## 【木の都】生命の循環と成長の力
地の塔の移動装置に全員が乗り込んだ。テラムスが地の鍵を中央の紋章にかざし、古代語で呪文を唱えた。
「星の継承者の血よ、道を開け。木の都シルヴァーナへの道を示せ」
レインの左手の痣が反応し、台座全体が茶色から緑色の光へと変わり、彼らを包み込んだ。
世界が白い光に包まれ、次に目を開けた時、彼らは全く異なる環境に立っていた。周囲は緑と茶色の色調に満ちていた。塔は巨大な木の中に作られているようで、壁は生きた木の幹で、窓は自然に形成された開口部だった。
「木の都シルヴァーナ…」ファリオンが静かに言った。
塔の窓から外を見ると、信じられない光景が広がっていた。巨大な木々が天に向かって伸び、その間を木製の橋や螺旋階段が繋いでいた。建物は木々の幹や枝に直接組み込まれ、まるで自然の一部のようだった。都市全体が緑の光に包まれ、木漏れ日が美しい光のパターンを作り出していた。
「すごい…」エリナは息を呑んだ。「こんな場所があるなんて」
「木の都は大森林の中心に建設された」ファリオンは説明した。「古代人は木々を切り倒すのではなく、生きたまま都市の一部として育てたんだ」
「木々は数千年生きているのか?」ルークが驚いて尋ねた。
「ああ」テラムスが答えた。「木の守護者の魔法によって、通常より遥かに長く生き続けている」
「木の守護者はどこだ?」レインが尋ねた。
レインは左手の痣に意識を集中させた。木の鍵の存在を感じ取る。それは塔の下、都市の中心部を指していた。
「下の方だ」レインは言った。「でも、今回は下というより…」
「木の中心部だな」ファリオンが頷いた。
彼らは塔を降り、木の都へと足を踏み入れた。道は木の枝から自然に形成されたように見え、所々に花や小さな生き物が見られた。蝶や小鳥が自由に飛び回り、小動物たちも彼らを恐れる様子なく過ごしていた。
「生き物がたくさんいる」シルヴィアが喜んで言った。
「木の都は人間と自然が共存する場所だ」テラムスが説明した。「生命の循環が完全に保たれている」
道を進むと、彼らは巨大な中央の木に到着した。それは他の木々よりもはるかに大きく、幹の周囲には精巧な彫刻や生きた花で装飾された入口があった。
「生命の木だ」ファリオンが言った。「木の神殿はその中にある」
神殿に近づくと、入口の周りの花々が開き、甘い香りを放った。まるで歓迎しているかのようだった。
「シルヴァーナス!」テラムスが呼びかけた。「木の守護者よ、来客だ!」
しばらく静寂が続いた後、木の幹から一人の人物が現れた。まるで木から生まれ出たかのように、幹の一部が動き、人の形になった。
緑と茶色のローブを身にまとい、長い緑がかった銀髪を持つ女性だった。年齢は定かではないが、その肌は若々しく、目は古代の知恵を宿していた。彼女の周りには小さな光の粒子が舞い、花の香りが漂っていた。
「テラムス」彼女の声は風のように柔らかかった。「何十年ぶりかしら。なぜここに?」
「シルヴァーナス」テラムスが一歩前に出た。「時が動き始めた。新たな星の継承者が現れたんだ」
シルヴァーナスの視線がレインに向けられた。彼女の目は深い森のように深く、レインの内側まで見通しているようだった。
「これが…星の継承者」彼女は静かに言った。「若いけれど、既に多くの試練を乗り越えてきたようね」
「彼は既に四つの鍵と契約している」テラムスはレインの左手の痣を指さした。
シルヴァーナスはレインの痣を見て、目を見開いた。「風、火、水、地…確かに四つの星が輝いている」
「シルヴァーナス、我々は木の鍵を求めてきた」ファリオンが言った。「『黒翼の結社』が動き始めている。彼らは星の継承の儀式を行おうとしている」
「結社…」シルヴァーナスの表情が曇った。「彼らは以前にも私の森を侵そうとした。多くの木々が彼らの黒魔法で傷ついた」
「今、彼らは星の城を占拠し、イグニウスを含む三人の守護者を捕らえている」テラムスが説明した。
「イグニウスが捕まった?」シルヴァーナスは驚いた様子を見せた。「あの頑固な火の守護者が…」
「我々を助けてください」レインが一歩前に出た。「木の鍵があれば、仲間たちを救出し、結社の計画を阻止できるかもしれません」
シルヴァーナスはレインをじっと見つめた。「若者よ、星の継承者の力は大きな責任を伴う。生命を育むことも、破壊することもできる」
「理解しています」レインは真剣に答えた。「だからこそ、その力が悪用されないよう守りたいんです」
シルヴァーナスはしばらく考え込んだ後、「中に入りなさい」と言った。「話を聞かせて」
生命の木の内部は想像を超える美しさだった。内側は広大な空間になっており、天井高くまで続く螺旋階段が木の内部を上っていた。壁は生きた木の組織で、所々に光を通す結晶が埋め込まれていた。中央には大きな池があり、その周りに様々な植物が育っていた。
シルヴァーナスは彼らを池の周りに座らせ、レインたちの旅の話を聞いた。風の都での出来事、星の間でのアレン・スターライトとの会話、仲間たちの救出と捕虜、そして残りの鍵を集める計画について。
「なるほど」シルヴァーナスは話を聞き終えて言った。「状況は確かに深刻ね」
「七日後の満月に、結社は儀式を行おうとしています」レインは言った。「それまでに残りの鍵を集め、仲間たちを救出しなければなりません」
「そして、星の杖を完成させるのね」シルヴァーナスは頷いた。「でも、その先はどうするの?星の力をどう扱うつもり?」
レインは以前と同じ質問に、同じように正直に答えた。
「まだ決めていません。力を共有するか、永久に封印するか…どちらが正しいのかわからない」
「正直な子ね」シルヴァーナスは微笑んだ。「多くの人は、自分の答えを既に持っていると主張するでしょう」
「両方に利点と危険があります」レインは続けた。「慎重に選ばなければならないと思っています」
「賢明な考えよ」シルヴァーナスは満足そうに頷いた。「木は成長するために時間を要する。だが、一度根を張れば、世代を超えて命を繋いでいく」
彼女は立ち上がり、池の中央に浮かぶ睡蓮の花に近づいた。「私は木の鍵を与えましょう。だが、試練はあります」
「どんな試練ですか?」レインが尋ねた。
「木の精霊との契約よ」シルヴァーナスは言った。「木の精霊は生命と成長を司る。あなたの心の中の命への敬意を試すでしょう」
シルヴァーナスは睡蓮の花から緑色の結晶を取り上げた。木の鍵は葉の形をしており、その中に生命の鼓動のような光の脈動が見えた。
「池の中央に立ちなさい」シルヴァーナスが指示した。
レインは池に足を踏み入れた。水は浅く、膝下までしかなかった。彼は中央に進み、そこに立った。
シルヴァーナスは木の鍵をレインの左手に置いた。
「精霊を呼び出すには、あなた自身の生命力が必要です」彼女は言った。「心を開き、命の循環を感じなさい」
レインは目を閉じ、深く呼吸した。左手の痣が緑色に輝き始め、木の鍵も応えるように光を放った。
「木の精霊よ」シルヴァーナスが古代語で唱えた。「星の継承者が来た。彼の価値を試せ」
池の水が緑色に輝き始め、レインの周りで小さな渦を作った。彼の意識が現実から離れ、別の場所へと運ばれていく感覚があった。
レインは広大な森の中に立っていた。太陽の光が木々の間から差し込み、周囲には様々な植物や動物の気配があった。生命に満ちあふれた場所だった。
「木の精霊よ」レインは呼びかけた。
返答はなかったが、風が強く吹き、レインの前で木々が揺れ、その枝葉が集まって人型の姿を形成した。それは完全な人間の形ではなく、葉と枝で作られた輪郭だった。
『星の継承者よ』木の形が声を発した。それは葉のざわめきのような声だった。『何のために私の力を求める?』
「仲間を救うため」レインは答えた。「そして、星の力が悪用されるのを防ぐため」
『生命をどう見るか?』木の精霊は問うた。『一つの命と多くの命、どちらが重い?』
これは難しい質問だった。レインは慎重に答えた。
「全ての命に価値があります。一つの命も、多くの命も、どちらも大切です」
『では、選ばなければならないとしたら?』精霊は追及した。『一人の大切な人の命と、見知らぬ多くの人々の命、どちらを救う?』
レインは苦しい質問に直面した。両親の死、仲間たちの危機、そして世界の運命を思い出す。
「それは…」レインは言葉を選んだ。「状況によります。しかし、最終的には、より多くの命を救う選択をするでしょう。それが星の継承者の責任だと思います」
『それは辛い選択だ』精霊は言った。『だが、正直な答えだ』
「でも」レインは続けた。「できる限り、両方を救う方法を探します。一人の命も見捨てたくはありません」
『理想主義者だな』精霊は静かに言った。『だが、それも悪くない』
突然、レインの周りの森が変化した。一部の木々が枯れ始め、動物たちが逃げ出していく。
『見よ』精霊は言った。『生命の循環だ。死があるからこそ、新たな命が生まれる』
枯れた木々の下から、新しい芽が出始めた。死んだ動物の体から、新たな植物が育っていく。
『生と死は対立するものではなく、繋がっている』精霊は説明した。『一方なくして他方はない』
「理解します」レインは頷いた。「全ては循環の一部なんですね」
『その通り』精霊は承認した。『では、お前の選択を試そう』
森の一角が突然炎に包まれた。火は急速に広がり、多くの生命を脅かしていた。
『この火を消すには二つの方法がある』精霊は言った。『一つは、お前自身の生命力の一部を捧げること。もう一つは、森の一部を犠牲にし、防火帯を作ることだ』
「どちらを選べばいいんですか?」レインは尋ねた。
『それはお前が決めることだ』精霊は答えた。
レインは考えた。自分の生命力を捧げれば、全ての森を救えるかもしれない。しかし、それは彼自身を弱らせ、星の継承者としての使命を果たせなくなる可能性がある。一方、森の一部を犠牲にすれば、全体を守ることができる。
「森の一部を犠牲にします」レインは決断した。「一部を失っても、森全体が生き残れば、やがて再生するでしょう」
『なぜその選択をした?』精霊は問うた。
「星の継承者として、私には果たすべき使命があります」レインは答えた。「私が弱まれば、結社の計画を止められません。そうなれば、もっと多くの命が失われるでしょう」
『賢明な判断だ』精霊は承認した。『時に、小さな犠牲は必要だ。だが、それを忘れず、償いをすることも大切だ』
「はい」レインは頷いた。「森が再生するよう、力を尽くします」
『もう一つ質問がある』精霊は言った。『星の力をどう使うつもりだ?共有か、封印か?』
「まだ決めていません」レインは正直に答えた。「両方に理由があり、どちらが正しいのかわからない」
『決断を避けているのか?』
「いいえ」レインは首を振った。「慎重に考えているのです。この選択は、多くの命に影響します。軽々しく決めるべきではありません」
木の精霊は長い沈黙の後、『理解した』と言った。『木は成長するために時間を要する。だが、決断の時が来れば、しっかりと根を張った木のように、揺るがぬ決意を持て』
「わかりました」レインは頷いた。
『契約を結ぼう』精霊は言った。『私の力を授ける。だが覚えておけ、木は育み、支えると同時に、絡みつき、押しつぶす力も持つ。選ぶのはお前だ』
生命力あふれる感覚が左手から全身に広がった。痣が緑色に輝き、その模様に変化が生じた。七つの星のうち、五つ目が葉のように生き生きと輝き始めた。
木の鍵が溶け込むように、レインの左手に吸収された。
レインの意識が現実世界に戻ると、彼は池の中央に立っていた。周囲にはエリナたちが見守っていた。
「成功したようね」シルヴァーナスは満足そうに言った。「木の精霊はあなたを認めた」
「何があったの?」エリナが心配そうに尋ねた。「しばらく動かなくて…」
「木の精霊との対話です」レインは説明した。「試練を受けていました」
レインは左手を見た。痣の模様が変化し、風、火、水、地、木を象徴する五つの星が輝いていた。体の中にも新たな力が流れているのを感じる。より生命力に満ち、活力が増した感覚だった。
「これで五つ目の鍵だ」レインは言った。「残りは二つ」
「金と闇の鍵だな」ファリオンが頷いた。
「次はどこへ向かいますか?」エリナが尋ねた。
レインは左手の痣に意識を集中させた。残りの二つの光のうち、最も近いものを感じ取る。それは北西の方向を指していた。
「北西だ」レインは言った。「次の鍵は北西にある」
「それは金の都メタリカでしょう」シルヴァーナスが言った。「北の山脈の峰にある都市よ」
「そこへ行こう」レインは決意を示した。
「私も同行するわ」シルヴァーナスが突然言った。
「本当ですか?」レインは嬉しそうに尋ねた。
「ええ」シルヴァーナスは頷いた。「イグニウスが捕らわれているなら、残りの守護者は力を合わせるべきよ。それに、金の守護者メタリウスは頑固で冷たい人。私がいれば交渉しやすいでしょう」
「ありがとうございます」レインは感謝した。
「木の塔の移動装置で金の都へ行きましょう」シルヴァーナスが提案した。
神殿を出る前に、シルヴァーナスは小さな緑色の種をレインに渡した。
「生命の種よ」彼女は説明した。「危機の時に使いなさい。どんな場所でも生命を呼び起こすことができる」
「ありがとうございます」レインは種を大切に受け取った。
一行は木の塔へと向かった。時間は刻々と過ぎていく。七日後の満月まで、残された時間は少なくなっていた。
レインは決意を新たにした。残りの鍵を集め、星の杖を完成させる。そして仲間たちを救出し、結社の野望を阻止する。
星の継承者としての使命を果たすために。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます