辺境の村を守りし乙女たち

もち雪

辺境の村を守りし乙女たち

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。


 最初の頃とはずいぶん変わってしまったけど……ううん、変わったのは、私だった。


 最初の夢は5歳の時、初めて見る雪に目をうばわれていると、村がゴォーゴォーと赤い炎をあげて燃えだした。


 多くの音が鳴り響き、体を縮めていると体の大きさに違和感があった。


 次第に込める悪臭。悲鳴とオークの狂気の声。そしてただ殺されるだけの人々。そして後ろから手を掴まれて……。


 そこで夢が終わっていた。しかし夢であるはずなのに、私の腕には大きなあざがしばらくの間残り、何日も夜になると泣き叫ぶ様になった。


 そう両親に聞いている、なにぶん幼い子どもだったので幸いながら記憶には残っていない。


 親は半信半疑であったようだが、7才になり同じ夢を、見たとわかると元冒険者だった父は私に……。


「いいか、お前か怖い夢を見る事はわかった。しかし1回目の段階で、街の司祭様にまで伝えたが、国は動いくれないようだ……」


「お父さん……私たち死んじゃうの?……」

 そう言って泣く事しか出来ない私に、父は言った。


「お前を助ける私の姿が見えないのは、私が死んでいるか、その場に立ち会えない事情があるからだ……だから、己を鍛えろ! そして筋肉を育てろ!」


「きんにく?」


「そうだ。筋肉を育てて、立派な剣士になるのだ! きんに――くぅ――!」


「きんに――くぅ――!」


 父は、剣を高く掲げて、私は右手を掲げて、その日、私たちは魔族打倒を誓った。春の風が私たちの髪と服をはためかせていた。


 その日、母は無理をしてお金を払い、鶏を飼っているソルさんから、鶏を分けてもらい調理した。私は調理の様子を泣きながら見ていた。


 そしてその日、無理して食べた鶏はとてもぷりぷりとしていて、野菜の味と美味しくてとても深い味がした。筋肉がもりもりになるはずだ!


 それから父の大工の仕事が終わると、父と剣の稽古をした。

 休みの日はリュックを背負って、雨の日でも山へ行くそんな日々を送った。


 しかしある日、同じ年頃のラッチとタセムに石を投げられる。長かった髪もバッサリ切り、男子のように振る舞う私が邪魔だったのだろう。


「お前うぜぇ! 男みたいな事してんな。母ちゃん言ってたぞ、お前がオークを連れて来るんじゃないかってな」


 岩の上に乗っていたラッチめがけ、走って行き「お前は知らないから、あのひどい景色を! 好きで見ているわけではないのに!?」そう言い襟首をガクンガクンと、ふったら泣いて逃げて行った。


 3,4回目は、10才の冬と12才の春に見た夢は、オークに対して剣で戦ってはいるが、技術不足と一人で戦う事についての限界を表していた。一匹目は倒せるようになったが、次から次へ現れるオークをさばき切れずじり貧になる。


 その頃には、私一人で町長の家へ出向いたり、城から村へやって来る役人と、話すようになった。


 私の夢は預言と認定され、研究されているようだった。そのため願いでた、街の国立の貴族や優秀な者たちのため学校への入学はあっさり許可が降りた。


 私は剣士であったが転向可能って事だったので、最初は魔法を専門に学んでいた。


 剣士の基礎は出来ていたので、魔法剣士になるべくそう選択をする。


 そして予定通りパーティーを組む頃になると、剣士を専門の科へと変更したが、時期が悪かったようで、仲の良かった聖女候補のミリィムは勇者ではないか? と言われていたサークレイと先生によってパーティーを組まされた後だった。


「フリスレットは同じ回復魔法を、極めると思ってたのに……」


 彼女は、科を転向したと聞き、校舎裏の桜の木の下に私を呼びだしさめざめと泣いていた。


 彼女は貴族で、教会に正式し所属しているわけではないが、白く清楚な聖女のためのドレスを着ても差し障りのないほどの、気品と清楚さを身につけて、感情的に泣くタイプではないので、この事態に私さえも動転していた。


 その時、いつもの聞きなれた声がする。


「ミリィム、ちゃんと納得してサークレイのパーティーに入ったのでしょう? なら甘えた事を言ってないでしっかりサークレイのパーティーで頑張るべき、そんなんでフリスレット様の横に立てないわ」


 そう言いった彼女は、いつでも私たちの前に現れる。寮も同室なので大事なことを話す時、彼女が現れて話せない話も多々あった。


「わかってますわパルぺ。フリスレット、ワガママを言ってごめんなさい」


 そう言って聖女候補のミリィムは、白いベールをなびかせて行ってしまった。彼女とパーティーを組む事を夢みて来たのに、現実さえもうまくいかないものだ。


「フリスレット様、あたしとパーティーを組みましょう! この暗黒の黒魔術師のパルぺと! シーフはもうOk貰ってます。フリスレット様ファンクラブのアンナです!」


「えっと……宜しくお願いします」

 少し理解に難しい部分もあったが、背に腹はかえられない。


「でも、ミリィムが絶体に入ると思って回復職には、声をかけていなかったんですの……」


「なら、盾職に声をかけてもらっていい? 回復はアイテムでおぎないましょう」


 そして私たちパーティーは集まり、経験を積む事と比例して夢の中の倒すオークは増え、犠牲者の数が減っていった。しかし夢の中の現実も同時に知ることになり、悩みは尽きる事はなかった。  

            ☆

         

 6回目の勝利を確信していた矢先、15才6回目の夢をみた。そしてパーティーでなんとか、すべてのオークをする事に成功した。


「やったーー!」


「みんな、本当にありがとうこれで安心して寝れる……」


 しかしそれもつかぬ間のあいだだった。


 地響きを上げて、アイツが来た。キングオーク……、オークの住みかの中にだけいるはずのこいつが何故ここに?


 それでも長年の成果か、発狂寸前の気持ちをおさえ戦ったが……、私たちにはヒーラーがいない。傷の蓄積を癒す、薬をのむ暇さえない。


 魔力をとうに切れ、転がる仲間たちの遺体。私は、ミリィムの顔が最後にみたいと思っていた。それはただ彼女を死に誘う事なのに……。


 そしてキングオークが投げた仲間の遺体が、私に当たり、身動きができなくなる。振り上げられた私たちの血で、赤黒い斧を見ながら意識がついえた。


             ★


「大丈夫? フリスレット」

 気がつくと、私は草むらの中でパジャマ姿で、川を見ていた。そして目の前にミリィムがいた。


「ああ……ミリィム本国に居たんだ……」

 彼女はゆっくり、私の背中をさする


「パルぺが、朝、起きた……貴方がいきなり半狂乱になって叫びだし、私の名前を呼んで消えたって……使い魔を寄越したから……。私と一緒に逃げる?」


 背中に、あたたかい水が当たる。


「だめなのうちの村は囮。あの村から誰も逃げる事は出来ない。私が預言したばかりにそう決まってしまった。あの村には両親もいるのに」


「ああ……なんて事なの……」


 それからしばらく私は使い物にならず、ミリィムの部屋に居てただめそめそ泣く置物に成り果てた。

 

           ★


「サークレイに、村を守るための援軍なる事を約束させました!」

 そう彼女が言って来た時、私の体調も少し良くなり、ミリィムの部屋を掃除している時だった。


「ミリィム、本当……」


「フリスレット、本当です。貴方のパーティーに入ると言ってたんですが、やっと援軍に行く事だけを認めてもらいました。大好きです、フリスレット。決して貴方だけを死なせません。


「ミリィム……」

             ★  


 しかしその日見た7回目、運命は、真実を私につきつけたのだ。


 サークレイたちは来ず。私達は雑魚のオークさえも突破出来なかったのだ。


 私は赤黒い炎の様な怒りに包まれていたが、それが広い視野で物事を見るのを妨げてしまっていたのだ。


 一番先に死んだ私は、それが罰であるかのように仲間の死にゆく姿を上空からまざまざと見せつけられた……。


 早く起きた私は、朝はあどけなく眠るミリィムが起きるのを待った

           ☆


 そして起きた、彼女に告げる。


「ミリィム、私はサークレイに勝って勇者の称号と貴方を、あの男から取り上げます。だからミリィム、私の地獄に付き合って」


「はい……わたくしはいつまでも貴方とともに……」

 そう言って私の首に手を回す。


          ☆


 8回目、私はこの国の勇者になっていた。

 勇者になる事で待遇が変わり、私の故郷の多くの村人に兵士が混ざる様になり、オークとの最初の決戦の地に対し入念な計画がたてられる。

          ☆


 そして今回の9回目はオークたちが入って来た当たりで夢は途絶えた。


 誰かが、終演は自分の目で確認するように、取り計らっているとだろう。


 ここでは、20年ぶりの雪がやんだようだし、私も行かなければ、夢の続きを決着をつけに。


  終わり



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辺境の村を守りし乙女たち もち雪 @mochiyuki5

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