## 【謎の老教授】古の知識を持つ者

シルヴィアとの会見から数日後の午後、俺は魔法史の授業を終え、廊下を歩いていた。エリナには先ほどのシルヴィアとの会話の詳細を報告済みで、彼女は半信半疑の反応だった。


「おそらく真実と嘘が混ざっているのね」彼女は複雑な表情で言った。「彼女の立場を考えれば、完全に信用することはできないわ」


俺も同感だった。シルヴィアから受け取った祖父のノートは確かに本物の研究書のように見えるが、それだけで彼女を信用するわけにはいかない。


廊下の角を曲がろうとしたとき、突然、誰かがぶつかってきた。書類と魔法書が床に散らばる。


「申し訳ない!」俺は慌てて謝った。


「いや、私も不注意だった」


優しい声で応えたのは、白髪と長い髭を持つ老教授だった。マーカス・フォン・アイゼン教授—古代魔法史・考古学の権威として知られている人物だ。普段は上級生の専門クラスしか教えていないため、俺は直接教わったことはなかった。


「あなたは…レイン・グレイソン君かな?」教授は俺を見て言った。


「はい」俺は驚いた。「教授は私をご存知なのですか?」


「ああ、噂は聞いている」教授は温かい笑顔で言った。「最近、急激に成長した学生だろう?マグナス教授からも話を聞いたよ」


俺は教授の散らばった書類を集めるのを手伝った。その中に、古代アストラリス文明に関する研究資料が混じっていることに気がついた。


「興味深い研究ですね」俺は思わず言った。


「ほう?」教授は少し驚いた表情を見せた。「古代文明に関心があるのかね?」


「はい」俺は率直に答えた。「特に古代魔法の理論的側面に興味があります」


教授は眼鏡の奥の目を細め、俺をじっと見つめた。その視線は穏やかながらも、何かを見抜こうとしているようだった。


「なら、よかったら私の研究室に来ないか?」教授は提案した。「今ちょうど時間があるんだ。古代魔法について話し合えるとありがたい」


この突然の誘いには戸惑ったが、マーカス教授は学院で最も尊敬される学者の一人。この機会を逃す理由はなかった。


「喜んで」俺は答えた。


---


マーカス教授の研究室は学院の古い棟の最上階にあった。壁一面の本棚、古代の遺物が並ぶ棚、そして大きな作業机。窓からは学院の全景が見渡せる。


「座りたまえ」教授は親切に言った。「お茶でも飲みながら話そう」


小さな炉で温められたポットから、芳しい香りのお茶が注がれた。


「さて」教授は椅子に腰掛けた。「古代魔法に興味があるというが、具体的にはどのような点かね?」


俺は慎重に言葉を選んだ。


「現代魔法と古代魔法の違いに興味があります。特に、魔力制御の方法論について」


「なるほど」教授は頷いた。「確かに、その違いは研究に値する。現代魔法が形式と構造を重視するのに対し、古代魔法は意思と感情を核とする。効率も全く異なるんだよ」


その説明は、「星継の書」で読んだ内容と完全に一致していた。マーカス教授は本当に知識が深い。


「教授は古代文字も読めるんですか?」俺は興味を持って尋ねた。


「ある程度はね」教授は微笑んだ。「しかし完全ではない。古代アストラリス語は複雑で、現存する資料も限られている。完全に解読できる学者は世界でも数えるほどしかいないだろう」


これは重要な情報だった。俺が「星継の書」を読めるのは、極めて稀な能力だということだ。


教授は話を続けた。


「古代魔法への関心は、最近の実技での成功と関係があるのかね?」


その質問は鋭かった。教授は何か感づいているのだろうか?


「実は…」俺は半分の真実を話すことにした。「魔力共鳴の概念を学んで以来、実技の成績が上がったんです。古代の手法に何か学べるものがあるんじゃないかと思って」


教授は興味深そうに頷いた。


「賢明なアプローチだ。現代魔法は体系化された分、失われた知恵も多い。古の魔術師たちの知識を現代に活かす—それは価値ある探求だよ」


会話が進むにつれ、俺はマーカス教授が単なる学者以上の人物だと感じ始めた。彼の知識は教科書的なものを超え、まるで古代魔法を実際に見たことがあるかのように具体的だった。


「グレイソン君」教授は突然、話題を変えた。「君の両親のことを聞いてもいいかな?」


その質問は予想外だった。


「両親ですか?」


「ああ。彼らは考古学者と魔法歴史学者だったと聞いている」


教授がなぜ俺の両親のことを知っているのか驚いたが、答えることにした。


「はい…7歳の時に事故で亡くなりました。古代遺跡の調査中に」


「覚えているよ」教授の目が遠くを見るようになった。「あれは悲劇だった」


「教授は…両親を知っていたんですか?」俺は驚いて尋ねた。


「ああ」教授は静かに頷いた。「特に君のお父さんとは共同研究をしたことがある。彼は優秀な考古学者だった。そして君のお母さんは、魔法史の分野で革新的な理論を提唱していた」


俺の胸が熱くなった。両親について詳しく知る機会はほとんどなかった。伯父夫婦は彼らの話題を避ける傾向があったのだ。


「どんな研究をしていたんですか?」俺は熱心に尋ねた。


「主に古代アストラリス文明についてだ」教授は答えた。「彼らは天脈山脈の北部で発見された遺跡を調査していた。『星の都』の外縁部だ」


「星の都」—古代アストラリス文明の首都。俺は「星継の書」でその名を読んだことがある。


「そして…」教授は少し躊躇った後、続けた。「彼らは古代魔法の研究も行っていた。特に、『星の継承者』と呼ばれる血統について」


その言葉に、俺の心臓が高鳴った。左手の痣が布の下で熱を持ったような感覚がある。


「星の継承者…」俺は震える声で繰り返した。


「ああ」教授はじっと俺を見つめた。「古代魔法を使える特殊な血統だ。君の両親は彼らの末裔を探していたんだよ」


沈黙が落ちた。教授の言葉の意味を理解するのに、時間はかからなかった。両親は「星の継承者」を探していた—そして、その血統は俺自身にあった。彼らは知っていたのだろうか?


「教授」俺は決意を固めて言った。「両親の死…本当に事故だったんですか?」


教授の表情が一瞬、曇った。


「賢い質問だ」彼はため息をついた。「正直なところ、私も疑問を持っている。彼らの死は…不自然な点が多い」


「どういうことですか?」


「遺跡で起きた崩落事故とされているが、その場所は構造的に安定していたはずだ」教授は低い声で説明した。「そして、事故の直前、彼らは重要な発見をしたと私に連絡してきた」


「重要な発見…」


「詳細は伝えられなかったが、『星の継承者』に関する決定的な証拠だったようだ」教授は深刻な表情で続けた。「そして事故の後、現場から持ち帰られるはずだった資料の多くが紛失した」


俺の中で怒りと悲しみが湧き上がった。両親の死は事故ではなかったのかもしれない—彼らは何者かに殺されたのだろうか?


「誰が…」声が震えた。


「確かなことは言えない」教授は慎重に言った。「だが、古代魔法の秘密を探る者たちはいつの時代もいる。特に、『黒翼の結社』と呼ばれる組織は…」


「黒翼の結社」俺は息を呑んだ。


「知っているのか?」教授は驚いた様子で尋ねた。


「少しだけ」俺は答えた。「古代魔法を追求する秘密結社だと」


「その通り」教授は頷いた。「彼らは数百年前から活動している。古代の力を手に入れるためなら、手段を選ばない」


話は更に深刻な方向に進んだ。教授によれば、「黒翼の結社」は近年、特に活発になっているという。彼らは王国内の様々な場所で古代遺物を探し回り、時には違法な手段で入手しているらしい。


「学院内にも彼らのスパイがいる可能性がある」教授は警告した。「特に、古代魔法に関心を示す者には注意が必要だ」


この言葉に、シルヴィアとの会話を思い出した。彼女の家族が「黒翼の結社」から圧力を受けているという話は本当だったのかもしれない。あるいは、彼女自身が結社のメンバーである可能性も…。


「グレイソン君」教授は真剣な表情で言った。「君に一つ質問がある」


「はい?」


「左手の手袋の下に何かあるのではないか?」


その質問に、俺の血の気が引いた。教授は知っているのか?それとも推測なのか?


「なぜそう思うんですか?」俺は動揺を隠そうとした。


「直感だよ」教授は穏やかに言った。「それに、君の急激な魔法の進歩、古代魔法への関心、そして両親の研究…すべてが繋がるように思える」


教授の目には敵意はなかった。むしろ、理解と思いやりが感じられた。俺は決断した。


「お見せします」


左手の手袋を脱ぐと、青い結晶状の痣が現れた。教授は息を呑み、目を見開いた。


「やはり…」彼は震える声で言った。「星の痣」


「知っていたんですか?」


「推測していた」教授は痣を興味深そうに観察した。「星の継承者の特徴の一つだ。古代文献には、『青き星の印』と記されている」


「これが何なのか、教えてください」俺は切実に頼んだ。


教授は深い息を吐き、説明を始めた。


「それは古代魔法文明の血統の証だ。『星の継承者』の印。古代アストラリス文明では、特に強い魔法の才能を持つ家系の子孫に現れると言われている」


「でも、なぜ今になって現れたんですか?」俺は疑問を呈した。「子供の頃にはなかったのに」


「文献によれば」教授は考え込むように言った。「星の痣は特定の条件が揃うまで顕在化しない。古代魔法との接触、精神的成熟、あるいは…血統を目覚めさせる儀式」


「儀式…」俺は「星継の書」で行った儀式を思い出した。


「君は何か見つけたのだね?」教授は鋭く察した。「古代の魔法書か何かを?」


正直に話すべきか迷ったが、教授は信頼できる人物に思えた。そして、より多くの情報を得るためには、ある程度の真実を明かす必要がある。


「はい」俺は頷いた。「図書館で古い本を見つけました。古代語で書かれていましたが、なぜか読むことができて…」


「『星継の書』か?」教授が静かに尋ねた。


「えっ?」俺は驚いた。「どうして?」


「推測だよ」教授は微笑んだ。「学院の禁書庫に保管されている数少ない古代魔法書の一つだ。しかし、完全に読めるとされる学者は一人もいない」


「それが俺には…」


「読めるのだろう」教授は頷いた。「星の継承者の特性の一つだ。古代語を本能的に理解する能力だ」


俺たちは長い間、静かに向かい合っていた。教授の言葉は俺の中の多くの謎を解き明かしてくれたが、同時に新たな疑問も生まれた。


「それで」教授が再び口を開いた。「君は古代魔法を使えるようになったのかね?」


「はい」俺は正直に答えた。「基本的なものだけですが」


「そして、それが最近の実技での成功の理由だろう」教授の口元に微笑みが浮かんだ。「現代魔法の形式で古代魔法を使うとは、なかなか賢い方法だ」


「教授は…怒らないんですか?」俺は恐る恐る尋ねた。「古代魔法の使用は制限されているはずなのに」


「私は学者だよ、グレイソン君」教授は優しく言った。「知識の探求を咎めるつもりはない。古代魔法自体は危険ではない—それをどう使うかが問題なのだ」


教授は立ち上がり、書棚から古い書物を取り出した。


「私の個人的な研究だ」彼は本を開きながら説明した。「古代魔法と現代魔法の統合理論について書いたものだよ」


ページをめくると、俺が「星継の書」から学んだ内容と驚くほど似た理論が記されていた。教授の研究は正確で深い。


「素晴らしい…」俺は思わず言った。


「だが、これらの研究は学院では公に認められていない」教授は少し悲しそうに言った。「現代魔法体系を守る立場の人々にとって、古代魔法は時に脅威と見なされるからだ」


「ヴィクターの父親みたいな?」


「ノイマン顧問のような人物、そうだね」教授は頷いた。「彼らは現体制を維持することに利益があるんだよ」


会話はさらに続き、教授は俺に多くの古代魔法に関する知識を教えてくれた。また、左手の痣の意味や潜在的な能力についても説明した。


「星の痣は単なる印ではない」教授は言った。「それ自体が魔力の触媒であり、増幅器だ。古代の記録によれば、星の継承者はこの痣を通じて、通常の魔術師の何倍もの魔力を操れるという」


「それで魔法の効率が良くなるんですね」俺は理解した。


「そして」教授は続けた。「痣の能力は成長する。使えば使うほど、君の魔力の経路は広がり、より多くの魔法を習得できるようになる」


「どこまで成長するんですか?」


「それは君次第だ」教授は肩をすくめた。「古代の記録には、星の剣を召喚したり、距離を超えて瞬間移動したりした継承者の話もある」


その可能性の大きさに、俺は圧倒された。


「でも、一つ警告しておかなければならない」教授の表情が真剣になった。「この能力は両刃の剣だ。強大な力は、それだけ大きな責任を伴う」


「どういう意味ですか?」


「力の暴走だよ」教授は静かに言った。「星の継承者の中には、制御できずに破滅した者もいた。また、力ゆえに狙われる危険もある」


「黒翼の結社のような…」


「そうだ」教授は頷いた。「彼らは何世紀もの間、星の継承者を探し続けてきた。その血統を利用するか、あるいは排除するために」


教授の警告は俺の背筋を冷やした。危険は思っていたより現実的で、近いものだった。


「どうすれば身を守れますか?」俺は尋ねた。


「まず、秘密を守ることだ」教授は真剣に言った。「能力の存在を知る者は最小限に留めるべきだ」


「遅すぎたかもしれません」俺は申し訳なさそうに言った。「すでにエリナ・ブライトに話してしまいました。彼女は俺の研究パートナーで…」


「ブライト嬢か」教授は考え込んだ。「彼女なら信頼できるだろう。古代文明研究の才能がある学生だ。だが、それ以上に広めるべきではない」


「実は…」俺は躊躇いながら言った。「シルヴィア・フォン・ヴァルトも何かを知っているようなんです」


「フォン・ヴァルト?」教授の眉が上がった。「彼女とはどういう関係だ?」


俺はシルヴィアとの会話の内容を詳しく説明した。彼女の祖父の研究、「黒翼の結社」との関係、そして彼女の申し出について。


教授は黙って聞き、深く考え込んだ。


「難しい状況だ」彼は最後に言った。「フォン・ヴァルト家は複雑な立場にある。彼女の祖父が古代魔法を研究していたのは事実だろう。しかし、彼女自身の動機は不明だ」


「信用すべきではないですか?」


「完全には」教授は警告した。「だが、敵対もするな。観察し、慎重に接するのが良いだろう」


教授はさらに実用的なアドバイスもくれた。魔力制御の技術、秘密を守るための方法、そして「黒翼の結社」の特徴と対処法について。


談話が終わりに近づくと、教授は重要な提案をした。


「これからは定期的に会おう」彼は言った。「君の能力の発展を導き、質問に答えることができる。かつて君の両親と約束したことでもある」


「約束?」


「ああ」教授の目が遠くを見るようになった。「もし何かあった場合、彼らの子をサポートすると。まさか、その子が星の継承者になるとは思わなかったがね」


この言葉に、俺は感謝と懐かしさが混ざった感情を覚えた。両親の友人であり、彼らの研究を知る教授との出会いは、単なる偶然ではないように思えた。


「ありがとうございます、教授」俺は心を込めて言った。「ぜひお願いします」


教授は微笑みながら頷いた。


「それから、これを持っていくといい」


彼は書棚から小さな本を取り出した。「古代魔法基礎理論—現代的解釈」というタイトルの、教授自身の著作だった。


「公には出版されていない私の研究だ」彼は本を渡しながら言った。「君の役に立つはずだよ」


「ありがとうございます」俺は感謝して本を受け取った。


「そして、これも」


教授は小さな青い結晶を俺に手渡した。


「魔力バッファ」彼は説明した。「古代の技術で作られた防御装置だ。危険を感じたら、これを握りしめるといい。一度だけ、強力な防護結界を展開する」


「教授…」俺は感動した。


「用心に越したことはない」彼は優しく言った。「特に、星の継承者はね」


研究室を去る前に、俺は最後の質問をした。


「教授、もう一つだけ。『守護者』という存在について何か知っていますか?」


教授の表情が微妙に変化した。


「なぜそれを聞く?」


「『星継の書』に挟まれたメッセージにあったんです。『守護者より』という署名で」


「なるほど」教授は静かに言った。「守護者は古代の伝説だよ。星の継承者を見守り、導く存在だと言われている。何世紀にもわたって生きる不死の存在とも…」


「実在するんですか?」


「伝説と現実の境界は時に曖昧だ」教授は意味深に答えた。「だが、君が見つけたメッセージは、誰かが自らを『守護者』と称しているということだね。興味深い…」


教授の表情からは、彼がそれ以上知っていることを示唆しているようだったが、明確には語らなかった。


別れ際、教授は最後の忠告をした。


「グレイソン君、君の前には長く、そして危険な道が広がっている。星の継承者の宿命だ。だが、一人ではない。味方がいることを忘れないで」


「ありがとうございます、教授」俺は深く頭を下げた。


研究室を出る時、一瞬だけ教授の左手に見覚えのある青い輝きを感じたような気がした。だが、それは一瞬の出来事で、確かめる間もなく消えていた。


---


エリナとの約束の時間に遅れそうになり、俺は急いで図書館に向かった。彼女に伝えるべきことがたくさんある。マーカス教授との会話、両親の研究、そして星の継承者としての真の意味について。


図書館に入ると、エリナが心配そうな表情で待っていた。


「遅かったわね!どうしたの?」


「マーカス教授と話していたんだ」俺は息を切らしながら言った。「信じられないくらい重要なことを知ったよ」


「マーカス教授?古代魔法史の?」エリナは驚いた顔をした。


「ああ。そして、彼は俺の両親の友人だったんだ」


俺たちは静かな隅に移動し、俺は教授との会話の内容を詳しく説明した。エリナは目を輝かせながら聞いていた。


「信じられないわ…」彼女は感嘆の声を上げた。「つまり、あなたの両親も古代魔法を研究していて、あなたが『星の継承者』の血統を持つことを知っていた可能性があるってこと?」


「そうみたいだ」俺は頷いた。「そして、彼らの死は単なる事故ではなかったかもしれない」


「『黒翼の結社』…」エリナの顔が曇った。


「ああ」俺は真剣な表情で言った。「彼らは俺を狙っているかもしれない。あるいは、すでに監視しているかも」


「それで、シルヴィアは?」


「教授は彼女を完全には信用するなと言っていた」俺は答えた。「でも、敵対もするなって」


「慎重に接するのが賢明ね」エリナは同意した。


「それから」俺は教授から受け取った本を取り出した。「これを見て」


二人で本を開き、その内容に感嘆した。古代魔法に関する詳細な解説と、現代魔法との統合理論。これは俺たちの研究を何倍も加速させる貴重な資料だった。


「マーカス教授は味方みたいね」エリナは嬉しそうに言った。


「そう思う」俺は頷いた。「彼は俺の両親の約束を守っているんだ」


「でも、シルヴィアの件はどうするの?」エリナが尋ねた。「彼女もあなたに接触してきたのは偶然じゃないわよね」


「ああ」俺は真剣な表情で言った。「俺は彼女と一度、正式に会って話をしようと思う。ただし、君も同席してほしい」


「もちろん」エリナは頷いた。「私も彼女の本当の目的が知りたいわ」


俺たちはこれからの行動計画を立てた。マーカス教授との定期的な勉強会、シルヴィアとの慎重な交渉、そして「黒翼の結社」への警戒。同時に、古代魔法の研究と練習も続ける。


「これからもっと複雑になるわね」エリナはため息をついた。


「ああ」俺は夕暮れの窓の外を見た。「でも、一人じゃない」


左手の痣が温かく脈動するのを感じながら、俺はこれからの道のりに思いを馳せた。もはや単なる落第魔術師ではない。俺はレイン・グレイソン、星の継承者—そして、それは責任と使命を意味していた。


学院の塔の影が長く伸び、太陽が地平線に沈んでいく。新たな章が始まろうとしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る