【KAC20254】frozen memory

よっしーーーーーー

あの夢をもう一度

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。



 目の前に迫る鉄の塊トラック。もう避けようがない。その時だった。


「お兄ちゃんッ!」


 妹が、僕を、突き飛ばす。直後、僕の意識は暗転した。




「…っはっ!?」


 目が覚める。夢だったようだ。


 ……もう何回目だ、この夢を見るのは。毎年この日になったら必ず出てくる。


 鬱陶しい。




水元みずもとさん!準備、できたっす。いつでもOKっす」


 朝食をとって準備をした後、病室へと向かった。そこには、あの日以来、姿を変えずそこで眠り続けている妹と、何年もかけて作り上げた装置があった。


「そうか、わかった。始めてくれ」




 今年になって、ようやく完成した。


 僕の目の前にあるのは、体の組織を再生させる装置だ。冷凍処理をした患者の体細胞組織を再生させる。細かい仕組みはいちいち言ってられないので割愛する。


「しっかし、先輩、すごいっすよね。妹さんのためにここまでの時間と労力をかけてあげるって、なかなかやろうと思わないと思うんすけど」


「……命の恩人で、たったひとりの家族だからな」


「でもやっぱそこで行動に移すことができるのすげーっすわ」


「…うるさい」


 そう。たったひとりの家族なのだ。


 幼い頃に両親を亡くしてしまったので、家族はもう妹しかいない。


「先輩。起動するっす。……どうぞ」


「…ああ」


 装置を起動する。凍りついていた時間が再び動き出す。


 そして、あの時と全く変わらない姿の妹が目を開けた。


「あれ、わたし…」


「みさきっ!」


 唯一の家族の生きている姿を見ることができて、思わず叫んでしまう。まるで成功したかのように見えた。


 しかし、まだ完全には溶けていなかった。




「…………だれですか?」




「「………え?」」




 何を言っているのか瞬時に理解できなかった僕と助手は固まったが、やがてその意味を理解した2人は顔を青くして再び少女に訊く。


「みさき…?僕のこと、わかるか?」


「…わかんない」


「そんな、ウソだろ……?」


 そのまま、背を向けて立ち去る。


「ちょ、先輩!説明とかしてあげないと」


「……たのむ、今は1人にさせてくれ」


「先輩ッ」


 病室の扉を閉める。中の音はまるでもう聞こえない。


 廊下の壁に崩れ落ちる。


「そんな、まだ、会えないのか」


 いつになったら、みさきと会えるんだ…


「頼む、もう一度、あの夢を、見せてほしい…」

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【KAC20254】frozen memory よっしーーーーーー @JusYbook

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