第6話 不運発動

 結論から言うと、【綺羅星きらぼし】が欲しがっていた、うさんどクンのぬいぐるみは獲れた。しかし、ソカの財布はすっかり素寒貧すかんぴんであるが。何度も惜しい手はあったものの、様々な不運に見舞われた結果……。


「なんかごめんね。まさか、23回目で穫れるとは思わなくて……」


 うさんどクンのぬいぐるみを両手に収めながら、申し訳なさそうに【綺羅星】が謝る。すっかり意気消沈したソカが、


「ううん。気にしないで。今日はちょっと調子が悪かったみたい……」


 と、どうにか【幸運児】としての言い訳をかます。


「ま、まあ、自分の〈意味〉通りにならない日もあるよね。私だって、常に光り輝いているわけじゃないもの」


 すでに【綺羅星】の中では、編入生が本物の【幸運児】かどうかなど、どうでも良くなっていた。それよりも、同級生に11,500円も使わせてしまったことに罪悪感を抱いて止まない。


 お互いに気まずい中、急に背中を小突かれたソカ。振り返ると、そこにはクラスメイトである男子生徒の集団がいた。その中心に、今朝ソカの足を引っ掛けた生徒がいる。みな、見るからに不良といった格好だ。


「どうして君達がこんな所に……?」


「よぉ【幸運児】。編入生の分際で、【綺羅星】をこーんないかがわしいホテルに連れ込むなんて、えらいヤる気じゃねえの」


 ゲスに笑う男子生徒達がソカを取り囲む。


「ちょっと貴方達っ! 【幸運児】君をここに連れてきたのは私よ! この景品を獲ってもらいたかっただけ!」

 

 そう【綺羅星】がソカを庇うも――。


「俺達のアイドル――【綺羅星】をモノにしようっったって、そうはさせねえよ? なぁ、お前らっ……!」


「そうそう! 編入生の分際で生意気なんだよ! なぁにが【幸運児】だ! こんなクレーンゲームで一万円以上も使うなんて、【幸運児】じゃなくて、本当は【不運児】なんじゃねぇ?」


 ゲラゲラ笑う男子生徒達に、ソカはムッとした表情を浮かべた。


「僕は【幸運児】だ! 不運なんかじゃないっ……!」


「へぇ、そうか。なら【幸運児】サマなら、この状況から脱することだって出来るよなぁ? せっかくラブホに来てんだ。みんなで仲良く遊ぼうぜ? なぁ、【綺羅星】」


「やめてよ、【悪太郎】君……! もう私に付きまとわないで!」


「悪太郎って、そういう三字熟語も生徒の中にいるんだね……」


■悪太郎(あくたろう)

いたずらが過ぎる粗暴な男児や乱暴な男性の仮称。


「ふん! 俺らのようなゴロツキにだって、平等に教育の場が与えられているんだ。学生の身分なら何をヤッても許される。そうだろ? 【空威張からいばり】、【口悪説くあくせつ】、【腰巾着こしぎんちゃく】」


「おお!!!」


■空威張(からいばり)

実力がないのに、偉そうな人。


■口悪説(くあくせつ)

罵ったり、嘘をついたりと口による悪い行いのこと。


■腰巾着(こしぎんちゃく)

上司や権力者に常に付き従っている人を、あざける気持ちで言う表現。


 クラスメイトの四語句に囲まれたソカは、焦る気持ちどころか、スッと真顔になっていた。


(あれ? なんだ、この状況。まさしく【四面楚歌】。本来の僕じゃないか……)


 悪童に囲まれていることが【四面楚歌】にとっての通常運転。正常なのである。


(やっぱり偽名を名乗ろうとも、本来の自分を手放すことなんて出来ないってことだな)


 喜ばしいやら残念やら……。しかし、この状況で抵抗しても、事態は悪くなる一方であることは重々承知していた。


「分かったよ。君達の言う通りにするから、【綺羅星】さんだけは帰してあげて」


「なぁに言ってんだよ。【綺羅星】だけ除け者にしたらカワイソウじゃねえか。言ったろ? みんなで仲良く遊ぼうって。……俺らに反抗したら、【綺羅星】がどうなるか、分かってるよなぁ?」


 最後の部分だけ、ソカに聞こえるよう【悪太郎】が囁いた。


「っ……」


「安心しろよ、【幸運児】。お前がちゃーんと俺らの言うことが聞けたら、明日からクラスでも一軍の仲間入りだぜ?」


 ぐふふと笑う【悪太郎】が、「ほら、行こうぜ。もう部屋は取ってあるからよ」と言って、ソカを後ろ手に掴んだ。


「【幸運児】君っ……」


「ほら【綺羅星】。【幸運児】を無傷で帰してやりたければ、俺達の言うこと、ちゃんと聞いた方がいいぜ?」


 取り巻きである【腰巾着】と【口悪説】に両腕をがっちり捕まれ、その後ろに【空威張】が立つ。先頭を【悪太郎】に掴まれたソカが歩き、二語句に逃げる術はない。


 そのままエレベーターに乗せられ、客室に連れ込まれた。


「――ほら、脱げよ、【幸運児】」


 乱暴にベッドに放り投げられたソカを、【悪太郎】が愉悦を浮かべて見下ろす。


「お前の恥ずかしい写真を撮らせてくれたら、【綺羅星】にはなーんにもしねえよ? ま、反抗したら、こいつがどんな目に遭うか、男のお前なら分かるよなぁ?」


「やめて【悪太郎】君っ……! 【幸運児】君に酷いことしないでっ……!」


「なら、お前が俺らを満足させてくれんのか?」


「それはっ……」


「――分かったよ。脱げば良いんだね」


 何の抵抗も見せることなく、ソカが制服のベストを脱いだ。そのままシャツのボタンを外していき、上半身裸になる。


「お! 物わかりが良いねぇ、【幸運児】君」


 携帯電話を取り出した【悪太郎】に続き、三語句もまた卑劣に笑いながら、「早く下も脱げよ!」とはやし立てる。


「……」


 ソカがベルトに手をかけると、「ダメだよ、【幸運児】君っ……!」と【綺羅星】が泣きながら首を横に振る。


「ほら、早く脱げ、【幸運児】。お前のお粗末なモン、バッチリ撮って、学園中に貼ってやるよ」


「分かった! 分かったからっ……! 私が貴方達を満足させるから、【幸運児】君は帰してあげてっ……!」


「大丈夫だよ、【綺羅星】さん。僕はこんなイジメには屈しないから」


 そう言うと、ソカは両手をかざした。


「東西南北、四方から取り囲んでやろう――!」


 その発声と共に、ソカの金瞳が本来の銀色に輝く。突如として現れた青色の壁が、四語句を挟み込むように迫りくる。


「なっ!? なんだ、これはっ……」


 気づけば、ぎゅうぎゅうに肉詰め状態にされた悪童達がいた。


「【幸運児】くん……?」


 銀色の瞳がカラーコンタクトの金色に戻り、爽やかに笑う【幸運児】が【綺羅星】に振り返った。


「帰ろうか、【綺羅星】さん。この壁も数時間したら消えるから、そうしたら彼らも帰るでしょ」


 何事もなかったかのようにソカが制服を着て、ドアへと向かう。


「あ、待って、【幸運児】君!」


 その後を追いかける【綺羅星】だったが、ふと思い出したかのように部屋へと戻ってくると、ぎゅうぎゅうにされた四悪童の写真を携帯で撮った。


「あ……たすけ、て、くれ……」


「べーっだ!! コレに懲りたらもうイジメなんてやめてよね! それから私の周りをうろつくのもやめて! もしまた【幸運児】君に手を出したら……この写真を学園中にバラ撒くからっ……!」


 ふん! とそっぽを向いて、【綺羅星】が部屋を出ていった。


「待ってよぉ、【幸運児】くーん!!!」


 先を歩いていたソカの腕に手を回し、上機嫌に【綺羅星】が笑う。その手には、しっかりとうさんどクンのぬいぐるみが握られていた。

 






 



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