届かなかった想い、新たな決意

少し寒さが残る春風が吹く今日、結梨は春輝と向き合っていた。

春輝に真っ直ぐな視線を向けられて、心臓が暴れ出す。

「ゆうり、話って?」

春輝は不思議そうに首を傾げている。

それを見て、全く意識されていないのだとわかる。

(そうだよね、友達だから)

彼氏に間違われることはあっても、軽く流すだけだった。

(…聞いてくれるだけでいい)

フラれても、大丈夫。ただ、伝えたい。

「あのね、春輝くん」

「ん?」

一歩近づいて、その手に触れた。

「私と、話してくれてありがとう。猫とか趣味の話が沢山できて、楽しかったよ。私が困った時も相談に乗ってくれて、すごく頼りがいがあるよね!」

泣いてしまわないように、本心を真っ直ぐに順番に、ゆっくりと伝える。

春輝はポカンとしていた。

(そうだよね……いきなりだもん)

困らせたかと思っていると、春輝が目を細めた。

「俺は、ゆうりが頑張ってるのを応援していただけだよ。君の成長を見ていたかったんだ」

「え…」

予想もしなかった言葉に、息を飲む。

そんな風に思っていたなんて、知らなかった。

「ありがとう。…本当、優しいね。春輝くんが応援してくれたから頑張れたんだよ、私」

春輝の手を離して、ゆっくりと歩き出した。

(これで、最後…)

ずっと、抱いていた想い。

ーこの想いが届かなかったら、私は。

花壇の前で立ち止まり、春輝を振り返る。

「沢山、応援して励ましてくれてありがとう本当にありがとう。私は、そんな春輝くんが大好きです。…友達としても、恋愛でも」

「ありがとう。だけど、俺はー」

「わかってる!友達でいたい、でしょ?」

「うん……ごめん、ゆうり」

「いいの!知ってたもの!」

涙が溢れそうになってグッと唇を噛む。

花壇から離れて、ゆっくりと公園を出て行く。

少し歩いたところで振り返る。

「これからも、友達として、よろしくー!」

大きく叫んで手を振ると、春輝が驚いたように手を振替してくれた。

それを見て、結梨は足を早めた。

(……泣かないって、決めてたのに…な)

辛い、悲しい。

(だけどー)

伝えられただけで、十分だ。

少しだけ晴れやかな気分で、家へと急いだ。

ーずっと、迷っていたけれど今日はやってみよう。


家に着くと、すぐに部屋に上がりスマホの検索サイトを開く。

(…やっぱりアプリがいいのかな?…あ!サイトでもできるみたい、これなら……)

検索サイトから小説投稿サイトにログインし、アカウントを作る。

「ペンネーム…」

少し迷って、“糸”と打ち込んだ。

準備が終わると、小説を書くをタップする。

(何書こうかな)

初めの章を開き、渦と糸と打ち込む。

楽しそうな笑い声、馬鹿にしたような声。

色んな音がグルグルと回って絡みついてくる。

まるで、糸のように。

強く、固く絡まった糸は、解けない。

ああ、苦しいなぁ。ーどうして、痛いな。

こんなに、痛いなんて知らなかった。

この糸が、緩くなればいいのに。

これは、1匹の白猫と出会って成長していく少女の物語。


そこまで打って投稿のボタンを押すと、肩の力が抜けた。

「やっと……できた」

嬉しくて頬が緩む。

「ニャーン」

イトがやってきて、結梨に擦り寄ってくる。

その頭を撫でながら思う。

(私がここまで変われたのは、この子のおかげなんだ)

イトに出会い、白夜と春輝にも出会った。

彼らは結梨の背中を押してくれた。

そんな彼らに恥じるようなことは、したくない。

ーこれからは、小説を書こう。

ーここが、私の新しい一歩になるから。

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猫イト 冬雫 @Aknya

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