『12月21日、返却期限当日』

恋をした。そして別れた。

非常によくあることで、非常につまらない結末で。けれどまだ受け止めきれない自分もいる。

そんな憂鬱の中、再び恋をした。



 廊下を歩いていると自分の足音が響く。放課後の人気のない校舎は12月の寒さですっかり冷え切っていた。明日は初雪になるそうだ。本を持つ手がかじかむがそんなこと気にすることもできず早足で図書室へ向かう。今日の返却を逃すと延滞となり、ペナルティーでしばらく本が借りられなくなってしまう。最新の文庫本まで置いてくれてある図書室を使えなくなるのは痛手なのでなんとか間に合うように急いでいるのだ。ギリギリ間に合ったと思い扉を開けると中には1人の女子生徒が本を片しているだけだった。文学少女、と言う形容をすることができそうな澄んだ空気を纏った少女は扉が開いた音に反応してこちらに振り向き、声をかけてくる。一瞬反応が遅れたものの本を返しにきたのだと言うことを伝えると慣れた手際で読み取り端末を起動して返却の手続きを済ませた。そして次の巻を手早く棚から取り出して貸し出し処理をしてもらい、それから世間話をすることもなく素早く図書室を出た。再び急がなければならなかったのだ。

図書室から出た後は校舎の反対側の体育館へ向かう。本を返していたから部活動の終了時間が少し過ぎてしまっている。恋人はいつも遅れることを許さない。ましてやこの気温と同様に冷えてしまっている段階ではなおさら許されないだろう。息を切らしながら体育館に着くとすでにそこには誰もいなかった。焦ってスマホを確認するとそこにはただただ報告としての冷たい文章で先に帰っている旨と別れの言葉が書かれていた。泣くこともできず、ただ呆然としていた。気づいたら家に帰っていて、布団の上で悲しさと悔しさと無気力さでぐちゃぐちゃな脳から体を守るように寝落ちした。

それから1週間、学校にも行くことができなかった。


 ちょうど1週間後、本の貸し出し期限の当日であることに気づいた。1週間休んでいることにしたら些事なはずであるがその時はなぜかそのことが気になり、返しに行こうと思い立った。しかし、人目につくのは嫌なので、図書室が閉じるギリギリ、この前と同じ時間に行こうと決めた。夕方になって制服を着て身なりを整える。それから普段は帰宅する方に歩く時間に、逆方向に歩いて学校へ向かった。校舎は今日も冷たく静寂に包まれており、なんとなく自分の心と重なるようであった。図書室に着くとこの前と同じように例の文学少女しかいなかった。よくよくネクタイを見るとどうやら1学年上の先輩のようだ。彼女はこちらを向くと、こないだと同じように返却の手続きをする。すると彼女が、どうかしたのか、と聞いてきた。声をかけられたことに驚きながらなんで返そうか逡巡した後に、どうして、と聞き返すと、顔色が良くないから、と尤もな返事を貰ってしまった。なんとなくつい最近振られてしまってずっと休んでいたことを話すと彼女は、少し待って、と言い、カウンターの引き出しを漁って一枚の花の絵が書かれた栞を取り出した。その栞に書かれた花には心当たりがあった。ちょうど今借りているシリーズに出てくる鈴蘭だ。確か花言葉は───


その時、新たな恋を自覚した。




「どうだい、元気付けられたかな?」





鈴蘭(スズラン)

花言葉

「再び幸せが来る」

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