28歳国語教師。異世界転移して魔法少女になったので元彼の事を忘れて自由に生きます。
兎束ツルギ
第1話 魔法少女、爆誕
「……え?」
目の前の光景を理解するのに、数秒の時間を要した。
同棲している部屋。
わたしの名義で借りている部屋。
鍵を開けて中に入ると、ベッドの上でありえないものが目に飛び込んできた。
シーツが乱れ、汗ばんだ男女の体。
聞き覚えのある男の息遣い。
甘ったるい女の声。
そして・・・
「・・・あ。し、
ベッドの上。
ついさっきまで行為の真っ最中だったようで、彼の額には汗がにじんでいたし、女はまだ恍惚とした表情を浮かべていた。
そして、その女が言った。
「ねえ、だれ?この人・・・」
(おいおいおいおいおい。)
何が「この人」だ。
わたしは、この部屋の持ち主で、こいつの「彼女」だったはずなんだけど。
静かに、カバンからスマホを取り出し、パシャリ。
一枚だけ、証拠写真を撮る。
晃が慌ててベッドから飛び降り、パンツを履こうとするが、わたしは冷静にそれを眺めていた。
「紫音! ちがうんだ、これはっ!!」
「違う?」
感情は、驚くほど冷めていた。
浮気を目の当たりにしているのに、なぜか心は落ち着いている。
「ふぅん。じゃあ、わたしが借りてる部屋で?わたしのベッドで?他の女と裸で抱き合っているのは、一体どういう【違う】なのかしら?」
晃は口をパクパクと動かしたが、言葉にならない。
「今日中に荷物まとめて出ていって」
ドアを閉めようしてふと思い再びドアを開けると、晃が女の肩を抱いていた。
なんだコイツ、嗤えない。
「わたしの物には一切触らないでね?そのときは警察呼ぶから」
わたしはそう言い捨て、部屋を出た。
彼が何か言っていたけれど、もう聞く価値すらない。
こうして、わたしは彼氏を捨てた。
失意のまま、夜の街をさまよった。
「・・・はぁ。」
深いため息しか出ない。
五年も付き合った彼氏に浮気されるなんて、人生でこんなに惨めな瞬間があるだろうか。
よりにもよって、明日はわたしの28回目の誕生日なのに・・・。
どこかで飲もうかとも思ったけれど、一人で飲む気分でもない。
結局、深夜の公園のベンチに座り、スマホの写真をぼんやりと眺めていた。
色んなところに行ったなぁ・・・。
5年分の思い出はずっしりと枚数があって容量も、思い出としても重い。
思い切って、削除しようかな。連絡先は・・・警察沙汰になったらいるかな?
そんなことを考えていた時
「転移するポル!!」
「え?なに?」
頭の中に唐突に声が響く。
次の瞬間。
視界が真っ白になった。
「・・・・ん?」
目を開けると、そこは見知らぬ大地だった。
青い空。緑の草原。そこは見渡す限りの大自然。
そして、わたしの姿が、おかしい。
「えっ、えええええええええ!?」
鏡はないけれど、自分の体が異様に小さくなっているのがわかる。
まず、手足が細い。
制服のようなフリフリのスカートが揺れている。
オーバーニーソックスにローファー?
「待って。一回、待って。ちょっと待って、え?何これ!? ていうか、わたし、え?なに?」
服の裾をつかみ、ガクガクと震える。
あれ?胸もぺったんこになっている。
だいたい、小学生高学年から中学生くらいの体だ。
「その姿!やっぱり『魔法少女』として適正があったポル!」
突如、わたしの目の前に現れたのは、小さな真っ白い毛玉だった。
見た目は、フェレット?オコジョ?いや、なんかこう、もっと丸っこい?
白い毛並みに、くりっとした青い瞳。
「はじめましてポル!ワイはポルル! シオンの案内役ポル!」
「ワイ?ポルル? えっと・・・なにこれ。夢?」
「夢じゃないポル!シオンは異世界に召喚されたポル!」
「え?ええッ!?」
あまりのことに、言葉を失う。
いや、しかし。だがしかし。待てよ?
「あの・・・。その、つまり・・・」
「なにポル?」
「あの浮気男のこととか、全部忘れて新しい人生送れるってこと!?」
「うん?まぁ、そういうことになるポルね?」
「そっか・・・」
浮気現場になったとはいえ、わたしがわたしの家に帰り、行為にふけっていたわたしが買ったベッドで私が寝る。
こんな残酷なことがあっていいものか?いやない!
帰らなくていい。捨てたりなんやかんやと気を遣わなくてもいい。
「最高じゃん!!!!」
わたしは両手を広げ、異世界の空に向かって叫んだ。
「でもさぁ、わたし、こんなフリフリの格好でどうすればいいの?」
スカートのフリルをつまみながら、ポルルに尋ねる。
「シオンは魔法少女ポルよ?魔法で戦うポル」
「魔法かぁ・・・」
わたしの胸が期待で膨らんでいく。ぺったんこになったけど。
「どんな魔法なの?」
「待つポル・・・」
ポルルの青い目が光を受けた宝石みたいにユラユラと輝いて揺らめいていた。
「わかったポル。シオンは、雷の魔法が使えるポル!」
「雷?魔法少女なのに?」
「そうポル! 『雷撃の魔法少女』としての力が開花するはずポル!」
「雷撃・・・。そっか。じゃあ、ちょっと試してみるね?」
わたしは、適当に空に手をかざし、雷をイメージしてみた。
ゴゴゴゴゴ・・・・!!
雲一つない晴れた青空なのに、雷鳴が轟き始める。
「え?すごくないっ!?」
いきなり空が轟き、稲妻が走る。
大気がビリビリと震え、強烈な雷が地面に落ちた。
「? ちょっと待って。どこに落ちるかわかんないと使えないくない?」
「ふぉおおおおお!!!! ここまでとは!!ここまでの才能とは思わなかったポル!!!」
ポルルが目を丸くする。
「え?すごいの?」
「すごいポル!なんの知識もないのに、すごいポル!」
「へぇぇ。そっかぁ」
「シオンは自信を持つポル!ワイが見てきた中でも世界最強クラスの雷魔法ポル!」
「へぇぇ。そっかぁ」
思わず、ニヤニヤしてしまう。
「それに。まぁ、せっかく?異世界?来たんだし?」
しらずしらず、拳を握る。
「やるなら、とことんやるわよ! 『万雷轟然の魔法少女』、爆誕ってことで!」
こうして。
わたしは、世界最強クラスの魔法少女になった。
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