## 【最終決戦】星の城への挑戦

闇の塔の移動装置に全員が集まった。四人の守護者、レイン、エリナ、ルーク、シルヴィア。彼らは星の城への最終決戦に向けて、緊張した面持ちで立っていた。


「全員、準備はいいか?」ファリオンが尋ねた。


全員が頷いた。


「星の城への直接の移動は危険だ」ウンブラリウスが警告した。「結社は侵入者を感知する結界を張っているだろう」


「どうすれば?」レインが尋ねた。


「星の城の外周部、古い廃墟に移動しよう」テラムスが提案した。「そこから侵入経路を探る」


ウンブラリウスが闇の鍵を中央の紋章にかざし、古代語で呪文を唱えた。


「星の継承者の血よ、道を開け。星の城アストラリスの周縁部への道を示せ」


レインの左手の痣が反応し、七つの星が同時に輝き始めた。台座全体が虹色の光に包まれ、彼らを取り囲んだ。


世界が白い光に包まれ、次に目を開けた時、彼らは廃墟となった古代の建物の中に立っていた。風化した柱と崩れた壁に囲まれ、遠くには白く輝く星の城の輪郭が見えた。


「無事に到着したようだ」メタリウスが周囲を確認した。


「ここはアストラリスの外周部」ファリオンが説明した。「かつては市民の住居があった場所だ」


レインは星の城を見つめた。白い塔と壮麗な建物群が遠くに見える。そこに仲間たちが捕らえられ、結社が儀式の準備を進めている。


「どうやって侵入する?」ルークが尋ねた。「前回は正面から入ったが、今回はそうはいかないだろう」


「古代の秘密通路がある」シルヴァーナスが言った。「七つの都市から星の城へ通じる地下道だ」


「結社はそれを知らないのか?」シルヴィアが疑問を呈した。


「知っているかもしれないが、全ては把握していないはずだ」テラムスが答えた。「特に闇の道は見つけにくい」


「闇の道?」エリナが尋ねた。


「闇の都から星の城へ通じる秘密の通路だ」ウンブラリウスが説明した。「現実と影の境界を通るため、通常の方法では見つけられない」


「その入口はどこだ?」レインが尋ねた。


ウンブラリウスは廃墟の奥へと彼らを導いた。崩れた神殿のような建物の下に、小さな祠があった。その床には七つの星の紋章が刻まれている。


「ここだ」ウンブラリウスが言った。「星の継承者の血で開く」


レインは左手の痣を祠の紋章に当てた。痣が反応して七色に輝き、床に刻まれた紋章も同じように光り始めた。床が音もなく開き、下へと続く暗い階段が現れた。


「これが闇の道だ」ウンブラリウスが言った。「私が先導しよう」


一行は階段を下り始めた。階段を降りるにつれ、周囲の景色が変わっていった。壁は半透明になり、その向こうには星空のような無限の闇が広がっていた。


「この通路は現実と影の境界を通っている」ウンブラリウスが説明した。「結社の感知魔法を避けられる」


「どれくらいで星の城に着くんだ?」ルークが尋ねた。


「時間の感覚が異なるため、正確には言えない」ウンブラリウスが答えた。「だが、実時間では約一時間だろう」


通路を進みながら、彼らは作戦を練った。


「まず、捕らえられている三人を救出する」ファリオンが言った。「それから儀式の場に向かう」


「結社のメンバーは多い」テラムスが警告した。「正面からの戦いは避けるべきだ」


「私たち守護者が囮になろう」シルヴァーナスが提案した。「レインたちが仲間を救出している間に、注意を引く」


「危険すぎる」レインが反対した。


「心配するな」メタリウスが言った。「我々は3000年以上生きてきた守護者だ。簡単には倒されん」


「それに」ウンブラリウスが付け加えた。「我々が力を合わせれば、相当の戦力になる」


レインは渋々同意した。「わかりました。では、私たちが仲間を救出している間、守護者たちは囮になる。そして全員で合流した後、儀式の場に向かう」


「そうだ」ファリオンが頷いた。「だが、アーサーとの直接対決は避けるんだ。彼の力は我々全員を合わせても危険だ」


「目的は儀式を阻止し、仲間を救うこと」テラムスが強調した。「それが達成できれば、一時的な撤退も辞さない」


通路をさらに進むと、やがて上り坂になり、前方に光が見えてきた。


「星の城の地下に到着する」ウンブラリウスが言った。「ここからは慎重に」


出口に近づくと、ウンブラリウスは一同を止め、前方を確認した。


「安全だ」彼は言った。「結社のメンバーはいない」


彼らは出口から外に出た。そこは星の城の地下、古い貯蔵庫のような場所だった。壁は白い石で作られ、天井からは青白い光が漏れていた。


「ここは星の城の最下層」ファリオンが説明した。「かつては古代の技術や文書が保管されていた場所だ」


「捕らわれている仲間たちはどこだ?」レインが尋ねた。


シルヴァーナスは小さな緑の種を取り出し、床に置いた。種から細い蔓が伸び、床の隙間に入り込んでいった。


「生命の探索」彼女は説明した。「城内の生命を感知する」


蔓が床全体に広がり、やがて三つの方向に強く伸びていった。


「三つの場所に分かれているようね」シルヴァーナスが言った。「北東の塔にイグニウス、西側の牢にマーカス教授とオルドリッチ館長がいるわ」


「分かれて救出しよう」レインが提案した。「私とエリナがイグニウスを、ルークとシルヴィアが教授と館長を」


「我々四人は中央神殿へ向かい、囮となる」ファリオンが言った。「彼らの注意を引きつける」


「合流場所は?」エリナが尋ねた。


「南の小神殿」テラムスが答えた。「かつては星の研究所だった場所だ。目立たず、防御も固い」


「全員、これを持っていけ」ウンブラリウスが小さな黒い石を全員に配った。「危険を感じたら砕くんだ。一時的に姿を隠せる」


「準備はいいか?」ファリオンが全員を見回した。


全員が決意の表情で頷いた。


「では、行くぞ」


一行は地下から上の階へと向かった。星の城の内部は想像以上に広大で、白い石と青い結晶で構成された壮麗な建築だった。幸いにも、この区域には結社のメンバーの姿はなかった。


「ここで分かれよう」ファリオンが言った。「気をつけろ」


四人の守護者は中央へと向かい、レインたちは別々の方向へ分かれた。


レインとエリナは北東の塔へと向かった。彼らは壁に沿って慎重に進み、結社のメンバーを避けながら移動した。


「イグニウスはどんな人なの?」エリナが小声で尋ねた。


「火の守護者だ」レインは答えた。「頑固だが、勇敢で力強い人だった。彼は私たちを守るために残ったんだ」


塔の入口に到着すると、二人の黒衣の結社メンバーが立っていた。


「どうする?」エリナが囁いた。


レインは左手の痣に意識を集中させた。「風の力で…」


彼は小さな風の渦を作り出し、遠くの廊下に投げた。風が壁に当たり、音を立てる。


「何だ?」一人の見張りが言った。


二人の見張りが音の方向へ向かったところで、レインとエリナは素早く塔の中に滑り込んだ。


塔の内部は螺旋階段になっており、上へと続いていた。二人は静かに階段を上り始めた。


「感じる…」レインは左手の痣を見た。「イグニウスの気配がある。上の方だ」


階段を上りきると、彼らは大きな円形の部屋に出た。その中央に特殊な魔法の檻があり、その中にイグニウスが閉じ込められていた。彼は重傷を負っているようだったが、まだ意識はあるようだった。


「イグニウス!」レインは小声で呼びかけた。


老人は弱々しく顔を上げた。「レイン…?来たのか…」


「助けに来ました」レインは檻に近づいた。「どうすれば開けられますか?」


「この檻は…特殊な封印魔法で守られている」イグニウスは弱い声で言った。「七つの鍵の力が必要だ…」


レインは左手の痣に意識を集中させた。七つの星が輝き、痣から虹色の光が放たれた。光が檻に触れると、封印が解け始めた。


「効いている!」エリナが喜んだ。


檻が開き、イグニウスが解放された。彼は立ち上がろうとしたが、足元がおぼつかない。


「大丈夫ですか?」レインが彼を支えた。


「力を奪われた…」イグニウスは苦しそうに言った。「結社は私から火の力の一部を抽出した…」


「酷い…」エリナが怒りの表情を見せた。


「アクアリアからもらった生命の泉の水を飲ませよう」レインはフラスコを取り出した。


イグニウスは水を飲み、少し元気を取り戻したようだった。


「ありがとう…」彼は感謝した。「だが、まだ完全ではない」


「南の小神殿に向かいましょう」レインが言った。「そこで他の皆と合流します」


三人は慎重に塔を降り始めた。


一方、ルークとシルヴィアは西側の牢へと向かっていた。彼らも同様に結社のメンバーを避けながら進んだ。


「ここだ」シルヴィアが牢の入口を指さした。


四人の見張りがいた。ルークは剣を抜こうとしたが、シルヴィアが止めた。


「別の方法があるわ」彼女はメダリオンを取り出した。「木の力で…」


彼女はメダリオンに息を吹きかけ、緑の粉を放った。粉は風に乗って見張りたちに向かい、彼らの周りを舞った。


「何だ?」一人が言ったが、すぐに全員が眠りに落ちた。


「睡眠の粉」シルヴィアは微笑んだ。「効果は短いけど、十分よ」


二人は牢の中に入った。奥の檻にマーカス教授とオルドリッチ館長が閉じ込められていた。二人とも疲れた様子だったが、大きな怪我はないようだった。


「教授!館長!」ルークが呼びかけた。


「ルーク!シルヴィア!」マーカス教授が驚いた様子で立ち上がった。「どうやって…」


「説明している時間はありません」シルヴィアが言った。「早く出ましょう」


ルークは剣で鍵を壊そうとしたが、効かなかった。


「魔法の鍵だ」オルドリッチ館長が言った。「通常の方法では開かない」


「レインから預かった木の種を使おう」シルヴィアは小さな緑の種を取り出した。


彼女は種を鍵穴に入れ、古代語で呪文を唱えた。種から細い蔓が伸び、鍵穴の中で成長し、内部の機構を押し開いた。


「見事だ!」マーカス教授が感嘆した。


檻が開き、二人が解放された。


「南の小神殿に向かいましょう」シルヴィアが言った。「そこで他の皆と合流します」


四人は慎重に牢を出た。


一方、四人の守護者たちは中央神殿へと向かっていた。彼らは堂々と歩き、あえて存在を隠さなかった。


「準備はいいか?」ファリオンが尋ねた。


「いつでも」テラムスが頷いた。


四人は中央神殿の大扉を開け、中に入った。


神殿内部は前回レインたちが見た時よりも、さらに儀式の準備が進んでいた。七つの祭壇が円を描くように配置され、中央には大きな装置が設置されていた。多くの結社メンバーが忙しく動き回っていた。


「侵入者だ!」誰かが叫んだ。


全ての動きが止まり、結社のメンバーたちが四人の守護者に気づいた。


「守護者たちか…」アーサー・ノイマンの冷たい声が響いた。


彼は中央の装置の近くに立っていた。黒い外套を身にまとい、左目の義眼が青く輝いていた。


「アーサー・ノイマン」ファリオンが毅然とした態度で言った。「お前の計画はここまでだ」


「愚かな老人たち」アーサーは嘲笑した。「お前たちが私を止められると思っているのか?」


「我々は3000年の時を生きてきた守護者だ」テラムスが言った。「お前の禁断魔法など恐れはしない」


「そうか…」アーサーの口元に不気味な笑みが浮かんだ。「では、お前たちの力を試させてもらおう」


彼は部下たちに合図した。「全員で攻撃しろ!だが、生きたまま捕らえよ。儀式に利用できる」


数十人の黒衣の結社メンバーが四人の守護者に向かって襲いかかった。


「始まったな」シルヴァーナスが静かに言った。


四人の守護者は背中合わせに立ち、それぞれの力を発動させた。


ファリオンは風の鍵の力で強力な竜巻を作り出し、敵を吹き飛ばした。テラムスは地の鍵の力で床から石の壁を作り出し、防御した。シルヴァーナスは木の鍵の力で蔓を生やし、敵を絡め取った。メタリウスは金の鍵の力で金属の矢を作り出し、敵の魔法を打ち消した。


「見事な連携だ」アーサーは冷静に観察していた。「だが、まだまだ…」


彼は左手を上げ、黒い魔力を溜め始めた。


「気をつけろ!」ウンブラリウスが警告した。


アーサーの放った黒い魔力の波が四人に向かって押し寄せた。四人は力を合わせて防御壁を展開したが、衝撃で後方に吹き飛ばされた。


「私の力はもはや人間のものではない」アーサーは冷たく言った。「禁断の魔法で強化された力だ」


「だが、その代償は大きいだろう」ファリオンは言った。「お前の命は削られている」


「小さな代償だ」アーサーは笑った。「星の力を手に入れれば、永遠の命も可能になる」


四人の守護者は再び立ち上がり、攻撃を続けた。彼らの目的は時間を稼ぐことだ。レインたちが仲間を救出するための時間を。


一方、レインとエリナはイグニウスを連れて南の小神殿に向かっていた。途中、ルークたちのグループと合流した。


「教授!館長!」レインは喜んで二人に駆け寄った。


「レイン!」マーカス教授は笑顔を見せた。「よく来てくれた」


「イグニウスも無事だったのね」オルドリッチ館長はほっとした様子で言った。


「まだ弱っているが…」イグニウスは頷いた。「何とか動ける」


「急いで小神殿に向かいましょう」エリナが言った。「守護者たちがどれだけ時間を稼げるか分からない」


七人は慎重に城内を移動し、南の小神殿に到着した。そこは比較的小さな建物で、外見は目立たなかったが、内部は広く、七つの柱で支えられていた。


「ここで守護者たちを待ちましょう」レインが言った。


「彼らは大丈夫かしら?」シルヴィアが心配そうに尋ねた。


「四人とも強い」イグニウスは弱々しく、しかし確信を持って言った。「簡単には倒されん」


しかし、時間が経っても守護者たちは現れなかった。


「何かあったのかもしれない」ルークが不安そうに言った。


「確認に行くべきだろうか?」マーカス教授が尋ねた。


レインは決断を迫られた。仲間たちの安全を守るべきか、それとも危険を冒してでも守護者たちを助けるべきか。


「私が行きます」レインは決意を固めた。「皆はここで待っていてください」


「一人では危険だわ」エリナが反対した。


「私も行く」ルークが剣を構えた。


「いや」レインは首を振った。「私には七つの鍵の力がある。それに、皆が全員行けば目立ちすぎる」


「少なくとも私は一緒に行くわ」エリナが強く言った。彼女の目には決意が満ちていた。


レインは彼女の表情を見て、渋々同意した。「わかった。エリナだけ」


「気をつけて」シルヴィアが二人を見送った。


レインとエリナは小神殿を出て、中央神殿へと向かった。途中、彼らは物陰に隠れながら進んだ。


中央神殿に近づくと、激しい魔法の衝突音と叫び声が聞こえてきた。


「まだ戦っている」エリナが言った。


二人は神殿の側面から中を覗いた。


中央神殿内部は戦闘の痕跡で荒れていた。多くの結社メンバーが倒れていたが、四人の守護者も苦戦しているようだった。ファリオンとテラムスは魔法の鎖で拘束され、シルヴァーナスとメタリウスはまだ戦っていたが、疲労の色が見えた。


アーサーは中央に立ち、黒い魔力を纏っていた。彼の周りには強力な結社の幹部たちが数人いた。


「守護者たちが捕まりそうだ」レインは焦りを感じた。


「どうする?」エリナが尋ねた。


レインは考えた。直接介入すれば、自分も捕まる可能性が高い。しかし、守護者たちを見捨てるわけにもいかない。


「囮になる」レインは決意した。「私が注意を引きつける。その間に、エリナが守護者たちを解放して」


「危険すぎるわ」エリナが反対した。


「他に方法がない」レインは静かに言った。「私は星の継承者だ。アーサーは私を殺さない。儀式に必要だから」


エリナは不安そうな表情を見せたが、状況の深刻さを理解していた。


「わかったわ」彼女は渋々同意した。「でも、無理はしないで」


レインは左手の痣に意識を集中させた。七つの星が輝き、新たな力が湧き上がるのを感じた。


「行くぞ」


レインは神殿の扉を開け、堂々と中に入った。


「アーサー・ノイマン!」彼は声を張り上げた。「私を探していたんじゃないのか?」


神殿内の全ての動きが止まった。アーサーの顔に驚きと喜びの混じった表情が浮かんだ。


「レイン・グレイソン…」彼は満足げに言った。「ついに現れたか」


「仲間たちを解放しろ」レインは毅然とした態度で言った。


「お前が自ら来てくれたのだから、もう彼らは必要ない」アーサーは微笑んだ。「だが、解放するつもりもない」


「レイン、逃げろ!」ファリオンが叫んだ。


レインは一歩前に出た。「私が欲しいんだろう?ここにいる」


「賢明だ」アーサーは頷いた。「抵抗せず、儀式に協力すれば、仲間たちの命は保証しよう」


「信じられるわけないだろう」レインは冷ややかに言った。


彼は左手の痣を輝かせ始めた。七つの星が光を放ち、神殿内を照らした。


「七つの鍵の力を得たのか…」アーサーの目が驚きで見開かれた。「予想以上だ」


「お前の計画は終わりだ」レインは言った。


「いいや、始まりだ」アーサーは笑った。「お前が七つの鍵の力を得たことで、儀式はより完全になる」


彼は部下たちに命じた。「彼を捕らえろ!だが、傷つけるな!」


数人の結社メンバーがレインに向かって動き出した。その時、レインは左手から強力な風の波を放った。敵が吹き飛ばされる中、エリナが物陰から現れ、守護者たちの方へと走った。


「彼女を止めろ!」アーサーが叫んだ。


しかし、レインは次々と魔法を放ち、敵の注意を引きつけた。火の球、水の矢、地の壁、木の蔓、金の刃、そして闇の霧。七つの力を次々と使いこなしていく。


エリナはファリオンとテラムスの元に辿り着き、木の種を使って魔法の鎖を解こうとした。


「急いで!」彼女は必死に種に力を注いだ。


アーサーはレインの攻撃を軽々と防ぎながら、冷笑した。


「見事な力だ」彼は言った。「だが、まだ未熟だ。真の星の杖を作り出せていない」


「それでも十分だ」レインは言い返した。


彼は左手の痣に全ての力を集中させた。七つの星が輝き、中心に新たな星が形成され始めた。痣から強烈な光が放たれ、神殿全体を照らした。


「星の杖…!」アーサーの表情が変わった。


レインの左手から光が伸び、星の杖の形を取り始めた。七つの星を冠した青い杖だ。


「間に合わない!」アーサーは怒りの形相で叫んだ。


彼は両手に黒い魔力を溜め、レインに向かって放った。レインは星の杖で防ごうとしたが、まだ完全に形成されておらず、衝撃で後方に吹き飛ばされた。


「レイン!」エリナが叫んだ。


彼女はファリオンとテラムスの鎖を解くことに成功していた。二人の守護者は自由になるとすぐに、シルヴァーナスとメタリウスを助けに行った。


「星の継承者を捕らえろ!」アーサーは部下たちに命じた。


レインは痛みをこらえながら立ち上がった。左手の痣はまだ輝いていたが、星の杖の形成は中断されていた。


「まだだ…」彼は呟いた。


四人の守護者が解放され、レインの元に駆けつけた。


「レイン、撤退するぞ!」ファリオンが言った。


「でも…」レインは躊躇った。


「今は時ではない」テラムスが言った。「力を蓄え、完全な星の杖を形成してからだ」


結社のメンバーたちが四方から迫ってくる中、彼らは選択肢がなかった。


「わかった」レインは頷いた。


ウンブラリウスは黒い石を砕き、彼らの周りに闇の霧を発生させた。


「急げ!」彼は言った。


六人は霧の中を急いで神殿を出た。アーサーの怒号が背後から聞こえてきた。


「逃がすな!星の継承者を捕らえろ!」


彼らは急いで南の小神殿へと向かった。途中、何人かの結社メンバーと遭遇したが、守護者たちの力で撃退した。


小神殿に到着すると、待っていた仲間たちが安堵の表情を見せた。


「無事だったのね!」シルヴィアが喜んだ。


「急いで逃げるぞ」ファリオンが言った。「アーサーたちがすぐに追ってくる」


「どこへ?」マーカス教授が尋ねた。


「風の都だ」テラムスが答えた。「そこなら守りやすい」


「移動装置はあるのか?」オルドリッチ館長が尋ねた。


「ある」ウンブラリウスが頷いた。「小神殿の地下にも古代の移動装置がある」


彼らは急いで小神殿の地下へと向かった。そこには確かに、他の塔と同様の円形の台座があった。


「皆、乗れ」ファリオンが指示した。


全員が台座に乗り込むと、四人の守護者がそれぞれの鍵を取り出し、中央の紋章にかざした。


「星の継承者の血よ、道を開け」彼らは同時に唱えた。「風の都エアリアへの道を示せ」


レインの左手の痣が反応し、台座全体が虹色の光に包まれた。


背後から結社のメンバーたちの足音が近づいてきた。


「急げ!」ルークが叫んだ。


光が彼らを包み込み、世界が白く変わった。


次に目を開けた時、彼らは風の都の中央広場にいた。


「無事に到着した」シルヴァーナスがほっとした様子で言った。


しかし、レインの表情は暗かった。


「失敗してしまった…」彼は悔しそうに言った。「星の杖を完成させられなかった」


「そんなことはない」ファリオンが彼の肩に手を置いた。「お前は七つの鍵の力を得た。あとは星の杖を完全に形成するだけだ」


「でも、どうやって?」レインが尋ねた。


「星の間での儀式が必要だ」ウンブラリウスが言った。「だが、星の城の星の間は結社に占拠されている」


「風の都の星の門を使えばいいのでは?」エリナが提案した。


「それは入口に過ぎない」テラムスが説明した。「完全な儀式には真の星の間が必要だ」


「では、どうすれば…」レインは途方に暮れた。


「方法はある」イグニウスが弱々しく、しかし確信を持って言った。「七つの都市の力を結集すれば、ここに一時的な星の間を作り出せる」


「本当か?」レインは希望を見出した。


「ああ」イグニウスは頷いた。「古代の記録にある。緊急時の儀式だ」


「どうすればいい?」レインが尋ねた。


「風の都の中央広場に七つの都市の象徴がある」ファリオンが説明した。「あの七つの塔だ。我々七人の守護者がそれぞれの塔に力を注げば、中央に星の間を開くことができる」


「だが、イグニウスは弱っている」メタリウスが心配そうに言った。「力を注ぐのは危険だ」


「私は大丈夫だ」イグニウスは強く言った。「これが最後の務めになるかもしれないが、星の継承者を助けるためなら」


「そんな…」レインは動揺した。


「心配するな」シルヴァーナスが優しく言った。「我々は3000年生きてきた。いつかは終わりが来る。それが星の継承者を助けるためなら、本望だ」


「でも…」


「時間がない」テラムスが言った。「満月は明日の夜だ。それまでに星の杖を完成させ、結社の計画を阻止しなければならない」


レインは苦しい決断を迫られたが、状況の緊急性を理解していた。


「わかりました」彼は重い口調で言った。「でも、できる限り無理はしないでください」


「準備をしよう」ウンブラリウスが言った。「儀式は満月の前、今夜行う」


一行は風の都の中央神殿に移動し、休息と準備を始めた。マーカス教授とオルドリッチ館長は古代の文書を調べ、儀式の詳細を確認した。シルヴィアとルークは風の都の防御を固め、結社の襲撃に備えた。


レインはエリナと共に、神殿の外の小さな庭園に座っていた。彼の表情は暗く、思い悩んでいた。


「大丈夫?」エリナが優しく尋ねた。


「わからない」レインは正直に答えた。「これまでの旅で多くのことを学び、七つの鍵を手に入れた。でも、最終的な選択はまだ決められない」


「どんな選択?」


「星の力を共有するか、永久に封印するか」レインは空を見上げた。「どちらも完璧な答えではない」


「そう思うなら、第三の道を探せばいいのよ」エリナは提案した。


「第三の道?」


「ええ」彼女は頷いた。「闇の精霊も言っていたでしょう?バランスが重要だって」


レインは思い出した。闇の精霊との対話で、彼は光と闇のバランスを見出した。完全な光も、完全な闇も正解ではなく、均衡こそが重要だと。


「そうか…」レインは考え込んだ。「完全な共有でも、完全な封印でもない何か…」


「あなたなら見つけられるわ」エリナは彼の手を握った。「だって、あなたは七つの鍵の力を全て理解した最初の星の継承者なんだから」


レインは彼女の言葉に勇気づけられた。「ありがとう、エリナ」


夜が訪れ、満月の前夜となった。風の都の中央広場には七人の守護者と、レインたちが集まっていた。


七つの塔が円を描くように立ち、その中央には星型の台座があった。かつて、この場所で古代人が星の力を研究していたのだろう。


「準備はいいか?」ファリオンが全員を見回した。


守護者たちは頷き、それぞれの塔の前に立った。


ファリオンは風の塔、イグニウスは火の塔、アクアリアは水の塔、テラムスは地の塔、シルヴァーナスは木の塔、メタリウスは金の塔、ウンブラリウスは闇の塔。


「レイン、中央の台座に立て」ファリオンが指示した。


レインは台座に立った。左手の痣は既に七つの星が完全に輝き、中心に新たな星が形成されつつあった。


「皆、力を注ぐぞ」ファリオンが言った。


七人の守護者はそれぞれの鍵を掲げ、古代語で呪文を唱え始めた。七つの塔が反応し、それぞれの色で輝き始めた。風の塔は青く、火の塔は赤く、水の塔は水色に、地の塔は茶色に、木の塔は緑に、金の塔は金色に、闇の塔は紫に輝いた。


七色の光が中央に集まり、レインを包み込んだ。彼の周りの空間が歪み始め、星空のような景色が現れた。


「星の間が開いている!」マーカス教授が驚嘆の声を上げた。


レインは星の間の中に立っていた。周囲には無数の星が瞬き、青い光の流れが空間全体を満たしていた。これは風の都の星の門を通った時と同じ光景だった。


「レイン」ファリオンの声が響いた。「星の継承の儀式を行うんだ。左手の痣に意識を集中させろ」


レインは目を閉じ、左手の痣に全ての意識を向けた。七つの星の力が彼の中で共鳴し、中心に新たな星を形成しようとしている。


「星の継承者の血よ、目覚めよ」彼は古代語で唱えた。「七つの力を一つに」


痣から強烈な光が放たれ、七色の光が渦を巻いた。光が伸び、星の杖の形を取り始めた。


しかし、何かが足りないようだった。杖は完全には形成されず、光が不安定に揺らめいていた。


「何か…足りない」レインは苦しみながら言った。


「何が必要なんだ?」エリナが心配そうに尋ねた。


「決断だ」ウンブラリウスの声が響いた。「星の継承者は最終的な選択をしなければならない。力を共有するか、封印するか」


レインは苦悩した。どちらを選ぶべきか。両親は封印を選ぼうとしていた。アレン・スターライトは共有を選び、それが悲劇を招いた。


「どちらも…正解ではない」レインは悟った。


彼は闇の精霊との対話を思い出した。光と闇のバランス。そして、金の精霊との対話で学んだ、銀色の道の価値。


「第三の道だ」レインは決意した。「完全な共有でも、完全な封印でもない」


「どういう意味だ?」テラムスが尋ねた。

「星の力は完全に共有すれば混乱を招き、完全に封印すれば知恵が失われる」レインは説明した。「必要なのは均衡だ。力へのアクセスを制限しつつも、完全には封じない」


「どうやって?」シルヴァーナスが尋ねた。


「守護者のシステムだ」レインは答えた。「七つの都市の守護者のように、星の力へのアクセスを監視し、導く存在が必要だ。力そのものではなく、力の使い方を教える」


「賢明な選択だ」ファリオンは感嘆した。


「そうか…」アクアリアが理解を示した。「力を完全に解放するのでも、完全に封じるのでもなく、責任ある使用を促すのね」


「その通りだ」レインは頷いた。「星の力は危険だが、正しく使えば世界を良くすることができる。必要なのは知恵と責任だ」


彼の決断が固まると、星の間が強く反応した。七色の光がさらに強まり、レインの左手から完全な星の杖が形成された。七つの星を冠した美しい杖だ。


「星の杖が完成した!」エリナが喜びの声を上げた。


レインは星の杖を掲げた。杖から放たれる光が星の間全体を照らし、無数の星々が応えるように輝いた。


「これで…結社の計画を阻止できる」レインは確信を持って言った。


しかし、その時、風の都全体が大きく揺れた。遠くから爆発音が聞こえてきた。


「何が起きた?」ルークが驚いて尋ねた。


「結社だ!」シルヴィアが叫んだ。「風の都を攻撃している!」


星の間が揺らぎ、不安定になり始めた。


「儀式を完了させろ!」ファリオンが叫んだ。「我々は敵を食い止める!」


七人の守護者は塔から離れ、風の都の防衛に向かおうとした。しかし、イグニウスが突然膝をつき、苦しそうに胸を押さえた。


「イグニウス!」テラムスが駆け寄った。


「力を使いすぎた…」イグニウスは弱々しく言った。「だが、まだ…戦える」


「無理をするな」メタリウスが言った。


「行くんだ」イグニウスは決意を込めて言った。「私は少し休んでから後に続く」


守護者たちは渋々同意し、風の都の入口へと向かった。マーカス教授とオルドリッチ館長も彼らに続いた。


「私たちも行くべき?」シルヴィアがルークに尋ねた。


「ああ」ルークは剣を抜いた。「できる限り助けになろう」


二人も守護者たちの後に続いた。


エリナはレインの側に残った。「急いで儀式を完了させて」


レインは頷き、星の杖を高く掲げた。


「星の力よ、私の選択を聞け」彼は古代語で唱えた。「完全な共有でも、完全な封印でもなく、均衡を選ぶ。力への道を開きつつも、責任ある使用を促す道を」


星の杖から七色の光が放たれ、星の間全体に広がった。星々が応え、青い光の流れが渦を巻き始めた。


「力は知恵と共にあるべし」レインは続けた。「星の力へのアクセスは、その責任を理解する者にのみ与えられるべし」


星の間が強く反応し、中央に新たな光の柱が形成された。それは七色の光が螺旋状に絡み合い、天井へと伸びていった。


「儀式が成功している!」エリナが喜んだ。


しかし、その時、星の間の入口が激しく揺れ、亀裂が走った。


「何が…」レインは驚いた。


入口が爆発し、黒い魔力の波と共に一人の人物が星の間に踏み入った。


アーサー・ノイマンだった。


「レイン・グレイソン…」彼の声は冷たく響いた。「よくも邪魔をしてくれたな」


「アーサー!」レインは星の杖を構えた。「どうやってここに?」


「お前たちの後をつけてきたのさ」アーサーは不敵に笑った。「風の都への移動の痕跡を辿るのは難しくなかった」


「もう遅い」レインは言った。「儀式は既に成功している。星の力は均衡の道を選んだ」


「均衡?」アーサーは嘲笑した。「愚かな選択だ。力は強者のものだ。それを分かち合うなど、弱者の考えだ」


「それは間違っている」レインは毅然と言った。「真の強さは、力を制御し、責任を持って使うことだ」


「説教はいい」アーサーは左手に黒い魔力を溜め始めた。「星の杖を渡せ。さもなければ、お前の仲間たちは全員死ぬ」


「レイン、逃げて!」エリナが叫んだ。


アーサーは彼女に向かって魔力の塊を放った。レインは咄嗟に星の杖で防いだ。七色の光の盾が魔力を跳ね返した。


「エリナ、ここから出て!」レインは叫んだ。


「でも…」


「頼む!」レインは必死に言った。「守護者たちを助けに行って。私がアーサーを食い止める」


エリナは苦渋の表情を見せたが、状況の深刻さを理解していた。


「必ず戻ってきて」彼女は言い残し、星の間の出口へと走った。


「逃がさん!」アーサーは彼女を追おうとしたが、レインが星の杖から光の波を放ち、彼の行く手を阻んだ。


「相手は俺だ」レインは冷静に言った。


エリナが出口から出ると、二人だけが星の間に残された。


「さて、星の継承者よ」アーサーは両手に黒い魔力を溜めた。「お前の選択が正しいか、試してみようか」


「お前の野望はここで終わりだ」レインは星の杖を構えた。


アーサーは激しい魔力の波を放った。レインは星の杖で防ぎ、反撃した。二人の力がぶつかり合い、星の間全体が揺れた。


「なぜそこまで星の力にこだわる?」レインは尋ねた。「命と引き換えにまで」


「復讐だ」アーサーは冷たく答えた。「3000年前、私の先祖は星の力を独占しようとした。だが、アレン・スターライトに阻まれた」


「だから…」


「そうだ」アーサーの目が憎悪で燃えた。「スターライト家への復讐。そして、彼らの選択によって失われた栄光を取り戻すためだ」


「それは違う」レインは首を振った。「3000年前の悲劇は、どちらか一方だけの責任ではない。両派の対立が引き起こしたんだ」


「黙れ!」アーサーは怒りの形相で魔力を放った。


レインは星の杖の力で防いだが、衝撃で後方に吹き飛ばされた。


「お前に何がわかる?」アーサーは迫った。「私は一族の栄光のために全てを捧げてきた。この命さえも」


「その命を捧げてまで得たいものは、本当に復讐か?」レインは立ち上がりながら尋ねた。「それとも、別の何かを求めているんじゃないのか?」


アーサーの表情が一瞬揺らいだ。


「黙れ」彼は低く言った。「お前に私の心など読めない」


「ウンブラリウスが言っていた」レインは言った。「お前の力の源は闇だと。その闇を光で満たせば、力は弱まる」


「何を…」


レインは星の杖を掲げ、七色の光を放った。光はアーサーを包み込み、彼の周りの黒い魔力の鎧を溶かし始めた。


「やめろ!」アーサーは苦しそうに叫んだ。


「お前の心の闇を見せろ」レインは静かに言った。


星の杖の光がさらに強まり、アーサーの心の奥深くを照らし出した。彼の記憶が星の間に映し出される。


若きアーサーと、彼の兄の姿。二人は仲が良かったが、兄はある日、結社の教えに疑問を持ち始めた。星の力は共有されるべきだと主張する兄と、伝統を守ろうとするアーサー。そして、結社の命令で兄を粛清するという過酷な選択を迫られたアーサー。


「やめろ…」アーサーの声は震えていた。


「お前が本当に求めていたのは、兄との和解だったんじゃないのか?」レインは静かに尋ねた。「復讐ではなく、許しを」


「黙れ!」アーサーは叫び、全ての力を込めた魔力の波を放った。


レインは星の杖の全ての力を結集して防いだ。七色の光と黒い魔力がぶつかり合い、星の間全体が激しく揺れた。


「もう終わりにしよう」レインは言った。「この憎しみの連鎖を」


「私には…もう戻れない」アーサーの声は弱まっていた。「この道を選んだ以上、最後まで行くしかない」


「別の選択肢もある」レインは手を差し伸べた。「力を手放し、新たな道を見つけることだ」


「遅すぎる…」アーサーの体から黒い魔力が漏れ出し、彼自身を蝕み始めていた。「禁断の魔法の代償だ。私の命は尽きようとしている」


「まだ間に合う」レインは星の杖を掲げた。「星の力で癒すことができる」


「なぜ…敵である私を助けようとする?」アーサーは不思議そうに尋ねた。


「憎しみの連鎖を断ち切るため」レインは答えた。「それが星の継承者の使命だと思うから」


アーサーはしばらく黙っていたが、やがて弱々しく笑った。


「お前は…アレンに似ている」彼は言った。「同じ理想主義者だ」


彼の体から黒い魔力が急速に漏れ出し、床に広がっていった。


「もう遅い」アーサーは静かに言った。「だが、お前の選択は…間違っていなかったかもしれない」


彼の体が徐々に透明になっていく。禁断の魔法の代償として、彼の存在そのものが消えようとしていた。


「アーサー…」レインは手を伸ばしたが、もう届かなかった。


「星の継承者よ」アーサーの声だけが残った。「お前の道を行け。だが、忘れるな。力には常に代償が伴うことを」


彼の姿は完全に消え、黒い魔力も地面に吸収されていった。


レインはしばらくその場に立ち尽くした。敵だったアーサーの最期に、彼は複雑な感情を抱いていた。


星の間が再び安定し、中央の光の柱が強く輝いた。


「儀式を完了させなければ」レインは星の杖を掲げた。


「星の力よ、私の選択を受け入れよ」彼は古代語で唱えた。「均衡の道を。知恵と責任を伴う力の道を」


星の杖から七色の光が放たれ、光の柱と一体化した。光が星の間全体に広がり、無数の星々が応えるように輝いた。


儀式が完了すると、星の間が徐々に薄れ始め、現実世界へと戻っていった。レインは再び風の都の中央広場に立っていた。


周囲には戦いの痕跡があったが、もう戦闘音は聞こえなかった。


「レイン!」エリナの声が聞こえた。


彼女が仲間たちと共に走ってきた。


「無事だったのね!」彼女は安堵の表情でレインに抱きついた。


「ああ」レインは微笑んだ。「アーサーは…もういない」


「結社のメンバーたちも撤退した」ルークが報告した。「アーサーが消えたことを感じたようだ」


「守護者たちは?」レインが心配そうに尋ねた。


「無事よ」シルヴィアが答えた。「でも、イグニウスは…」


彼女の表情に暗い影が落ちた。


「何があった?」レインは恐る恐る尋ねた。


「力を使い果たしてしまったようだ」マーカス教授が悲しげに言った。「今、他の守護者たちが彼の傍にいる」


レインたちは急いで風の神殿へと向かった。そこでは、イグニウスが祭壇の上に横たわり、他の守護者たちが彼の周りに集まっていた。


「イグニウス…」レインは彼に近づいた。


「レイン…」イグニウスは弱々しく目を開けた。「儀式は…成功したか?」


「ああ」レインは頷いた。「星の力は均衡の道を選んだ。そして、アーサーはもういない」


「よかった…」イグニウスは安堵の表情を見せた。「私の役目も…これで終わりだ」


「そんな…」レインの目に涙が浮かんだ。


「悲しむな」イグニウスは微笑んだ。「私は3000年生きてきた。十分長い人生だ」


「でも…」


「星の継承者よ」イグニウスは真剣な表情で言った。「私からお前に、火の守護者の称号を与えよう」


「え?」レインは驚いた。


「お前の選んだ道…均衡の道を守るためには、新たな守護者が必要だ」イグニウスは説明した。「お前は既に火の精霊と契約している。その資格は十分だ」


「でも、私は…」


「受け入れなさい」ファリオンが言った。「これが新たな時代の始まりだ」


イグニウスは最後の力を振り絞り、レインの額に触れた。


「火の守護者の称号を与える」彼は古代語で唱えた。「星の継承者にして、火の守護者よ」


彼の手から赤い光がレインに流れ込んだ。レインの体が一瞬赤く輝き、新たな力が宿るのを感じた。


「ありがとう…」イグニウスの声が弱まった。「これからの時代を…頼む…」


彼の目が閉じ、体が光の粒子となって消えていった。3000年の長い生涯を終え、火の守護者は星へと還っていった。


「イグニウス…」レインは涙を流した。


「彼は満足して旅立った」テラムスが静かに言った。「星の継承者を見届け、新たな守護者を指名できたことを」


「これからどうなるんだ?」ルークが尋ねた。


「新たな時代の始まりだ」ファリオンが答えた。「星の力は均衡の道を選んだ。力へのアクセスは制限されつつも、完全には封じられない」


「そして、それを監視し、導くのが守護者の役割」シルヴァーナスが付け加えた。


「レインは火の守護者になった」アクアリアが言った。「そして、彼には他の守護者を選ぶ権利がある」


「私が?」レインは驚いた。


「そうだ」ウンブラリウスが頷いた。「星の継承者として、そして守護者として、お前は新たな守護者たちを選ぶことができる」


レインは仲間たちを見回した。エリナ、ルーク、シルヴィア、マーカス教授、オルドリッチ館長。共に旅をし、困難を乗り越えてきた仲間たち。


「皆さんに…守護者になってほしい」レインは言った。


「私たちが?」エリナは驚いた。


「ああ」レインは頷いた。「皆、それぞれの才能と強さを持っている。新たな時代の守護者として、最適だと思う」


「光栄です」マーカス教授が深々と頭を下げた。


「受け入れましょう」オルドリッチ館長も同意した。


「俺も」ルークは決意を示した。


「私も」シルヴィアは微笑んだ。


エリナはレインの目をまっすぐ見つめた。「あなたと共に、新たな道を歩みます」


「これで決まりだな」ファリオンが満足げに言った。「古い守護者から新しい守護者へ。時代は巡る」


「儀式は後日行おう」テラムスが提案した。「今は休息が必要だ」


全員が同意し、風の神殿で休むことになった。


夜空には満月が輝き、星々が瞬いていた。レインは神殿の外に立ち、星空を見上げていた。左手の痣は七つの星が完全に輝き、中心に大きな星が形成されていた。星の杖は彼の手の中に消え、必要な時に呼び出せるようになっていた。


「考え事?」


振り返ると、エリナが立っていた。


「ああ」レインは微笑んだ。「これからのことを」


「不安?」


「少し」レインは正直に答えた。「星の継承者として、そして守護者として、大きな責任を背負ったから」


「一人じゃないわ」エリナは彼の隣に立った。「私たちがいるもの」


「ありがとう」レインは彼女の手を握った。


二人は静かに星空を見上げた。


「両親は…喜んでくれるだろうか」レインは呟いた。


「きっとよ」エリナは優しく言った。「あなたは正しい選択をした。力を完全に封印するのではなく、責任ある使用を促す道を選んだ」


「第三の道だ」レインは頷いた。「均衡の道」


「新たな時代の始まりね」エリナは星空を見上げながら言った。「星の継承者と新たな守護者たちの時代」


「ああ」レインは頷いた。「これからが本当の始まりだ」


満月の光が二人を照らし、風の都全体が銀色に輝いていた。戦いは終わり、新たな時代の扉が開かれようとしていた。

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