愛した人は、人魚だったのかもしれない

夢で見る海は、いつも同じだった。
青く輝く浜辺に、愛する妻と共に立つ。
そこに現れるのは、海から手を振る人魚たち。
彼女たちに導かれ、男は妻を抱き、海へと沈んでいく。

目が覚めれば、そこには死の影が横たわる現実がある。
原因不明の病に蝕まれ、眠る妻。
医者にも仏にも見放された男は、ただ夢だけを頼りに祈り続ける。

「私を、海へ連れて行って」

微かに開かれた瞳が、最後に告げた願い。

男は、狂気にも似た覚悟を決める。
故郷・瀬戸内海の人魚伝説の残る浜辺へと、妻を連れ出すのだ。
それは生と死の境を越える旅だった。

これは、ひとつの奇跡を願った男と、
海から来たのかもしれない女の、
静かで、激しい、最後の愛の物語。

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