#04 一緒にいたいって、どういうこと?

 風が吹き抜けるたびに、川の水面がさざめく。


 夕焼けに染まった河川敷を、アンナとチエは並んで歩いていた。


 春の空気はまだ少し冷たくて、時折強く吹く風にチエは肩をすくめる。アンナはそんな様子を横目で見ながら、ポケットに手を突っ込んだ。


 しばらく無言で歩いたあと、アンナがふと立ち止まる。


「ねえ、ずっと一緒にいたいって、どういう感情だと思う?」


 突然の問いかけに、チエは足を止めてアンナを見た。


「……え?」


「ほら、よく言うじゃん。ずっと一緒にいたいって」


「うーん……」


 チエは少し考え込む。


「だ、大事な人と離れたくない……ってことだよね?」


 そう言いながら、にこりと笑う。


 アンナはその顔をじっと見つめた。


「……私とは、ずっと一緒にいたいと思ってくれる?」


「もちろん、大事な友達だもん」


 即答するチエに、アンナは一瞬だけまばたきをした。


「そうだよね」


 そう言って笑う。でも、その笑顔の端に、ほんの少しだけ影が差す。


 チエは気づかない。いや、気づかないふりをしたのかもしれない。


 アンナはもう一度、言葉を探すように口を開く。


「……じゃあさ、恋人と一緒にいたいって気持ちとは違うのかな?」


 チエは少し驚いたようにアンナを見た。


 そして、何かを思い浮かべるように視線を遠くに向ける。


 チエはサキの顔が頭に浮かんだ。


 サキと話しているときの安心感。サキの隣にいると、世界がちょっと違って見える感じ。もっと特別で、もっとあたたかい――


「それは……もっと特別な感じかな?」


 そう答えた瞬間、アンナの表情がほんの一瞬だけ揺れる。


 でもすぐに、何事もなかったように目を伏せた。


「ふーん、そっか」


 それだけを言って、アンナはまた歩き出す。


 西の空には、ゆっくりと陽が沈んでいく。


 チエが誰を思い浮かべていたのか、アンナにはわからない。


 だけど、それを質問するのはあまりに苦しくて、ただ夕焼けの中を歩き続けるしかなかった。


 空は赤く燃えていた。


 アンナの心だけがそこに置いていかれていた気がしていた。

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