## 【金の都】鍛造と変容の力

木の塔の移動装置に全員が乗り込んだ。シルヴァーナスが木の鍵を中央の紋章にかざし、古代語で呪文を唱えた。


「星の継承者の血よ、道を開け。金の都メタリカへの道を示せ」


レインの左手の痣が反応し、台座全体が緑色から金色の光へと変わり、彼らを包み込んだ。


世界が白い光に包まれ、次に目を開けた時、彼らは全く異なる環境に立っていた。周囲は金と銀の色調に満ちていた。塔は巨大な金属の構造物の中に組み込まれているようで、壁は磨き上げられた金属で、窓は精巧な金属格子で装飾されていた。


「金の都メタリカ…」ファリオンが静かに言った。


塔の窓から外を見ると、驚くべき光景が広がっていた。都市全体が金属で作られており、高くそびえる塔や複雑な機械のような建物が立ち並んでいた。空中には金属の球体や円盤が浮かび、光を放っている。都市全体が金色の光に包まれ、金属の表面が太陽の光を反射して輝いていた。


「すごい…」ルークは息を呑んだ。「全て金属でできているのか」


「金の都は北の山の鉱脈の上に建設された」ファリオンは説明した。「古代人は金属を自在に操る技術を持っていた。彼らは金属を生きた素材のように扱い、都市を築いたんだ」


「これらの機械は何のためにあるんだ?」シルヴィアが周囲の複雑な装置を指さした。


「金の都は技術と発明の中心地だった」テラムスが答えた。「エネルギーの生成や物質の変容など、様々な研究がなされていた」


「金の守護者はどこだ?」レインが尋ねた。


レインは左手の痣に意識を集中させた。金の鍵の存在を感じ取る。それは塔の下、都市の中心部を指していた。


「下の方だ」レインは言った。「いつものパターンだね」


「各都市は同じ設計原則に基づいている」シルヴァーナスが説明した。「中心に神殿があり、そこに守護者がいるのよ」


彼らは塔を降り、金の都へと足を踏み入れた。道は金属の板で舗装され、その下から微かな機械音と共に光が漏れていた。建物は複雑な金属の装飾で覆われ、所々に動く部品や回転する歯車が見られた。


「この都市は…生きているようだ」エリナが驚いて言った。


「ある意味ではその通り」ファリオンが頷いた。「金の都は常に変化し、自己修復する機能を持っている」


道を進むと、彼らは大きな広場に出た。その中央には巨大な金属の球体があり、その周りを小さな金属の球が公転しているようだった。


「鍛造の核だ」テラムスが言った。「金の神殿はその中にある」


神殿に近づくと、球体の一部が開き、入口が現れた。内部は金色の光で満たされていた。


「メタリウス!」テラムスが呼びかけた。「金の守護者よ、来客だ!」


しばらく静寂が続いた後、内部から重厚な足音が聞こえてきた。やがて、一人の男が現れた。


金と銀のローブを身にまとい、全身が金属のような質感の肌を持つ男だった。髪も金属の糸のように輝いており、目は鋭く、機械のような正確さを感じさせた。


「テラムス、シルヴァーナス」彼の声は金属が擦れるような音色を持っていた。「何の用だ?」


「メタリウス」テラムスが一歩前に出た。「時が動き始めた。新たな星の継承者が現れたんだ」


メタリウスの視線がレインに向けられた。彼の目は冷たく、分析するように細部まで観察していた。


「これが…星の継承者か」彼は無感情に言った。「想像していたよりも若い」


「彼は既に五つの鍵と契約している」シルヴァーナスはレインの左手の痣を指さした。


メタリウスはレインの痣を見て、わずかに表情を変えた。「風、火、水、地、木…確かに五つの星が輝いている」


「メタリウス、我々は金の鍵を求めてきた」テラムスが言った。「『黒翼の結社』が動き始めている。彼らは星の継承の儀式を行おうとしている」


「結社…」メタリウスの目が冷たく光った。「彼らは以前にも私の都市を攻撃した。多くの発明品が彼らの手に渡った」


「今、彼らは星の城を占拠し、イグニウスを含む三人の守護者を捕らえている」シルヴァーナスが説明した。


「イグニウスが捕まった?」メタリウスは驚いた様子を見せた。「あの頑固な火の守護者が…」


「我々を助けてください」レインが一歩前に出た。「金の鍵があれば、仲間たちを救出し、結社の計画を阻止できるかもしれません」


メタリウスはレインをじっと見つめた。「若者よ、星の継承者の力は大きな責任を伴う。変革をもたらすことも、破壊をもたらすこともできる」


「理解しています」レインは真剣に答えた。「だからこそ、その力が悪用されないよう守りたいんです」


メタリウスはしばらく考え込んだ後、「中に入れ」と言った。「話を聞こう」


神殿内部は予想以上に広く、天井は高く、壁には複雑な機械や回路のような模様が刻まれていた。中央には大きな金属の炉があり、その中で金色の炎が燃えていた。


メタリウスは彼らを炉の前に座らせ、レインたちの旅の話を聞いた。風の都での出来事、星の間でのアレン・スターライトとの会話、仲間たちの救出と捕虜、そして残りの鍵を集める計画について。


「なるほど」メタリウスは話を聞き終えて言った。「状況は計算通りだ」


「計算通り?」レインは疑問に思った。


「私は長い間、結社の動きを観察してきた」メタリウスは説明した。「彼らがいつか星の継承の儀式を行おうとすることは予測していた」


「七日後の満月に、結社は儀式を行おうとしています」レインは言った。「それまでに残りの鍵を集め、仲間たちを救出しなければなりません」


「そして、星の杖を完成させるのだな」メタリウスは頷いた。「だが、その先はどうする?星の力をどう扱うつもりだ?」


レインは以前と同じ質問に、同じように正直に答えた。


「まだ決めていません。力を共有するか、永久に封印するか…どちらが正しいのかわからない」


「興味深い」メタリウスは冷静に言った。「多くの者は、自分の答えを既に持っていると主張するだろう」


「両方に利点と危険があります」レインは続けた。「慎重に選ばなければならないと思っています」


「論理的だ」メタリウスは頷いた。「金属は形を変える前に、熱せられ、鍛えられる。性急な判断は脆い結果を生む」


彼は立ち上がり、炉の前に進んだ。「私は金の鍵を与えよう。だが、試練はある」


「どんな試練ですか?」レインが尋ねた。


「金の精霊との契約だ」メタリウスは言った。「金の精霊は変容と完成を司る。お前の適応力と決断力を試すだろう」


メタリウスは炉の中から金色の結晶を取り出した。金の鍵は多面体の形をしており、その表面は鏡のように周囲を反射していた。


「炉の前に立ちなさい」メタリウスが指示した。


レインは言われた通りに炉の前に立った。熱が顔に当たるが、不思議と苦痛は感じなかった。


メタリウスは金の鍵をレインの左手に置いた。


「精霊を呼び出すには、お前自身の決意が必要だ」彼は言った。「心を鋼のように強く持て」


レインは目を閉じ、決意を固めた。左手の痣が金色に輝き始め、金の鍵も応えるように光を放った。


「金の精霊よ」メタリウスが古代語で唱えた。「星の継承者が来た。彼の価値を試せ」


炉の炎が高く上がり、レインを包み込んだ。しかし、彼は熱さを感じなかった。彼の意識が現実から離れ、別の場所へと運ばれていく感覚があった。


レインは無限に広がる金属の平原に立っていた。空は金と銀の雲に覆われ、地面は鏡のように周囲を反射していた。


「金の精霊よ」レインは呼びかけた。


返答はなかったが、地面が揺れ始め、レインの前で金属が盛り上がり、人型の姿を形成した。それは完全な人間の形に近く、輝く金属で作られた姿だった。


『星の継承者よ』金属の形が声を発した。それは金属が響くような声だった。『何のために私の力を求める?』


「仲間を救うため」レインは答えた。「そして、星の力が悪用されるのを防ぐため」


『変化をどう見るか?』金の精霊は問うた。『変化は進歩か、それとも危険か?』


これは考えさせられる質問だった。レインは慎重に答えた。


「変化は両方です。進歩をもたらすこともあれば、危険をもたらすこともある。重要なのは、その変化をどう導くかだと思います」


『賢明な答えだ』精霊は承認した。『では、お前の適応力を試そう』


突然、レインの周りの環境が変化した。金属の平原が溶け始め、彼の足元も不安定になった。


『この変化に対応せよ』精霊は命じた。


レインは急いで周囲を見回した。溶けた金属の中に、いくつかの固体の島が残っていた。彼は素早く最も近い島へと飛び移った。


環境はさらに変化し、今度は極寒の金属の世界になった。レインの息は白く凍り、体が急速に冷えていく。


『この変化にも対応せよ』


レインは左手の痣に意識を集中させた。火の鍵の力を呼び起こし、体を温める。痣が赤く輝き、周囲の氷が少し溶け始めた。


環境は再び変化し、今度は金属の嵐が吹き荒れる世界になった。鋭い金属片が風に乗って飛んでくる。


『この変化にも対応せよ』


レインは風の鍵の力を呼び起こし、周囲の風の流れを操作した。痣が青く輝き、金属の嵐を彼の周りで逸らした。


『良い』精霊は満足げに言った。『お前は既に得た力を柔軟に使える。だが、次は決断力を試す』


環境は元の金属の平原に戻った。しかし今度は、レインの前に二つの道が現れた。一方は金色に輝く平坦な道、もう一方は銀色の険しい道だった。


『選べ』精霊は言った。『どちらの道を行くか』


「どちらの道が正しいのですか?」レインは尋ねた。


『それを決めるのはお前だ』精霊は答えた。『どちらの道にも終着点がある。だが、その過程と結果は異なる』


レインは二つの道を見比べた。金色の道は容易そうだが、どこか人工的な輝きを持っていた。銀色の道は困難そうだが、より自然な感じがした。


「銀色の道を選びます」レインは決断した。


『なぜその選択をした?』精霊は問うた。


「簡単な道が必ずしも正しい道とは限らないからです」レインは答えた。「時に困難な道のほうが、真の成長をもたらすと思います」


『理由は?』精霊はさらに問うた。


「金色の道は…」レインは直感を言葉にした。「誘惑のように感じました。表面的には魅力的ですが、何か重要なものを見失う可能性がある。銀色の道は困難ですが、その過程で多くを学べると思います」


『賢明な判断だ』精霊は承認した。『時に、最も輝く道が最も危険なこともある。真の価値は、困難を乗り越えた先にあることが多い』


銀色の道が広がり、レインの前に新たな光景が現れた。それは七つの星が輝く夜空だった。


『もう一つ質問がある』精霊は言った。『星の力をどう使うつもりだ?共有か、封印か?』


「まだ決めていません」レインは正直に答えた。「両方に理由があり、どちらが正しいのかわからない」


『決断を避けているのか?』


「いいえ」レインは首を振った。「慎重に考えているのです。この選択は、多くの人々の運命を左右します。軽々しく決めるべきではありません」


金の精霊は長い沈黙の後、『理解した』と言った。『金属は形を変える前に、熱せられ、鍛えられる。だが、決断の時が来れば、鋼のように強く、決然と行動せよ』


「わかりました」レインは頷いた。


『契約を結ぼう』精霊は言った。『私の力を授ける。だが覚えておけ、金は形を変え、道具となると同時に、切り裂き、貫く力も持つ。選ぶのはお前だ』


変容の感覚が左手から全身に広がった。痣が金色に輝き、その模様に変化が生じた。七つの星のうち、六つ目が金属のように堅固に輝き始めた。


金の鍵が溶け込むように、レインの左手に吸収された。


レインの意識が現実世界に戻ると、彼は神殿の炉の前に立っていた。周囲にはエリナたちが見守っていた。


「成功したようだな」メタリウスは満足そうに言った。「金の精霊はお前を認めた」


「何があったの?」シルヴィアが興味深そうに尋ねた。「表情がどんどん変わっていったわ」


「金の精霊との対話です」レインは説明した。「試練を受けていました」


レインは左手を見た。痣の模様が変化し、風、火、水、地、木、金を象徴する六つの星が輝いていた。体の中にも新たな力が流れているのを感じる。より強靭で、適応力が増した感覚だった。


「これで六つ目の鍵だ」レインは言った。「残りは一つ」


「闇の鍵だな」ファリオンが頷いた。「最も謎に包まれた鍵だ」


「次はどこへ向かいますか?」ルークが尋ねた。


レインは左手の痣に意識を集中させた。残りの一つの光を感じ取る。それは南西の方向を指していた。


「南西だ」レインは言った。「最後の鍵は南西にある」


「それは闇の都ウンブラでしょう」シルヴァーナスが言った。「深い峡谷の底、永遠の闇に包まれた場所よ」


「そこへ行こう」レインは決意を示した。


「私も同行する」メタリウスが突然言った。


「本当ですか?」レインは嬉しそうに尋ねた。


「ああ」メタリウスは頷いた。「イグニウスが捕らわれているなら、残りの守護者は力を合わせるべきだ。それに、闇の守護者ウンブラリウスは…特殊な存在だ。我々全員の力が必要になるだろう」


「特殊?」エリナが尋ねた。


「闇の守護者は他の守護者とは異なる」ファリオンが説明した。「彼は闇と光の境界を守る者。最も神秘的で、理解しがたい存在だ」


「金の塔の移動装置で闇の都へ行こう」メタリウスが提案した。


神殿を出る前に、メタリウスは小さな金色の球をレインに渡した。


「変容の種だ」彼は説明した。「危機の時に使え。物質の性質を一時的に変えることができる」


「ありがとうございます」レインは球を大切に受け取った。


一行は金の塔へと向かった。時間は刻々と過ぎていく。七日後の満月まで、残された時間はさらに少なくなっていた。


レインは決意を新たにした。最後の鍵を手に入れ、星の杖を完成させる。そして仲間たちを救出し、結社の野望を阻止する。


星の継承者としての使命を果たすために。

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