原点

第23話

次の朝、目覚めると終点松山まではまだ少し時間があった。

私は紙とボールペンを取り出し、思わず手紙を書いた。


昼前、私の家に着いた。

しばらく、家の近くを歩いた。


京都に出発する前から降っていた雨は、丁度上がっていた。

この辺りの山は、みかん畑が多い。

上の方まで、車道が整備されている。

たまに、山の上にも家があるのが見える。

連なる山々の一つに、小さな雲がかかっているのが見える。


幼い頃から見ていた風景であるが、今日は何か違っている。

気が付くと、いつもより上を向いて歩いていた。


携帯に電話があり、急いで家に戻った。

家の前に、宅配便のトラックが止まっていた。

宅配便の営業所に電話して、配達する前に連絡するように頼んでいたのだ。

電車の中で書いておいた手紙を宅配伝票の間に差し込んだ。


チャイムがなり、出てきた母は、その荷物を見て驚いた。

包み紙は京都駅前にある電器店のもので、送り主は私だった。


一昨日、京都駅前に行ったときに買った食器洗い機だった。

母にプレゼントしようと、戸島も一緒に選んで、郵送した。

宅配伝票にはんこを押すと、すぐに手紙を手に取り目を通した。



今日までお父さんとお母さんは、僕のためにいろんな苦労を引き受けてくれました。

にもかかわらず、僕はそれに感謝するどころか二人に当たってきました。

とても反省しています。

でもそれは、これまで二人がしてくれたことがあまりに当たり前のことに思えたから。

当たり前に思えるくらい、二人は僕に愛情を注いでくれたからです。

この年になりやっと大学卒業を迎えることが出来ました。

本当にありがとうございました。

今なら言えます。

生まれてきて本当に良かったと。

しかしお礼として、今の僕が出来ることは余りに限られているでしょう。

これから、色んな人のために何かが出来る人に成り、そして自分がもっと幸せに成ることで少しでも恩返し出来ればと思います。



それを見た母は涙ぐんでいた。


これからも道に迷うこともあるだろう。

時代が変われば、私たちが社会から求められることも変わる。

時代が私たちのやってきたことを否定するかもしれない。


そうすれば、またあの日に立ち返れば良い。

原点に戻って、それからまたゆっくり歩き始めれば。

卒業式の日は、そう思わせてくれる、私の人生の中でいつまでも輝き続ける1日になるだろう。


私の青春は今、始まったばかり。


<<完>>

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学び舎 鴨坂科楽 @kamosaka

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