繋いだ手のぬくもり
輝人
第1話 え…?
夜の電車は、昼間の喧騒とは違い、どこか静かで落ち着いていた。塾の帰り、いつものように疲れた体を電車のシートに預けていると、ふと隣に座る人影に気づいた。
「輝人?」
驚いて顔を上げると、そこには華乃がいた。部活で遅くなったらしく、少し乱れた髪と、肩で息をしている彼女。
「華乃?こんな時間に珍しいね。」
「うん、部活が長引いちゃって…」
自然と会話が始まり、久しぶりに会った嬉しさもあって、2人は時間を忘れて話し続けた。日常の些細なこと、学校での出来事、そしてお互いの小さな夢。話題が尽きることはなかった。
電車はゴトンゴトンとリズムを刻み、車内の明かりが窓に映る。ふと、言葉が途切れた瞬間、突然温かいものが手に触れた。
華乃が、俺の手を握っていた。
「え…?」
驚いて彼女を見ると、華乃は何も言わずにただ前を見ていた。でも、ほんのりと耳が赤い。
(どうしたんだろう…?)
何が起きたのか、理解が追いつかないまま、俺はその温もりを受け入れるしかなかった。でも、不思議と嫌な感じはしない。むしろ、手のひらから伝わる華乃の鼓動に、安心感すら覚えた。
電車はやがて目的の駅に着いた。俺たちは手を繋いだまま、改札を抜け、夜の街を歩く。静かな夜道、2人の影が並んで伸びていく。
華乃の家までの道は、普段よりもずっと短く感じた。心臓の音がいつもより大きく、手のぬくもりが離れないように、俺はそっと力を込めた。
そして、彼女の家が見えてきたとき、ふと立ち止まった。
「華乃、今日は…」
何かを言おうとしたその時、彼女が先に口を開いた。
「…好き。」
その言葉は、冬の空気を溶かすように温かく、俺の心に真っ直ぐ届いた。
「俺も…好きだよ。」
お互いを見つめ合い、恥ずかしさに少し笑ってしまった。繋いだ手は、これからもずっと離れないように、さらに強く握りしめた。
夜空には、星が瞬いていた。
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