夢あるいはケーキバイキング

汐留ライス

第1話

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。


 なんて言ったところで1回ずつ数えてたワケでもないし、実際のところ8回目や10回目、もしくは初めての可能性だってある。でも夢の中ではあっ、これは9回目だっていう確信があった。なので便宜上9回目ってことにしておく。


 夢の中でおれは、どこの国かもわからない山道を歩いてる途中だった。おれの3メートルぐらい前を、ガイドのベニョイさんが歩いてる。おれはベニョイさんに置いて行かれないように追いかけながら、背中に向かって尋ねる。


「どこへ向かってるんですか」


 そう、おれは目的地を知らない。記憶ではいつも山道の途中から始まって、いつの間にか目が覚めてるから、過去の8回でおれがどこに着いたのか、もしくは着かなかったのかわからない。あるいは同じように見えて、毎回違う道なのかもしれない。


「行けばわかります」


 わからないから聞いてるのに、ベニョイさんは答えながらずいずい先へ行ってしまい、聞き返してる余裕がない。何とかして追いつく方法はないもんかと思ってたら、ちょっと道をそれたところに大江戸線ぐらい長いエスカレーターがある。


 しめた、これを使えば楽に上へ行けるぞ。そう思って乗ろうとしたら、直前でベニョイさんに止められた。


「それに乗ってはいけない」「えっ」「乗ったら死にます」


 でも他の人も乗ってるし。そう反論しようとしたら上から悲鳴。見れば段の途中にさっきまでなかった口みたいな穴がぽっかりあいてて、乗ってた人たちは逃げることもできずに穴の中へと呑みこまれていく。


「野生のエスカレーターです」


 そしていつの間にか周りの景色は山道から中学校の廊下になってて、起きてから思い返すと実際に通ってた中学校とは構造が全然違うんだけど、夢の中ではそこを確かに中学校だと認識してるのだった。


 異様に長い廊下をしばらく無言で進んでると『困惑室』って書かれた部屋があって、ベニョイさんは迷いなくふすまを開けた。


 すると中はファミレスぐらいの空間で、ケーキバイキングの真っ最中だった。おいしそう。


「ここが目的地ですか」「違います」ベニョイさんは見るからに困惑してる。


 特にオチはない。でも夢ってそういうもんだよね。

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夢あるいはケーキバイキング 汐留ライス @ejurin

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