第13話 ベイス

     ベイス


 クラブ活動の勧誘が本格的にはじまった。四色対抗戦で白亜、真紅、碧青、漆黒の四色が、それぞれにチームをつくって戦うものだ。

 どこも自分たちのプライドを賭けて戦うので、かなり本気だし、そろそろ対抗戦もはじまり、新入生の勧誘も本気になってきた。それは身体検査で、魔力を測ったこともあるのだろう。

 ボクは目立ちたくないのに、人気者となってしまった……。それはどこから漏れたのか? 魔力が高いことが知れ渡ったからだ。

「早く決めた方がいいんじゃない?」

 フィーネはそういって笑う。彼女も貴族として色々と誘われる立場だけれど、彼女はもうどこに入るか、決めたらしい。

「別に義務じゃないから、入らないって手もあるよ。私、面倒くさいから入らないつもりだし」

 サイナはそういってカラカラ笑う。魔力の高さがもう知られてしまったので、これで魔法を覚えたら大きな戦力になる……と考え、ボクをスカウトするのだ。無視することも難しい。

 そのとき、ボクらのところにやってきたエミリアから「ベイスをやってみない?」と誘われた。

 攻撃側がドリブルをして相手の陣地に入り、そこにあるリングにボールを入れるのはバスケに近いが、攻撃側には入れないエリアがあり、ミドルレンジからのシュートを放つことになる。そのとき、攻撃側はリングに入るよう魔法をかけ、防御側は入らないよう魔法をつかう。

 五対五で争われ、攻撃側はボールをまわす間に複数の魔法をかけて、相手にそれを悟らせないようにするし、防御側もそれを読んで、対抗する魔法をかけて軌道を逸らし、ゴールを守る。シュートを放った後の魔法の掛け合いが華、といわれる人気のスポーツだ。


 エミリアも先輩から誘われたらしい。

「貴族のお姉さまから『体験でいいから参加して』と言われていてね。私一人じゃ、いざというとき断りにくいし……」

「入るつもりはないの?」

「ベイスって、接触プレイが多くてね。魔法は基本、ボールにしかかけられない決まりだけれど、そのことで逆に、ボールを運ぶときとか、ちょっと危なくて……」

 エミリアの言っていた意味が分かった。

 ボールを運ぶときはラグビーのように、タックルするのもありなのだ。相手を引き倒したりしてはダメだけれど、抱き着いて止めるのはあり。だからドリブルとパスでボールをまわし、相手の陣地に入る。リングはコートの端ではなく、真ん中辺りにあり、ディフェンスが少ない方からシュートを放つのと、そのとき魔法で邪魔されないことが肝心だ。

 ボクとエミリアも交じってみる。体験参加といってもみんな本気で、パスが回ってくると、抱き着かいてくるのだ。

 先輩たちが群がって抱き着いてくるので、もみくちゃになる。しかも、ボクにタックルしてきた女性が、いきなりボクの胸をわしづかみにしてきた。しかも怪しくもみしだかれるのだから、驚くけれど、それはファールではなく、一般的なディフェンスだという。

「こら! カティ。どさくさに紛れて一年にいたずらするんじゃありません!」

「え~、一年のまだ膨らみきってない胸を揉むのが、私の楽しみなのに~」

 カティは四年生でレギュラーになった実力者だけれど、いたずらが過ぎるようだ。

「でも、リュノちゃんの胸はちょっと固いかな」

 それはそうだ。ボクの胸がちょっと膨らんでいるようにみえるのは、鍛えた筋肉によるもので、女性ホルモンにより膨らんできたわけではないからだ。


 しかし乱戦になるとそれこそ抱き着きあいだ。腕や足を引っ張ってはいけない。首から上は攻撃が禁止。でも胴への攻撃は殴ったり蹴ったりしない限り、胸を触ってもOKだ。

 女性同士なので、気にすることはないかもしれないけれど、胴をつかむ上で出っぱりとなった胸は、やはり攻撃しやすいらしく、みんなで触ってくる。

 大変そうなのはエミリアだ。

 年齢にしては胸があるので、握られるとそれこそびくんと反応する。慣れている先輩たちは、もう何も気にしていないみたいだけれど、初体験では中々に反応しないことも難しい。

「あなたたちも、先輩だからと遠慮せず、胸をさわってもいいのよ」

 そうは言われてもハードルが高い。ボクが先輩に対してそれをすると「あん♥」と甘い声を上げる。

「そんな優しく揉まないでよ。感じちゃうじゃない」

 だからといって、女の人の胸をつかんで……なんて、簡単にできるものではなく、しかもボクはこの中で唯一の男なのだ。

 そしてシュート――。

 白魔法に分類されていても基本の風、火、水、土などの魔法はつかえ、それを重ね合わせてシュートを放つ。

 魔法には相性もあるので、うまくその魔法をはがしていって、防御側がゴールを死守するか? が見せ場だ。

 エミリアはその辺りもうまい。攻撃するときも防御するときも、ボールに籠める魔法、籠められた魔法を見極めて、きちんと対処できる。

 先輩たちですら感心するほどであり、魔力の高さと魔法をすでにつかえるメリットもあって、すぐにレギュラー候補だった。


 新入生にはハードな初体験だけれど、すわって休憩しているとき、ボクが「このクラブに入るの?」と訊ねると、エミリアは首を横にふった。

「スポーツとしては面白いけど、胸がね……」

 エミリアは自分の胸をさわるけれど、着ていたTシャツが破れそうだ。エミリアがエース級の活躍をみせるので、タックルも増えて、その分そこにダメージがたまっているようだ。

「恋人なら、私の胸をさすって慰めてくれる?」

 甘えるように、エミリアはそう言った。もちろん冗談だろうけれど、ボクはそんなエミリアの胸をそっとさするようにする。

 さすがに驚いたのか? エミリアも「え? え?」と自分の胸を押さえて、顔を真っ赤にしている。

「ちょっと癒しの魔法がつかえるんだよ。どう、少しは痛みもなくなった?」

「え……? あぁ、確かに和らいだ気がするわ」

 白魔法の本来の使い方であり、でもこれは難しい技術とされていた。

「でも、あまりこの魔法は使わない方がいいかな。軍にスカウトされちゃうよ」

「やっぱり……、そうだよね」

 この世界に戦争はないけれど、治安維持や魔獣との闘いのために軍隊が存在し、白魔法をつかえる者は貴重で、すぐに衛生兵として従軍を命じられるからだ。

「だから、その魔法は私だけにして」

 そういうと、エミリアはすわっているボクに背中をあずけるようにしてすわり、ボクの手を自分の胸にもっていく。

「み……、みんな見ているよ」

 エミリアを抱きかかえるようにして、彼女の胸をさわっているのだ。

「大丈夫よ。一応、私たちは恋人同士で通っているんだし……」

 エミリアは濃厚なキスを求めてきたり、時に大胆となることもあるけれど、衆人環視の体育館で、エミリアの胸をボクがさわる……というプレイも気にしないようだ。

 ボクもあくまでこれは癒しなので、優しくふれるだけだけれど、汗ばんだエミリアのまだまだ成長しそうな胸や、その体温を直に感じて、興奮しないようにするのが大変だった。





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