第41話 流転

     流転


 学園が最初に違和感をもったのは、三泊の課題のときだった。そのとき、初日にボクはミスミに求められ、エッチをしたのだけれど、学園はずっとボクらを監視していたようだ。

 それは安全の確認と、きちんと魔法で課題を解決したのかをチェックするためであり、夜中だから大丈夫……と思っていたけれど、四六時中ずっと監視されていたらしいのだ。

 女の子同士であっても、こうした泊まりの課題のときにエッチすることはあったみたいで、学園も目くじらを立てる気はなかったらしい。でも、ボクとミスミの体勢は明らかに女性同士のするそれではないし、ボクの動きもおかしかった。

 そこで調査することになり、最終的には恋人であるエミリアに追及の手が及び、彼女がそれを認めた。

 それはエミリアが悪い、ということではない。彼女は貴族であり、家のことを考えればボクを守るより、切った方がいい。

 それに、最初からそういう約束でもあった。ただ彼女も隠していた側として、詰問されたことを思えば被害者である。

「ここまで隠し通してきたことは、驚嘆に値しますし、私たちでさえ、未だに男の人がいる、という事実を受け止め切れていません」

 高齢の女性が理事会の取りまとめをしているらしい。基本、貴族がこの学園にはかかわるけれど、理事会にはもう政治を引退した者がなるらしい。

 貴族は男に対する知識がある……と思っていたけれど、それでも初めてみる男だと動揺するものらしい。

 ただ、ボクの動揺も大きかった。それは色々な人に迷惑をかけてしまう……という点が大きい。

 頭の中がぐるぐるして、考えがまとまらない……。


「とりあえず、この件はあずかりとします」

「え? お咎めは……?」

「お咎め? あなたが何の法律を破った……と? 男が生まれたら、必ず国に通報しなければならない……などという法律はありませんし、隠していたところでそれを処罰することはできません。

 少なくとも、我々ではこの問題を判断できない……と考えて、議会にはかることと致します」

 そのとき、ボクにも理解できた。三百年も男がいなかったことで、それに付随する法律などはすべて失効したのだ。法律違反ではないが、大問題すぎて学園では扱いきれない、と判断されたようだ。

 ただそれは単なる時間稼ぎであって、問題は何も解決していない。

 それに、ボクは完全開放となったわけではなく監視付きになった……ということでもある。

 学園に通うことはできなくなり、個室におしとどめられ、接見禁止である。

 いわゆる牢に入れられたも同じで、手足を縛られた格好だ。

 そうしてボクが部屋にいると、ノックする音がする。誰かと思えば、そこに訪ねてきたのはエミリアと……シャルだった。


 何でこの二人? と思ったけれど、ボクも「監視は?」と訊ねる方が先だ。

「許可をもらった。ただし、ここでの会話は報告する義務があるけれど……」とエミリアは応じる。

「いつか、こういう日がくるとは思っていたけれど、意外と、永く騙しとおせたって感じ?」

 三人でベッドに座って話をする。シャルがどうしてついてきたか? 分からないままエミリアと会話する。

「最初に、誤解をといておくと、私が漏洩したわけじゃなく、決定打はヴィルマからの通報みたい」

「胸をさわられたとき、ちょっと意外そうな顔をしていたけれど、あれで分かるものなのか?」

「確かに、パットをつかう子もいるけれど、その下に本当の胸の感触がない……というか、硬いことに驚いたみたいね。彼女が学園に通報し、それで疑惑から調査をすすめていた学園が、私を直々に呼びだして質問され、吐露するしかなかった……ということよ」

「エミリアのことは疑っていないよ。でも、ヴィルマのそれが引き金とは、ちょっと驚きだけど……」

「ま、疑うには十分な身体になってきたしね。時間の問題だった、というところではあるでしょうね」

「これからボクは、どうなるの?」

「それは私にも分からない。正直、どうするつもりかは議会のみ、決定する権利があるから」

 エミリアはそこで「だから、悔いを残してほしくなくて、今日は話をしにきたの」


「悔い?」

 そのとき、シャルが「私はエミリア様の監視役なんですよ」

「え? だって……」

「表向き、公表はしていないし、エミリア様と恋人になったあなたのことを確認しようと、わざわざ朝風呂に入った」

「エミリアはそれを知っていたの?」

「知らなかった……でも、気づいた。だから、あなたと関係しているのが嫌だと感じたわ」

「ふふふ……。お母様にも知られるのが嫌だった?」

 シャルはそういって、ボクに向き直った。

「最初、あなたから告白されて驚いたけれど、私も興味があったし、渡りに船でもあった。あなたのことは、お母様にも報告済み」

 その意見をひきとって、エミリアは「もちろん、議会にいるお母様がその事実を知っていた……ということは大きいけれど、まだ味方になってくれるかどうかは分からないわ」

「そうなんだ……」

「期待はしないで。でも、今は一縷の望みでもつないでいる、と伝えたくてね」

 一縷でしかないけれど、暗闇の光明が照らしているようにも感じられた。


 ただ、ボクが気になっているのは、同室だったサイナのことだ。彼女はコミュニケーションお化けである一方、裏の一面ももっていた。

 ボクが男であることを知った上で、わざと挑発してきたし、脅迫もあった。彼女が一体、何を考えでいるのか? その出方がよく分からない。

 最近ではあまり絡んでこなかったけれど、ボクのことが問題になった今、彼女が口を開けば色々なところでトラブルが発生するかもしれない。

 その日の夜、サイナが部屋を訪ねてきた。

 ただ、窓からの侵入であり、エミリアたちのように許可をとったものではなく、深夜であることもお忍びを思わせた。

「ふふふ……。いいザマね」

「キミは今回の件に、かかわっていないんだね?」

「私たちは別に、あなたを貶めようとは思っていない」

「私たち? キミはどこかの組織に入っているのか?」

「勘違いしないで。毎年、生徒たちを監視する者が選抜され、それと明かさず、寮で暮らす。私はその一人」

「スパイってことか……」

「言い方が悪いわね。でも、そんな感じよ。私は貴族の……フィーネの監視をするため、同室になった。だから同室のあなたもことも調べた。それだけよ」

 そのとき、ふと気づく。シャルと同じか……。ただ、シャルが「エミリア様」と呼ぶのとちがい、マイナは「フィーネ」と呼ぶように、その意識には大きな違いもあるようだ。

「フィーネとはトラブルを起こさなかったから、私が報告することはなかった。あの日までは……」

 ボクが一人部屋に移った、あの日か……。

「私のボスが、あなたに会いたがっているわ。ついてくる?」

 挑発的な目で見てくるサイナに、ボクも静かに頷いていた。






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