# 第8章: 【古代の遺産】星の都に眠る秘密
##【迷宮の中で】謎解きと探索
朝日が山の稜線を照らし始めた頃、一行はファリオンの案内で小さな谷を後にした。風の守護者は青いローブを身にまとい、古風な杖を手に、山道を進んでいく。
「風の都は、この峰の内部にある」ファリオンは前方の壮大な山を指さした。「外部からは完全に隠されている」
「山の内部に都市?」ルークは懐疑的な表情を見せた。「それは可能なのですか?」
「古代人の技術は、現代の我々の想像を超えている」マーカス教授が説明した。「彼らは岩を切り出すだけでなく、形を変える魔法も持っていたんだ」
「その通り」ファリオンは頷いた。「彼らは自然と調和しながら都市を築いた。岩を破壊するのではなく、岩と対話するかのようにね」
一行は急な山道を登り、やがて狭い渓谷に入った。両側は切り立った岩壁で、上空はわずかに見えるだけだ。時折、壁面に古代の文字や記号が刻まれているのが見える。
「これらは何ですか?」エリナが壁の刻印を指さした。
「道標だ」ファリオンは説明した。「風の都への正しい道を示している。また、不法侵入者を混乱させる役割もある」
「結社がこの道を見つけたら?」シルヴィアが心配そうに尋ねた。
「それは難しい」老人は微笑んだ。「この道は星の継承者の血に反応する魔法で隠されている。私が案内せずに見つけることはほぼ不可能だ」
クレイグは熱心に壁の刻印をスケッチし、メモを取っていた。考古学者としての彼の情熱は、危険な状況でも衰えていないようだ。
「これは素晴らしい…」彼は興奮した様子で呟いた。「この発見だけで学会を震撼させるだろう」
「公表する際は慎重にね」オルドリッチ館長が忠告した。「結社はあらゆる情報源を監視している」
渓谷を半時間ほど進むと、突然行き止まりに出た。切り立った岩壁がそびえ、これ以上進めないように見えた。
「ここで終わり?」ルークが混乱した様子で尋ねた。
「いいえ」ファリオンは微笑んだ。「ここからが本当の入口だ」
老人は壁の前に立ち、古代語で何かを唱えた。すると岩壁の一部が淡く光り始め、七つの星の形が浮かび上がった。
「レイン、近づきなさい」ファリオンが俺を呼んだ。「左手の痣を星の模様に当ててごらん」
俺は言われた通りにした。左手の痣を岩壁の星模様に押し当てると、痣が青く輝き始めた。光は徐々に岩壁全体に広がり、やがて石の表面が水面のように波打ち始めた。
「驚くべきことに、岩が液体のように変化している…」マーカス教授は畏敬の念を込めて呟いた。
「さあ、続きなさい」ファリオンは穏やかに促した。「恐れることはない」
俺は勇気を振り絞り、液状化した岩壁に一歩踏み出した。体が冷たい水に浸かるような感覚があり、一瞬息が詰まったが、すぐに向こう側に出ることができた。
「みんな、続いて!」俺は振り返って叫んだ。
一人ずつ、全員が不思議な入口を通過した。クレイグは特に興奮した様子で、何度も「信じられない」と繰り返していた。
全員が通過すると、後ろの入口は再び固体の岩壁に戻った。前方には広大な洞窟が広がっていた。天井は高く、そこから青い結晶が垂れ下がり、柔らかな光を放っている。
「これが…風の都の入口か」俺は息を呑んだ。
「いいえ」ファリオンは首を振った。「ここはまだ外郭部だ。都の本体はもっと先にある」
洞窟を進むと、徐々に人工的な構造物が増えてきた。壁には精巧な彫刻が施され、床は滑らかな石材で舗装されている。時折、噴水や小さな祠のような建造物も見られた。
「ここから先は注意が必要だ」ファリオンは警告した。「古代の守護魔法や罠が仕掛けられている。私の後ろについてきなさい」
一行は慎重に老人の後に続いた。道は次第に複雑になり、分岐点も増えてきた。
「迷宮のようだ」エリナが周囲を見回しながら言った。
「その通り」ファリオンは頷いた。「侵入者を混乱させるための設計だ。正しい道を知らなければ、永遠にさまよい続けることになる」
数十分後、彼らは大きな門の前に到着した。門は二つの巨大な石柱で支えられ、上部には風を象徴する彫刻が施されていた。
「ここからが本当の風の都だ」ファリオンは厳かに言った。「準備はいいかい?」
全員が頷くと、老人は門に向かって両手を広げた。すると門は音もなく開き始め、その向こうからは驚くべき光景が広がっていた。
「すごい…」誰もが息を呑んだ。
門の向こうは、想像を絶する光景だった。山の内部に広大な空洞があり、そこに完全な都市が広がっていたのだ。建物は白い石で造られ、多くの塔や円形の建造物が立ち並んでいる。都市の中央には特に大きな神殿のような建物があり、そこから七本の光の柱が天井へと伸びていた。
最も驚くべきは、都市全体が淡く青白い光に包まれていること。そして、空洞の天井からは小さな光の粒子が雪のように舞い落ちていた。
「風の都エアリア」ファリオンが誇らしげに宣言した。「古代アストラリス文明の七大都市の一つ」
「信じられない…」クレイグは感動のあまり声が震えていた。「完全な保存状態の古代都市…これは歴史上最大の発見だ」
「建物はまるで昨日建てられたかのようだ」マーカス教授も驚きを隠せなかった。
「魔法の結界のおかげだ」ファリオンは説明した。「時の流れから都市を守っている」
「でも、誰も住んでいないようですね」シルヴィアが静かに言った。
「住民たちは3000年前の大災害で消えた」老人は悲しげに答えた。「残っているのは建物と記録だけだ」
俺は圧倒的な光景に見入りながらも、左手の痣がかつてないほど強く脈打っているのを感じていた。この都市と俺の血に流れる力が共鳴しているようだった。
「では…街を探索しましょうか」エリナが提案した。
「その前に」ファリオンは注意深く言った。「もう一つ知っておくべきことがある。この都市には三層の構造がある。上層は我々がいる一般区域、中層は学術区域、そして下層は…」
「星の門がある場所ですね」オルドリッチ館長が静かに言った。
「その通り」ファリオンは頷いた。「下層に行くには特別な許可が必要だが、それは後でレインに授けるつもりだ」
「私たちは街を分かれて探索した方がいいでしょうか?」シルヴィアが尋ねた。
「危険だ」ファリオンは首を振った。「魔法の罠や守護獣がまだ活性化している可能性がある。まずは一緒に重要な場所を回ろう」
老人の案内で、一行は都市の中央へと向かった。道は広々としており、両側には精巧な彫刻や噴水が並んでいる。建物の多くは円形か半円形で、風を意識した流線型のデザインだった。
「なぜ都市の名前が『風の都』なのですか?」エリナが興味深そうに尋ねた。
「この都市は大気と風の研究が盛んだった」ファリオンは説明した。「空飛ぶ魔法装置や、天候を操る魔法が開発されていたんだ」
「空を飛ぶ?」ルークは目を丸くした。
「ああ」老人は微笑んだ。「古代人は今では失われた多くの魔法技術を持っていた。空を飛ぶことも、その一つだ」
中央広場に到着すると、そこには七つの塔が円を描くように立っていた。各塔はそれぞれ異なる色の光を放ち、中央には大きな水晶のようなモニュメントがあった。
「これは七都市の象徴だ」ファリオンは説明した。「各塔は他の六つの都市と繋がっていた」
「繋がっていた?」マーカス教授が尋ねた。
「遠隔通信も可能だったんだ」老人は頷いた。「残念ながら、今はその機能は失われている。他の都市の状態も不明だ」
中央のモニュメントに近づくと、俺の左手の痣が強く反応した。青い光が痣から放たれ、モニュメントも同じ色で応答するように輝いた。
「何が起きた?」俺は驚いて尋ねた。
「都市があなたを認識したんだ」ファリオンは微笑んだ。「星の継承者として」
モニュメントの輝きは徐々に強まり、やがて光の柱が空高く伸びた。その光は都市全体に広がり、建物や道が一層鮮やかに輝き始めた。
「都市が目覚めた…」老人は感動した様子で言った。「3000年の眠りから」
「どういう意味ですか?」俺は混乱した。
「風の都は、正当な星の継承者の到来を待っていたんだ」ファリオンは説明した。「あなたが来たことで、都市の魔法システムが完全に活性化した」
その言葉を証明するかのように、周囲の建物から光が放たれ、道や広場の床に埋め込まれた魔法陣が次々と輝き始めた。噴水が再び水を噴き上げ、風を象徴する装飾が動き始めた。
「まるで都市全体が生き返ったようだ」シルヴィアは感嘆の声を上げた。
「これが星の継承者の力…」クレイグは畏敬の念を込めて俺を見た。
俺自身、この状況に圧倒されていた。左手の痣からは青い光が溢れ出し、都市と共鳴しているようだった。この古代の場所と、俺の中に流れる血には確かな繋がりがあった。
「ファリオン」俺は静かに尋ねた。「この都市が目覚めたことで、何が変わるんですか?」
「多くのことが可能になる」老人は答えた。「古代の知識へのアクセス、失われた魔法の再現、そして…」
彼は言葉を切り、重大なことを言おうとしているかのように沈黙した。
「そして?」マーカス教授が促した。
「星の門への道が開かれる」ファリオンは真剣な表情で言った。「しかし、それは見学の次だ。まずは学術区域を訪れよう。そこにあなたの両親が最後に調査していた場所がある」
その言葉に、俺の心臓が高鳴った。両親の足跡をたどる——それこそが、この旅の重要な目的の一つだった。
「案内してください」俺は決意を込めて答えた。
ファリオンは頷き、中央広場の東側にある建物群へと一行を導いた。活性化した都市は以前にも増して幻想的な光景となり、まるで夢の中を歩いているかのようだった。
市民たちがいないにもかかわらず、風の都は確かに「生きて」いた。3000年の時を超え、星の継承者の帰還を待っていたかのように。
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