Deeper

望乃奏汰

B9

あの夢を見たのは、これで9回目だった。



エレベーターに乗っている。頭上の暗い蛍光灯は時折チカチカと瞬く。壁の模様はモアレを描き、長く見つめていると気が狂れてしまいそうだ。鉄の箱は低い音を立てながら地階へと下る。

「これはあと何回繰り返せば。」

僕は隣の狭川に訊く。

「さぁ。」

狭川はニコニコしながら答えた。

そうしている間にエレベーターは止まり、ドアが開いた。今回の階数表示はB9。やはり1階ずつ下がっている。ドアの向こうに伸びる廊下は暗くて先が見えない。

「ほら、早く降りなよ。」

狭川に言われ僕は嫌々エレベーターを降りた。エレベーターのドアは開いたままだ。

チカチカするエレベーター内の明かりだけがこの空間での唯一の光源となっている。あのドアが閉まれば真っ暗になってしまう。

「何やってんの。早く行って。」

狭川は僕のことを急かす。いつもそうだ。しかし僕はそれに逆らうことができない。

廊下の薄汚れた赤い絨毯の上に落ちる長く伸びた影が闇に溶けてしまうぐらい歩いた行き止まりにはドアがある。全く見えないのだが、今までそれを8回も繰り返しているのだから今回もおそらくそうなのだろう。

手探りでドアノブを探すのが毎回本当に嫌だった。何か嫌なものに触れてしまうのではないかと。ざらついた埃っぽい冷たいドアの表面に手のひらを這わせ、ようやく見つけたドアノブを回し、ドアを引く。


ドアの向こうに何があるのかを見る前にいつも目が覚める。


◾︎


目が覚めると、まだ寒い時期なのにひどく汗をかいていた。

ベッドから出てキッチンの電気もつけずに冷蔵庫からペットボトルの炭酸水を取り出して飲む。喉を流れていく炭酸の泡に夢から覚めたという現実感を取り戻した。


最近では眠るのが恐ろしくて仕方がなかった。あの夢を見る度、エレベーターはどんどん地下に向かっていく。

夢に出てくる狭山という男はまるで僕の古くからの知り合いのように振る舞うが、僕はそんな男のことは知らない。ただ、狭山のあの少し掠れたような低い声に逆らうことができないのだった。

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