# 第4章: 【魔力暴走】制御を失った力は破滅を招く
## 【深まる謎】古代遺跡への手がかり
「これが両親の最後の調査記録です」
オルドリッチ館長は古びた革表紙のノートを俺に手渡した。図書館の奥、館長の個室で俺とエリナは息を詰めるようにノートを見つめた。
「どうやって手に入れたのですか?」俺は驚きと感謝を込めて尋ねた。
館長は眼鏡の奥の目を細めて微笑んだ。
「私も昔は現場の考古学者だったのだよ。君の両親とも交流があってね。事故の後、調査隊の一部の資料が私の元に送られてきたんだ」
俺は震える手でノートを開いた。そこには父の筆跡で、「天脈山脈北部区画調査記録」と記されていた。日付は七年前—両親が亡くなる直前のものだ。
「両親は…何を探していたんですか?」
「表向きは古代アストラリス文明の遺跡調査だった」館長はゆっくりと語った。「しかし実際には、もっと特定の目的があったようだ」
エリナがノートのページをめくり、内容を確認していく。
「この地図…」彼女は目を見開いた。「天脈山脈の詳細な探査地図ね。しかも、通常の地図にはない印が…」
確かに、地図には赤い×印がいくつか記されていた。そして一箇所、青い円で囲まれた場所がある。
「青い印のところが重要なのでしょうか?」俺は尋ねた。
「おそらくね」館長は頷いた。「君の両親はその場所で何か重要なものを発見したようだ。彼らの最後の通信では、『星の門』に関する重大な発見があったと報告されているんだ」
「星の門?」エリナが食いつくように聞き返した。
「古代の伝説だよ」館長は説明した。「星の都アストラリスの中心部に存在するとされる『星の間』への入り口だ。空間を超える魔法の扉と言われている」
俺の心が高鳴った。マーカス教授から聞いた「星の継承」儀式と関連がありそうだ。
「この印の場所が…星の都の入口なのでしょうか?」
「可能性はあるね」館長は慎重に言った。「しかし、まだ確証はない。君の両親も最終的な確認をする前に…」
言葉は途切れたが、意味は明らかだった。彼らはその確認をする前に命を落としたのだ。
「それから、この最後のページを見てごらん」館長はノートの最後のページを指し示した。
そこには、奇妙な星型の図形と古代文字が記されていた。俺には読める。
「『星の門を開くのは星の血のみ』」俺は自然と訳した。
「読めるのですね」館長は特に驚いた様子もなく言った。「やはり君は彼らの子だ」
エリナは俺と館長を交互に見ていた。
「これは…門を開くための鍵に関する記述だわ」彼女は理解した。「『星の血』というのは、星の継承者の血のことね」
「そう考えるのが自然だろう」館長は頷いた。「古代の遺跡は多くの場合、特定の条件を満たす者だけが入れるよう設計されていた。特に重要な場所ほどね」
俺はノートを更に読み進めた。地質調査、魔力濃度測定、発掘作業の記録。そして興味深いのは、古代文字の解読メモだ。両親も古代語の研究をしていたようだ。
「館長」俺は決意を固めて言った。「この地図の場所に行きたい」
「それは危険すぎる」館長は厳しい表情になった。「天脈山脈は魔法生物の巣窟だし、『黒翼の結社』も活動を活発化させている」
「でも、両親が何を見つけたのか知る必要があります」俺は食い下がった。「彼らの研究を継ぐのは俺の責任です」
館長はため息をついた。
「気持ちは分かる。だが、今すぐに行動するのは賢明ではない。まずは十分な準備が必要だ」
「どのような準備ですか?」エリナが実務的に尋ねた。
「まず、もっと情報を集めること」館長は指を折りながら言った。「次に、魔法の修練を積むこと。そして適切な時期と仲間を選ぶこと」
「仲間…」俺は考え込んだ。
「そう」館長は頷いた。「古代遺跡の探索は一人では不可能だ。信頼できる仲間が必要だ」
エリナは即座に言った。「私は行くわ。古代文明研究が専門だもの」
「頼りにしてる」俺は感謝の笑みを向けた。
「それから」館長は続けた。「これも参考になるかもしれない」
彼は古い羊皮紙の地図を取り出した。天脈山脈の全体図だ。両親のノートよりも広範囲をカバーしている。
「これは古代アストラリス文明の地図を現代の地図に重ね合わせたものだ」館長は説明した。「赤い点が古代の七つの都市の推定位置。そして中央の青い点が星の都アストラリスだ」
地図を見ると、両親のノートに記された場所は確かに古代都市の一つ、「風の都エアリア」の近くに位置していた。
「風の都…」俺は呟いた。
「古代の七都市の一つだ」館長は説明した。「おそらく君の両親は風の都を通じて星の都への道を探そうとしていたのだろう」
これは重要な情報だった。古代文献によれば、七つの都市はすべて星の都に通じる道を持っていたという。
「館長、この情報は他の人には?」エリナが心配そうに尋ねた。
「安心したまえ」館長は穏やかに言った。「これらの資料は極秘扱いだ。他の教授でさえ知らない」
俺たちは感謝の意を示した。
「ところで」館長は少し表情を変えた。「最近、図書館の特別区画への不審な侵入があったんだ」
「黒翼の結社ですか?」俺は緊張した。
「確証はないが、可能性は高い」館長は真剣な表情で言った。「彼らも古代遺跡の情報を探しているようだ。特に星の都への道について」
「だとしたら、急ぐ必要があるわね」エリナの声には焦りが混じっていた。
「焦りは禁物だ」館長は諭すように言った。「彼らは何世紀もかけて探してきた。それでもまだ見つけられていない。拙速な行動は危険を招くだけだよ」
俺たちはその忠告に従うことにした。情報収集と準備を徹底し、適切なタイミングで行動する。
「ここに書かれていることは誰にも話さないでください」館長は最後に念を押した。「シルヴィア・フォン・ヴァルトにも」
エリナがすかさず同意した。「もちろんです」
俺は少し迷ったが、館長の判断を信頼することにした。
「分かりました」
館長室を後にした俺たちは、静かな廊下を歩きながら思いを巡らせた。
「これは大きな前進ね」エリナが小声で言った。「両親の研究の手がかりが見つかったわ」
「ああ」俺は頷いた。「でも、まだ多くの謎が残っている」
「例えば?」
「なぜ両親が事故に遭ったのか」俺は真剣な表情で言った。「本当に事故だったのか、それとも…」
エリナは理解を示すように俺の腕に手を置いた。
「一緒に真実を突き止めましょう」
「ありがとう、エリナ」
俺たちは図書館の中央ホールに戻った。休日の午後、多くの学生が勉強に励んでいる。平和な光景だが、俺たちの心は新たな発見と危険の予感で満ちていた。
「第三書庫で情報を整理しましょう」エリナが提案した。「古代遺跡に関する文献をもっと調べる必要があるわ」
「そうだな」
第三書庫に向かう途中、俺は階段の上からシルヴィアが本棚の間を歩いているのを見かけた。彼女は俺たちに気づいていないようだった。彼女もまた何かを探している。彼女にこの発見を伝えるべきか?館長の警告を守るべきか?
エリナは俺の視線に気づき、軽く首を振った。彼女は館長の忠告を重視しているようだ。
「まずは私たちだけで整理しましょう」彼女は囁いた。
俺は同意し、シルヴィアには気づかれないよう別の階段を使って第三書庫へと向かった。
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数時間後、俺とエリナは古代遺跡に関する様々な文献を調査していた。「風の都エアリア」についての情報は限られているが、いくつかの興味深い記述を見つけることができた。
「ここに書いてあるわ」エリナがある古い巻物を指し示した。「風の都は『観測と予知の中心地』だったとされている。高地に位置し、星々を観測するための施設があったのよ」
「それと、これも見て」俺は別の文献を広げた。「風の都には『風の神殿』があり、そこから星の都への『風の道』が開かれていたという」
「風の道…空を飛ぶという意味かしら?」
「あるいは、別の次元への通路かもしれない」俺は推測した。「古代魔法には空間操作の技術があったとされているからな」
俺たちは様々な史料を照らし合わせ、仮説を立てていった。風の都の位置、その機能、そして星の都との関係について。両親のノートと合わせることで、より明確な地図が頭の中で形成されていく。
「面白いわね」エリナが言った。「古代文献によれば、七つの都市はそれぞれ特定の機能を持っていたのよ。風の都は『予知』、火の都は『鍛造』、水の都は『治癒』といった具合に」
「そして星の都はそれらすべてを統括する中心だった」俺は頷いた。
「でも、なぜ古代文明は崩壊したの?」エリナは重要な疑問を投げかけた。「公式記録では『大魔法災害』とされているけど、詳細は明らかにされていないわ」
「それが最大の謎だな」俺も同意した。「もし崩壊の真相がわかれば、古代魔法の危険性と可能性の両方が理解できるかもしれない」
エリナは別の文献を開いた。「ここには興味深いことが書かれているわ。崩壊直前、星の都では『星の継承』という儀式が行われようとしていたという記述がある」
「星の継承…」俺はマーカス教授から聞いた言葉を思い出した。
「その儀式の詳細は書かれていないけど」エリナは続けた。「『新たなる王の誕生』を祝うためのものだったらしいわ」
「そして、その儀式の最中に何かが起きた…」俺は推測した。
「可能性はあるわね」エリナは真剣な表情で言った。「でも、これ以上の情報は見つからない。まるで意図的に記録から消されたかのようよ」
この発見は、古代魔法と星の継承者の役割についての重要な手がかりとなった。何かが儀式中に起こり、文明全体の崩壊を引き起こしたのだ。しかし、その詳細はまだ闇の中だ。
「エリナ」俺は決意を固めて言った。「いつか必ず天脈山脈に行こう。両親の足跡を辿り、彼らが見つけたものを確かめるんだ」
「ええ」彼女は強く頷いた。「必ずよ」
窓の外は既に暗くなり始めていた。図書館の閉館時間が近づいている。
「今日はここまでにしよう」俺は提案した。「多くの情報を得られたし、整理する時間も必要だ」
「そうね」エリナは資料を片付け始めた。「それに、明日は魔法実践の授業があるものね」
そう—魔法実践。ゼイガー教授の授業だ。エリナとの研究に夢中になって、ほとんど忘れていた。
「何か新しい魔法を試すつもりなの?」エリナが尋ねた。
「ああ」俺は少し興奮して答えた。「マーカス教授から学んだ魔力増幅の技術を試してみようと思う」
「気をつけてね」エリナの表情に心配の色が浮かんだ。「魔力増幅は危険を伴うわ」
「分かってる」俺は彼女を安心させようとした。「慎重にやるよ」
だが、その時は予想もしていなかった。翌日の授業が、俺たちの状況を一変させる出来事になるとは。魔力暴走の恐ろしさも、その結果もたらされる危機も。
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