# 第7章: 【古の都市】星の都への試練の旅
## 【秘密の計画】休暇を利用した探索
夏至祭から一週間が過ぎ、王立魔術学院は夏季休暇に入った。多くの学生が帰省する中、学院の図書館には四人の姿があった。
「探索計画の最終確認をしましょう」
エリナが大きな地図を広げ、みんなの注目を集めた。それは天脈山脈周辺の詳細な地図で、マーカス教授の助力で入手したものだ。
「この赤い印が、『風の都』の推定位置」彼女は地図上の印を指さした。「レインの記憶と、シルヴィアの祖父の記録を照らし合わせると、ここが最も可能性が高い場所よ」
シルヴィアが頷きながら地図を覗き込んだ。「祖父の日記によれば、風の都は七つある古代都市の中で最も完全な形で残っているはずよ。山の内部に建設されていたから、崩壊を免れたのね」
「へえ、山の中に都市かぁ」ルークは感心した様子で言った。「古代人はすごいな。でも、どうやって入るんだ?」
「それが問題なんだ」俺は真剣な表情で答えた。「入口は特殊な印で封印されている。七つの星の形をした印だ」
「あなたの記憶にあった入口ね」エリナが言った。「でも、それがどこにあるか正確には分からないのよね?」
「ああ」俺は少し申し訳なさそうに頷いた。「記憶が断片的で…ただ、その入口が洞窟の中にあったことは確かだ」
「それだけでも重要な手がかりよ」シルヴィアが励ますように言った。「多くの探検家たちは、古代都市の存在自体を疑っているのだから」
図書館の奥からマーカス教授が資料を抱えて現れた。彼は最近、いつにも増して忙しそうだった。
「皆さん、これを見てください」教授は古びた巻物を広げた。「オルドリッチ館長から特別に貸していただいた文書です。『風の守護者の記録』と呼ばれるものです」
四人は興味津々で巻物を覗き込んだ。それは古代語と現代語が混在した奇妙な文書で、所々に独特の図案が描かれていた。
「これによると」教授は説明を始めた。「風の都への入口は、年に一度、夏至の日にだけ開くとされています」
「夏至?」俺は驚いて教授を見た。「それは先週じゃないですか!」
「その通り」教授は少し困ったように頷いた。「しかし、こちらの記述を見てください」
教授は巻物の別の部分を指さした。
「『星の痕を持つ者の血は、門を目覚めさせる』」エリナが書かれた文を読み上げた。「これはレインのことね!」
「そうです」教授は頷いた。「星の継承者の血が、封印を解く鍵なのです。つまり、夏至の日でなくとも、レインなら入口を開ける可能性があるのです」
「でも、確実じゃないってことか?」ルークが不安そうに言った。
「残念ながら、古代の記録は常に明確とは限りません」教授は肩をすくめた。「解釈の余地があるものです。ただ、これが我々の最良の手がかりです」
「行ってみるしかない」俺は決意を固めた。「両親が最後に訪れた場所、そして『黒翼の結社』が狙っている場所。そこに真実があるはずだ」
「他の準備はどうだ?」ルークが実務的な質問をした。
「装備は私が用意したわ」シルヴィアが言った。「家から持ち出せるものは限られていたけど、必要な道具は揃えたわ」
彼女は先週、決闘の結果を受けて実家との関係が険悪になっていた。特にヴィクターとの婚約破棄を宣言したことで、父親の怒りを買ったのだ。しかし、彼女は自分の決断を曲げなかった。
「食料と医療用品は俺が担当した」ルークが胸を張った。「剣術科の実地訓練で使うものを少し"借りた"んだ」
彼は「借りた」という言葉に特別な強調をつけたが、誰も詮索しなかった。
「魔法関連の準備は私が」エリナは小さな袋を取り出した。「防御用の魔法アイテムや、緊急時の魔晶石など。それと、これは特別に作ったの」
彼女は四つの小さなブレスレットを取り出した。それぞれ違う色の石がはめ込まれている。
「これは簡易的な魔法通信具よ」彼女は説明した。「離れていても連絡を取れるようにしたの。石を三回こすると、他のブレスレットが温かくなるわ」
「すごいな!」ルークは感心した様子で自分のブレスレットを受け取った。
「そして、これが最も重要なもの」マーカス教授が最後に小さな革の筒を取り出した。「これは『星継の書』の重要な部分を抜粋したものです。特に星の門に関する記述を中心に」
俺は感謝してそれを受け取った。「ありがとうございます、教授」
「出発予定は?」シルヴィアが尋ねた。
「明後日の早朝」エリナが答えた。「北門から出発して、最初の日は山麓の村まで行く予定よ。そこから山道を二日かけて目的地に向かうわ」
「気をつけないといけないのは」教授が警告するように言った。「君たちだけではないということです。『黒翼の結社』も同じ場所を目指しているはずです」
「アーサー・ノイマンか…」俺は顔を曇らせた。
決闘後、アーサーは学院から姿を消した。ヴィクターは叔父と連絡が取れないと言っていた。彼は明らかに何かを計画している。
「彼らより先に行動する必要があるわ」シルヴィアは真剣な表情で言った。「特に彼らが何を探しているのか、先に把握しておかないと」
「星の門だろ?」ルークが首を傾げた。
「それだけじゃないはずよ」シルヴィアは首を振った。「祖父の日記には、門の先にある『星の間』こそが彼らの本当の目的だと書かれていたわ。そこに古代の力が眠っているのよ」
「星の間…」俺は思い出すように呟いた。「そこで古代文明の崩壊が始まったんだな」
「そう」シルヴィアは頷いた。「そして彼らは、その力を再び目覚めさせようとしている」
重い沈黙が図書館に流れた。彼らが目指すものが本当に危険なものだとすれば、単なる探索旅行ではすまない。これは文明の存亡にかかわる重大な冒険になるかもしれない。
「でも、なぜレインの血が必要なの?」ルークが疑問を投げかけた。「なぜ彼らは自分たちだけで開けられないんだ?」
「それは古代の知恵ね」マーカス教授が説明した。「彼らは強大な力を誤用から守るために、特別な血統だけが操れるように設計したのです。それが星の継承者です」
「だからこそ、俺たちが先に行動しなければならない」俺は決意を込めて言った。「彼らに星の門を開かせるわけにはいかない」
「では、すべての準備は整ったな?」マーカス教授は確認した。
全員が頷いた。
「なら、残るは…」教授が言いかけたとき、図書館の扉が静かに開いた。
「残るは、私の参加だけだな」
オルドリッチ館長が静かに歩み寄ってきた。彼の姿に全員が驚いた表情を見せた。
「館長?」マーカスが驚いて立ち上がった。「あなたも?」
「ああ」館長は穏やかに微笑んだ。「この冒険には、私のような年寄りの知識も役立つだろう。特に古代語の解読においてはな」
「でも、学院は?」エリナが心配そうに尋ねた。
「夏休み中だ」館長は肩をすくめた。「それに、代理の館長は既に手配してある。学院長も了承済みだよ」
俺たちは互いに顔を見合わせた。オルドリッチ館長の参加は予想外だったが、心強い援軍になることは間違いなかった。特に彼の古代語の知識は比類なきものだった。
「それでは、明後日の朝に北門で会おう」館長は言った。「そして、この会話は他言無用だ。特に、学院内には『黒翼の結社』の耳がある可能性がある」
全員が真剣に頷いた。
「よし、解散だ」マーカス教授が言った。「各自、最終準備を整えてくれ」
俺たちは静かに立ち上がり、図書館を後にした。窓から差し込む夕日が、各々の決意に満ちた表情を赤く照らしていた。
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宿舎に戻ると、俺はベッドの下から小さな木箱を取り出した。箱の中には両親の形見があった。父親の使っていた小さなナイフと、母親の描いた天脈山脈のスケッチ。
「父さん、母さん…」俺は静かに呟いた。「もうすぐ、あなたたちが最後に行った場所に行きます。そして真実を知ります」
左手の痣がわずかに光を放った。まるで両親の魂が応えてくれたかのように。
箱を閉め、俺は窓辺に立って星空を見上げた。この壮大な宇宙の中で、古代文明が築き上げた知恵と力が、今も天脈山脈に眠っている。そして、その力を巡って再び争いが起ころうとしている。
「何があっても、真実を見つけ出すんだ」俺は決意を新たにした。
静かなノックの音が俺の思考を中断させた。
「誰だ?」
「私よ」エリナの声が扉の向こうから聞こえた。
ドアを開けると、エリナが少し緊張した様子で立っていた。手には小さな布袋を持っている。
「入って」俺は彼女を部屋に招き入れた。
エリナは少し躊躇いながら入室し、窓際に立った。彼女の横顔が月明かりに照らされて、いつもより美しく見えた。
「どうしたんだ?」俺は尋ねた。
「これを持ってきたの」彼女は布袋を差し出した。「明後日出発する前に渡そうと思ったけど、今の方がいいと思って」
俺は袋を開け、中から小さな魔法のコンパスを取り出した。それは古代語で刻まれた美しい装飾が施されていた。
「これは…」
「古代魔法のコンパスよ」エリナが説明した。「古代魔法の研究書を元に自分で作ったの。あなたの左手の痣と共鳴するように設計したわ」
「どうやって使うんだ?」俺は好奇心を抱いて尋ねた。
「あなたの左手で持つと、星の継承者の血に反応する場所を指し示すわ」彼女は言った。「少なくとも理論上はね。まだ試していないけど」
俺は左手でコンパスを握った。すると、針が微かに青く光り、揺れ始めた。そして北東の方向、まさに天脈山脈のある方角を指し示した。
「すごい…」俺は息を呑んだ。「本当に反応した」
「よかった」エリナは安堵の笑みを浮かべた。「これで少しは探索が楽になるはずよ」
「ありがとう、エリナ」俺は心からの感謝を込めて言った。「いつも助けてくれて」
「当然よ」彼女は少し照れながらも真剣な表情で答えた。「私たちは仲間でしょう?」
仲間。その言葉に何か物足りなさを感じた。俺にとって彼女は単なる仲間以上の存在だった。しかし、それを口にするには、今はまだ早いような気がした。
「ああ、最高の仲間だ」俺は微笑んだ。
二人はしばらく窓から見える星空を眺めた。言葉にはできない何かが、二人の間に流れていた。
「怖くない?」突然エリナが小さな声で尋ねた。「これから向かう場所は、あなたの両親が…」
彼女は言葉を飲み込んだが、その意味は明らかだった。両親が命を落とした場所。
「怖いさ」俺は正直に答えた。「でも、行かなければならない。真実を知るために」
エリナは静かに頷いた。「私も怖いわ。でも、あなたと一緒なら大丈夫よ」
彼女の言葉に、胸の奥で何かが温かくなるのを感じた。
「ありがとう」俺は彼女の手を軽く握った。「一緒に真実を見つけよう」
エリナは微かに赤くなりながらも、頷いた。
「もう遅いわね」彼女は窓の外の月を見て言った。「明日は最終準備があるから、早く休んだ方がいいわ」
「ああ」俺は同意した。「おやすみ、エリナ」
「おやすみ、レイン」
彼女が部屋を出た後も、彼女の存在感はしばらく残っていた。左手の痣が微かに温かい。これはただの偶然だろうか、それとも何か意味があるのだろうか。
俺はエリナからもらったコンパスを見つめた。それは今も北東を指し示している。天脈山脈、古代の遺跡、そして両親の最期の場所。
「必ず見つけ出してみせる」俺は静かに誓った。
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翌日は準備で忙しく過ぎた。各自が担当の最終確認を行い、マーカス教授は学院長との最後の打ち合わせに出かけた。
夕方、俺はヴィクターにもう一度会いに行った。彼は医務室から自分の部屋に戻っていたが、まだ完全には回復していなかった。
「行くのか?」ヴィクターは窓際の椅子に座りながら尋ねた。彼の右腕はまだ包帯で覆われていたが、顔色は良くなっていた。
「ああ、明日の朝だ」俺は答えた。
「気をつけろよ」彼は真剣な表情で言った。「叔父は…容赦しない」
「わかってる」俺は頷いた。「でも、行かなければならないんだ」
「伝えておきたいことがある」ヴィクターは声を低めた。「叔父の部屋から聞いた会話だ…彼らは『星の杖』というものを探しているらしい」
「星の杖?」
「ああ」ヴィクターは顔をしかめた。「詳細は分からないが、それが星の門を開くための鍵だと言っていた」
「でも、鍵は星の継承者の血のはずだ」俺は混乱した。
「両方必要なのかもしれない」ヴィクターは推測した。「いずれにせよ、注意した方がいい」
「情報ありがとう」俺は感謝した。「回復に専念してくれ」
「ああ」ヴィクターは少し照れくさそうに頷いた。「無事に戻ってこい」
別れの挨拶を交わし、俺は廊下に出た。星の杖…それは初めて聞く言葉だった。マーカス教授に伝える必要がある。
俺が教授の研究室に向かおうとしたとき、廊下の向こうから急ぎ足の足音が聞こえてきた。振り返ると、ルークが息を切らせて駆けてきた。
「レイン!」彼は声を抑えながらも緊迫した様子で言った。「大変だ…シルヴィアが…」
「どうした?」俺は即座に尋ねた。
「彼女の父親が学院に来ている」ルークは言った。「彼女を連れ戻すために。今、学院長室で激しく議論しているらしい」
「くそっ」俺は歯を食いしばった。「場所は?」
「学院長室だ」ルークは俺と一緒に走りながら説明した。「エリナが先に行った。マーカス教授も呼びに行ったぞ」
二人は急いで中央塔へと向かった。もしシルヴィアが強制的に連れ戻されれば、計画は大幅な変更を余儀なくされる。しかも、彼女は重要な情報を持っている。
「ヴァルト家は結社と関係があるのか?」俺は走りながらルークに尋ねた。
「さあな」ルークは肩をすくめた。「でも、シルヴィアはそうは思っていないらしい。彼女は父親が政治的立場から結社と取引しているだけだと言っていた」
二人が学院長室に到着すると、ドアの前でエリナが心配そうに待っていた。
「どうなってる?」俺は小声で尋ねた。
「まだ中よ」エリナは顔をしかめた。「シルヴィアのお父さんの声がかなり大きいわ」
確かに、ドアの向こうからは怒鳴り声が聞こえてきた。
「どうするんだ?」ルークが尋ねた。
俺が答える前に、ドアが開いた。マーカス教授が出てきて、三人を見て驚いた様子を見せた。
「君たちか」教授は小声で言った。「状況は複雑だ。ヨアヒム・フォン・ヴァルト卿がシルヴィアを即刻連れ戻すと主張している」
「理由は?」俺は尋ねた。
「ノイマン家との婚約が理由だと言っているが…」教授は言葉を選ぶように慎重に話した。「本当の理由は別にあるように思える」
「結社ですか?」エリナが小声で尋ねた。
教授は肩をすくめた。「確証はないが、可能性はある」
「何とかなりませんか?」俺は焦りを感じながら尋ねた。
「学院長とオルドリッチ館長が交渉中だ」教授は言った。「シルヴィア自身も強く反対している。だが、法的には彼女はまだ父親の保護下にある」
その時、学院長室のドアが再び開き、オルドリッチ館長が出てきた。
「マーカス、そしてグレイソン君たち」館長は少し疲れた様子で言った。「中に入ってくれ。学院長が呼んでいる」
俺たちは緊張しながら学院長室に入った。部屋の中央には威厳のある中年の男性が立っていた。シルヴィアに似た顔立ちだが、その表情には冷酷さが浮かんでいる。シルヴィアは彼から少し離れた場所に立ち、毅然とした態度を保っていた。
「これが噂の生徒たちか」ヴァルト卿は冷たい眼差しで俺たちを見た。「特に君が…レイン・グレイソンだな」
「はい」俺は真っ直ぐに彼を見返した。
「私の娘に悪影響を与えているのは君だと聞いている」彼は非難するように言った。
「父!」シルヴィアが抗議したが、父親は手で制した。
「黙りなさい、シルヴィア」彼は厳しく言った。「お前はすぐに家に戻り、ノイマン家との婚約問題を解決する。そして、この…危険な冒険など忘れなさい」
「危険な冒険?」俺は眉をひそめた。「なぜそう思われるのですか?」
ヴァルト卿は一瞬動揺したように見えたが、すぐに威厳ある態度を取り戻した。
「天脈山脈の古代遺跡探索だろう?」彼は言った。「そんな場所に行けば命の保証はない。私の娘をそんな危険に晒すわけにはいかん」
「なぜ、私たちの計画をご存じなのですか?」エリナが静かに、しかし鋭く尋ねた。
再び、ヴァルト卿の表情に動揺が走った。
「噂は早いものだ」彼は言葉を濁した。
「それとも、『黒翼の結社』から聞いたのですか?」俺は思い切って尋ねた。
部屋に重い沈黙が落ちた。ヴァルト卿の目に怒りが宿ったが、それ以上に、驚きと恐れが見えた。
「無礼な!」彼は低い声で言った。「私をそのような輩と一緒にするな」
「お父様」シルヴィアが一歩前に出た。「もう隠す必要はありません。あなたは結社と取引していることを私は知っています。そして彼らが何を探しているかも」
「シルヴィア!」ヴァルト卿は声を荒げた。「黙りなさい!」
「いいえ、もう黙りません」シルヴィアは毅然と言った。「祖父と母の意志を継ぐために、私は行くのです。それが家の本当の使命だったはずです」
ヴァルト卿の顔が苦悩に歪んだ。彼は周囲を見回し、特にアレクサンダー学院長を長く見つめた。
「あなたは知っているはずだ、アレクサンダー」彼は静かに言った。「彼らの力がどれほど恐ろしいものか」
「知っている」学院長は重々しく頷いた。「だからこそ、真実を知る者たちが行動すべき時なのだ」
ヴァルト卿はため息をついた。彼は突然、疲れ果てた老人のように見えた。
「シルヴィア」彼は穏やかな声で娘に語りかけた。「お前を心配しているのだ。お前の母も、祖父も…同じ道を行って戻ってこなかった」
「だからこそ、私が行かなければならないのです」シルヴィアは静かに、しかし強い意志を込めて言った。「彼らが遺した使命を果たすために」
ヴァルト卿は長い間黙っていた。最終的に、彼は敗北を認めるように肩を落とした。
「アレクサンダー」彼は学院長に向き直った。「娘の安全は保証してくれるな?」
「我々全力を尽くす」学院長は厳かに約束した。「マーカス教授とオルドリッチ館長も同行する」
ヴァルト卿は目を閉じ、何かを決断するように深く息を吐いた。
「わかった」彼は最終的に言った。「シルヴィア、お前の意志を尊重しよう。だが、これを持って行きなさい」
彼はローブの内側から小さな銀のメダリオンを取り出し、シルヴィアに渡した。
「これは?」シルヴィアは不思議そうに尋ねた。
「お前の母のものだ」ヴァルト卿は静かに言った。「彼女が最後の旅に出る前に、私に預けたものだ。『必要な時が来たら、娘に』と言っていた」
シルヴィアは感動したように目を見開き、メダリオンを大切そうに受け取った。
「そして、グレイソン君」ヴァルト卿は俺に向き直った。「一つ警告しておく。『黒翼の結社』はすでに動いている。特にアーサー・ノイマンは危険な男だ。彼の目的は、単なる古代の力だけではない」
「どういう意味ですか?」俺は尋ねた。
「彼は…復讐を望んでいる」ヴァルト卿は意味深に言った。「彼の兄に対する復讐を」
「兄?」俺は混乱した。
「それ以上は言えない」ヴァルト卿は首を振った。「ただ、用心するのだ」
彼はシルヴィアに最後の視線を送り、部屋を後にした。扉が閉まると、部屋に安堵の空気が流れた。
「なんとか解決したようだな」マーカス教授が言った。
「お父様が許してくれるなんて…」シルヴィアは不思議そうに言った。
「あの方は心の底では、娘を思っている」オルドリッチ館長は微笑んだ。「そして、正しいことをしようとしているんだよ」
「さて」学院長が声を上げた。「これで全ての障害は取り除かれた。明朝の出発に備えるがよい」
俺たちは頷き、学院長室を後にした。廊下に出ると、シルヴィアは母親のメダリオンを見つめていた。
「何か特別なものなの?」エリナが尋ねた。
「わからないわ」シルヴィアは首を振った。「でも、きっと重要なものよ。母が最後に残したものだもの」
「明日、すべてが明らかになるさ」ルークが元気づけるように言った。
「ああ」俺は頷いた。「さあ、最後の準備をしよう。明日は早いぞ」
四人は互いに視線を交わし、決意を新たにした。これから始まる旅は、彼らの人生を大きく変えることになるだろう。そして、その第一歩は明日、北門から始まるのだ。
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