ。海の向こうで高値で売れる商品を吟味する。それ専用の商人が出入りする。カピタンと直接交渉することはない。お役人が仲介する。
幕府のお偉方は、この国を宗教で懐柔し植民地にしようとした
誰にとっても海の向こうの品々は、魅力的だった。
今年のカピタンも、
そして、火事が多いこの江戸で、長崎屋が被災するたび、再建のための支援の手を差し伸べてくれるのが、
――もう、お望みあれば、なんでも言ってくだせぇ。
「でぇ。
江戸には、いくつか道場がある。カピタン逗留中、警護にあたる
「だんす? いや、堪忍。手をつなぐなんて。あたしゃ、主人がいる身です」
カピタンが差し出して来た右手の甲に、かめがとまどっていると、
一通り教えてもらっといた。目が回った。
(あたしも、すっかり
ほら。今日もそぞろに、お武家さまに、お医者さま、お学者さまがやってくる。
カピタン一行がやってくると、長崎屋に人が集まる。春が来る。
「
「あいよっ」
呼ばれて、かめはたすきを締め直した。
江戸の出島〈KAC2025〉 ミコト楚良 @mm_sora_mm
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