えふえむ三人娘の百合SS

えふえむ

#01 サキとアンナの朝

 サキは静かに目を開けた。カーテンの隙間から差し込む朝日が、ぼんやりとした金色の光を部屋に落としている。すぐ隣、アンナがすやすやと寝息を立てていた。


 朝刊の配達のため、毎日、誰よりも早く仕事に出掛けるアンナ。今日は新聞の休刊日。寝相の悪い彼女は、布団を抱きながら丸まっている。少し開いた唇からは、かすかに息が漏れ、乱れた前髪が額にかかっている。


 サキは、そっと指先でアンナの前髪を払った。


「……アンナ、起きて」


 でも、今日くらいゆっくり寝かしてあげたいという気持ちはある。小さく囁きながら、そっと肩を揺らす。


「んん……?」


 アンナが微かに身じろぎし、布団に顔をうずめる。


「……もう少し……」


 甘えたような声で響く。その声を聞くだけでサキの心臓の鼓動は早くなる。


「ダメ。起きて」


 もう一度揺さぶると、アンナは薄く目を開けた。まだ眠そうな瞳が、ぼんやりとサキを映す。


「……サキ、朝?」


「うん。朝だよ」


 アンナはゆっくりと瞬きをして、それから無邪気な笑みを浮かべた。


「おはよー……サキ、あったかいね」


 そう言って、ぎゅっと抱きついてくる。


 サキは息を飲み、無意識にアンナの背中に手を添えた。


(ずるい……)


 いつも、そう思う。


 アンナは無邪気にサキへ触れる。距離が近いのも、抱きしめるのも、特別な意味なんてない。ただの「友達」としての好意。


 でも、サキは違う。


 この腕の中にずっと閉じ込めておきたいくらい、アンナのことが好きだった。


(でも、そんなこと……言えない)


 サキは、ふっと小さく息を吐いた。


「そろそろ離れてくれる?」


「え~、まだ眠いのに……」


「せっかくのお休みなのに起こしたの、誰よ」


「サキのせい」


 そう言って笑うアンナに、サキは肩をすくめた。


「はいはい。じゃあ、ごはん作るから、ちゃんと起きること」


 サキが布団から出ようとすると、アンナが手を掴む。


「ねえ、もう少し一緒にゴロゴロしうよー」


 甘えた声で誘われ、サキは心を揺さぶられる。けれど、すぐに小さく笑って、その手を軽く振り払った。


「ダメ。朝ごはん抜きにするよ?」


「ええーっ!」


 アンナが慌てて起き上がるのを見届けて、サキは少しだけ苦笑する。


(今のままが良い……今のままが)


 自分にそう言い聞かせながら、朝の空気の中に足を踏み出した。

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