#09 花びらキャッチ

 満開の桜の下、三人は並んでレジャーシートに座っていた。


 昼間の賑やかさが落ち着き、風に乗って花びらが舞う。


「ねえ、知ってる? 落ちてくる桜の花びらをキャッチできたら、恋愛が成就するんだって」


 アンナが突然そんなことを言い出した。


「そんなの迷信でしょ」


 サキは呆れたように言ったが、アンナが「せっかくだからやってみようよ!」と乗り気になる。


「私はいいよ……」


 チエが遠慮がちに断るが、アンナが腕を引っ張って立たせた。


「いいから! 三人でやるの!」


 仕方なく、チエもサキも桜の木の下に立った。


 ちょうどそのとき、春の風が吹き抜ける。


 無数の花びらが宙を舞った。


「よーし、いくぞ!」


 アンナは腕を伸ばし、ひらひらと落ちる花びらを追う。


 サキも「しょうがないな」と言いながら、手を伸ばす。


 チエも、風に乗ってくる花びらの行方をじっと目で追う。


――けれど、どれもするりと指の間をすり抜けた。


「くっそ、意外と難しい!」


 ムキになって花びらを追いかけるアンナに、サキがふっと笑う。


「アンナ、そんなに必死になって……好きな人でもいるの?」


「そんなんじゃない! 悔しいじゃん!」


 そう言いながら、アンナはチエを見る。


 チエは真剣に落ちてくる花びらの動きを追っていた。


(ああ、もう……)


 桜の花びらみたいに、彼女の気持ちも手のひらからするりと逃げてしまうのだろうか。


 サキもまた、隣で花びらを追いかけるアンナの横顔をちらりと見た。


(アンナがキャッチしたいのは、どんな花びらなんだろう)


 舞い散る花びらの下、三人の想いはそれぞれの胸に秘められたまま、宙を舞っていた。

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