厄病神の成り損ない
むらびっと
第1話
癒しが欲しい。
午後8時45分自宅のマンションのベランダに出て今日も缶ビールを煽る。これが最近の日課だ。
私の名前は
最初の頃は会社に出社しなくていいなんてラッキー!なんて思っていたが最近は何か物寂しさを感じている。別に会社の人とすこぶる仲が良かったわけではない。ただ最近は部屋で篭もりきって仕事をしているせいで一人に飽き飽きしているのだ。今まで小賢しいと思っていた御局様の小言が懐かしく感じてしまう。
ここ最近最後に人と喋ったのは宅配便のお兄さんの「サインお願いできますか?」に対して「あ、はい」って応えたきりだ。その時の私ときたら人と会わなすぎて愛想笑いしたつもりが表情筋が死んでいて顔がピクリとも動かなかったことに自分でも驚いてしまった。
さらに仕事さえこなせば時間は余りあるお陰で趣味のゲームもアニメも漫画も全てやり尽くしてしまった。
これはいけない……何となく私の人間としての本能がそう告げている。
私は飲み終わった缶をグシャリと潰し、項垂れる。
誰か……誰かと……出来ればたわいもない会話を交わしながら……それでいて私を癒しながら会話してくれる人が欲しい……!
「はぁ………」
そんな無い物ねだりしたって仕方ないことは重々承知だ。私の心とは裏腹に眩いくらい輝く満月を見上げ、より虚しさを募らさせられる。
「私の人生って、こんなんでいいんかな……」
何となく月に向かって呟いてみる。それでもやっぱり満月はピカピカと光るばかりだ。
ん?ピカピカ光る?なんか今日の月……懐中電灯で目の前を照らされたくらい眩しいような……?
思ったのも束の間、太陽を直視したような眩い光が私の目の前を照らす。
「うっ……!」
あまりの光の強さに目がくらみ、思わず顔を背けて腕で顔を覆う。やがて強い光のビームは止み、私はゆっくりと目を開けた。
「こんばんは」
「!?」
目の前には白く光る人影があった。話しかけてきた人影をよく見るとそれは薄灰色のワンピースを着た女の子だった。身長からするに小学生低学年くらいだ。その女の子はふわふわと私の目の前に浮遊している。
「え?ちょ、ここ5階なんだけど!?どうなってんの!?」
「木村時子さん、あなたは選ばれたのです」
少しだけ舌足らずな声からするにやはりまだ幼いのだろう。
「え、何!?なんの話!!?つーかあなた誰!?」
驚きすぎてその場から離れることすら出来ずに硬直する私に向け、少女は手を広げて告げる。
「申し遅れました。ワタクシはあなたの神です」
神!?神ってあの神様の神!?なななななんでこんなところに!?しかも「あなたの」ってどういうこと!?
「と、とりあえずこっち来な!?そんなところから落ちたら危ないから!」
見ててなんだかヒヤヒヤしていた私はこちらへ来るように促した。
「神はこんなところから落っこちても死なないですが……ではお言葉に甘えて」
そう言うと少女は浮遊しながらゆっくりとベランダに降り立った。すると少女の体から自然に光が消え、詳細が分かるようになった。
少女の髪は純白な白髪ロングで、目は濃い緑色、服装は薄灰色のワンピースだと思っていたが実際は穴だらけなボロ雑巾を被った感じである。
「……それで……お嬢ちゃんは一体……」
「ですから!あなたの神です!」
「へ、へえ~…………」
そんなこと言われてもまずは疑うしかない。私は無宗教だし。だが先程の身にまとっていた光といい人間離れした浮遊技といいもしかしたら本当に神様なのかもしれない。
これは最近鬱々としながらも着々と仕事をこなし、真面目に日々を過ごしていた私に何かしらの褒美をもたらしてくれる……とか?それなら新作のゲーム機とか欲しいな……あの十数万するやつ。
こんなちっちゃい子に物欲モリモリでそんな卑しいことを考えている自分は傍から見れば多分情けない大人だろう。
「よろしくお願いします、木村さん」
少女は行儀よくぺこりとお辞儀をする。
「よ、よろしく……?」
私も思わずお辞儀をする。
「ワタクシ頑張ります!あなたをより不幸に導けるように……!」
「そ、そうなんだ、頑張っ……え、不幸!?なんで神様なのに私を不幸に!?」
少女はその言葉に自信満々に胸を叩き答える。
「ふふん、なんせワタクシ、厄病神ですから!」
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