ただのマフィアのドンなのに、仲間に好かれているのでそのまま裏世界を謳歌しようと思います。

@rina0320

𝑷𝒓𝒐𝒍𝒐𝒈___

小さい頃から寂しい時期を何度か繰り返して来た。


両親は夜勤、育ててくれた親戚も何かと忙しそうにしていて愛された感じはあまりしなかった。

とはいえ、優しく育ててくれたし決して裕福な家庭ではなかったにしろ、何かと私が欲しい物はある程度買ってくれた。

そんな寂しい時間の代わりと言っては何だか、三人の優しい友人に恵まれた。


そんな私が今日、今までの人生を捨てて“裏世界”へと足を踏み入れたのは小さい頃からの寂しさを埋める為だった。


両親や育ててくれた親族と縁を切り、此方の世界へ足を踏み入れた私は此処で人生をやり直すんだと、そう思っていた───のだが。


「ゆーずちゃん!!!」

杠葉ユズリハ

「姉さん」


……昔の知人三人にこっちで逢うなんて、誰が予想出来ただろうか。


────────────────────


流石裏世界、と言うべきか。その辺に伸びてる人が沢山居る。

そんなホストクラブの裏路地みたいな所を歩いて行った先に私が借りた一軒家はあった。


借りるのに面倒な手続きは不要なのは裏の世界故か、私は其処に着いて外観を覚える。

この辺路地が入り組んでるからか外観をちゃんと覚えておかないと大変になる事を貸出のお兄さんに言われた。

ああいう人もちゃんと裏の住人なんだよなと思いながら家のドアを開けると中は割と整備されていた。

少しほこりが落ちているが掃除すれば問題ない、つまり誰かが掃除してくれていたらしい。

前の住人だろうか…と思いながら家の中に入ると其処には一人の女性がうずくまっていた。

「ちょ、大丈夫ですか!?」

慌てて駆け寄ると傷だらけでどうやら気絶しているようだった。玄関入ってすぐの部屋がリビングだったよなと記憶を辿り、リビングを覗けば……ソファーが置かれていた。

どうやら前の入居者の人の荷物が一式置かれているようだ。これは好都合と私は女性をプルプルと震える足でおんぶしつつソファーまで運んだ。


女性にはあざも見受けられた。虐待か何かを受けていたのだろうか、それで逃げ込んで来たとか。

私は取り敢えず持ってきていた荷物を下ろし、リビングと併設されているキッチンに向かう。

既に貸出人であるお兄さんに電気代その他諸々を支払っている為、電気も火も通る筈だ。

試しにコンロのつまみを回してみるとボッと音を立てて青色の火が立った。

それなら今日分のご飯を作ろうと私が嬉々として荷物の入ったリュックから途中のスーパーで買って来た食材を取り出そうとすると、衣擦れの音が耳に届いた。

「ん……ぅ……」

どうやら女性が目を覚ましたらしい、私は水のペットボトル片手に女性の方へ向かった。


「あれ、此処は……」

どうやら女性は混乱しているのか辺りを見渡して私を見つけると恐るように身を縮めた。

「初めまして、お姉さん。私は此処の家を借りた者なのですが、お姉さんはどちらから?」

水のペットボトルを差し出しながら問うと、此方を恐る恐るといった様子で見上げながら口を開いた。

「私は……その、此処に捨てられて」

捨てられて……という事は親が相当最悪な奴だと見受けられる。今すぐにでもボコボコにしてやりたい気分ではあるが取り敢えずお姉さんに水を飲んでもらうのが先だろう。

「成程、取り敢えずお水をどうぞ。……お名前をお伺いしても?」

私がそう聞くと、お姉さんはペットボトルを受け取り水を一口飲んでから口を再び開いた。

叶奏かな…です。依崎いざき叶奏」

……ん????

此処で私の思考がフリーズした。依崎叶奏、という名前を私は知っていたからだ。

勿論、指名手配犯とかではなく……昔の友人の名前である。寂しい時間を埋めるようにたくさん遊んだうちの一人、それが依崎叶奏。


ただ彼女も大人になるにつれ、連絡が取れなくなり私が裏世界に足を踏み入れると決意した頃には連絡先も住所も知らないくらい疎遠になっていた。

その人物が今、目の前に居ると????

確かによく見れば幼い頃の叶奏と面影が被る。

じゃあ目の前の人物が本当に叶奏…なのか。

でも私は名乗る事を躊躇していた、何故なら突然「私は貴女の友達だった人だよ!」なんて言われても混乱するだけだからだ。

取り敢えず名乗らないのは不自然なので……

「初めまして叶奏さん、ユズリハと申します」

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