第6話 エピローグ──欺瞞が照らした未来


シャンロン軍が占領を完了し、新たに「東アジア平和統治評議会」が設立された後、日本の法律や制度は大きく改変された。表向きは、国民の未来を守るための新制度が次々と発布されていった。しかし、その裏側では、かつての政府統治下で隠蔽されていた重税や不正な資金流用が、シャンロン支配下ではあえて明らかにされるという皮肉な現実があった。


シャンロンは、もう隠すことなく宣言していた。以前の日本政府が、現役世代の手取りを徹底的に削って人口を抑制していたのに対し、シャンロンは自らの新体制の一環として、税金の徴収方法を一新した。従来は、複雑なロンダリングや隠蔽工作により、実際の負担が不透明にされていたが、シャンロンの下では、資金の流れが明確になった。完全に直接徴収されるようになったのだ。


「我々は、税金の透明性を確保するため、全ての徴収を直接行っています。その結果、現役世代の手取りは、かつての政府統治下よりも実際にはかなり増加しています。」

と、シャンロンの広報は余すところなく発表し、国際メディアもこの逆説的な状況を大々的に報じた。皮肉なことに、国民の苦しみを助長していた従来のシステムが、シャンロン支配下で刷新され、結果として労働者の可処分所得はかなり改善された。しかし、これは決して喜ばしい変化ではなかった。政府は、単に自国の経済的利権を守るための表向きの施策として、そうした改善を宣伝するにすぎなかったのだ。


新体制の下、国民は引き続き厳しい統制と管理のもとで生活を送る。しかし、かつての不透明な税負担が一部明るみに出たことにより、シャンロン支配の皮肉な一面が、国内外に広く知れ渡るようになった。

 

東京の街角に掲げられたシャンロンの旗は、冷徹な新秩序の象徴でありながら、同時に「直接徴収」による逆説的な恩恵も露呈していた。国民の間には、かつての重税に苦しんだ記憶と、今となってはわずかに改善された手取りへの微妙な皮肉が、ささやかながらも拡がっていった。

 

「これが、我々の国の未来か……」

 

藤崎直人は、国外へ亡命する決意を胸に、沈みゆく日本の夜景を背にして、最後の別れを告げた。

 

彼の心には、かつて記者として燃え上がった真実への情熱と、国民に訴えかける使命が、痛烈な現実とともに刻まれていた。

 

「真実は、決して隠し通せない。たとえ、俺一人の声でも、国民の心に響くはずだ……」

 

そして、彼は静かに日本を後にした。新たな体制の下、国民は未来への希望を模索しながらも、皮肉な恩恵と共に生きるしかなかった。

 

その姿は、遠い海外のメディアや、密かに燃える記者たちの間で、永遠に忘れられることはないだろう。

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欺瞞が照らす未来 氷室 真一 @StoryWeaver99

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