3

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。

 ありえない。ありえない。さもない……自分だけ……どうして。

 もうこうなったらこの武士の力を思い知ってもらうしかない。



 窓際で野球部の奴らが熱っぽく語っている。

 どうやらもうすぐ夏の大会が始まるらしく、彼らにとっては目下のところ自分も含めて誰がベンチ入りできるかどうかが話題の焦点らしい。


「でもさ、俺ら一年がベンチ入りはやっぱ厳しいんじゃね?」

「そんなことないだろ。監督は実力で選ぶって言ってたし。レギュラー取りはともかくベンチ入りなら俺たちにもチャンスはあるさ」


 そんな会話が聞くともなく耳に入ってくる。


 ―――― レギュラーか。


 なんとなく気に掛かる言葉に思えた。


「ところで、未知瑠。そうなるとこの人は結局九回目の願望も果たされなかったということになるよね」

「ああ、そうだろうな」

「じゃあさ、夢って恋愛なんじゃないかな。九回告ったけどことごとく玉砕したとか」


 俺は即座に否定する。


「それはない」

「どうしてよ」


 口を尖らせた夏海に俺は人差し指を立てて見せた。


「考えてもみろよ。八回告白してフラれてもへこたれない奴が九回目に限ってそんなにショックを受けるか。ありえないを二度も繰り返すか。それこそありえないだろ」


 彼女の眉がへの字に曲がった。

 けれど反論はないようなので俺はさらに推論を進める。


「成績というのもちょっと考えにくいな。声の主にとっての夢が試験の成績でライバルに勝つことだったと仮定して、たとえ九回負けたとしてもやっぱりそこまで落ち込むとは思えない」

「そんなの分かんないじゃない。何回やっても勝てないからめちゃくちゃ悔しがっているかも知れないし」

「そうだな。そういう人間も絶対にいないとはいえない。ただ、中間考査はだいぶ前に終わったし、期末考査はもう少し先だろ。悔しがるにしては時期がおかしいんじゃないか」

「ん、でも模試の成績……とか?」

「……まあ、な」

 

 確かに模試ならその可能性もあるか。

 ここ最近、学校単位で行う模試は一年生にはなかったが二年生、三年生については情報がない。それに塾で行うようなものなら知る由もないが、ただ俺には模試の成績で負けたぐらいで廊下で立ち止まってまで怨嗟を呟く人間がそうそういるとは思えなかった。なので内心では却下したものの夏海には「じゃあ、ひとまず成績説はおいておこう」と夏海に保留を提案した。

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