# 第2章: 【才能覚醒!?】最弱は最強の嘘つき
## 【手のひら返し】昨日の嘲笑者は今日の取り巻き
「グレイソン、おはよう!今日も魔法の調子いいかい?」
教室に入るなり、昨日まで俺を完全に無視していたクラスメートが満面の笑顔で話しかけてきた。俺は一瞬、誰かと間違えられたのかと思った。
「あ、ああ…まあね」
不自然に返事をしながら、席に向かう。途中、数人の学生が会釈したり、微笑みかけたりする。中には「昨日の風刃魔法、すごかったね」と声をかけてくる者まで。
状況が一変したのは昨日の中間実技試験からだ。B評価という予想外の成績を取った途端、学院中の目が変わった。「落第魔術師」「才能ゼロ」と呼ばれていた俺が、一夜にして「隠れた才能の持ち主」に格上げされたらしい。
「人って単純だよな…」
席に着きながら、心の中で呟く。昨日までの嘲笑が嘘のように消え、代わりに興味と期待の視線が向けられる。この変化に、正直居心地の悪さを感じていた。
「レイン!」
教室のドアから入ってきたルークが大声で呼びかけた。彼だけは昔から変わらず接してくれる数少ない友人だ。
「よう、ルーク」
彼が隣の席に腰を下ろす。力強く肩を叩かれて、少し痛かった。
「やるじゃないか!どうやったんだ?」彼の目は純粋な好奇心で輝いていた。「突然、魔法が使えるようになるなんて」
「まあ…ちょっとしたコツを見つけたんだ」
ルークには真実を話せない。「古代魔法を使っている」なんて言えば、すぐに学院中に広まってしまう。彼は口が軽いのだ。
「すげえな!俺も教えてくれよ」
「いや、それが、言葉で説明するのが難しくて…」
心苦しかったが、嘘をつくしかなかった。ルークは少し残念そうにしたが、すぐに明るい笑顔に戻った。
「まあいいさ。とにかく、もう退学の心配はないってことだ。今夜は祝杯を上げよう!」
「ああ、ありがとう」
その時、教室の空気が一瞬凍りついた。ヴィクター・ノイマンが取り巻きを連れて入ってきたのだ。彼の青い瞳が教室を一巡し、俺の姿を捉えると、表情が険しくなった。
彼は真っ直ぐに俺の席へと向かってきた。
「グレイソン」冷たい声で呼びかける。「昨日の試験、おめでとう」
その声には祝福の色は一切なく、疑念と敵意が滲んでいた。
「ありがとう、ノイマン」俺はできるだけ平静を装った。
「だが、疑問が残る」彼は周囲の学生たちにも聞こえるように言った。「数週間で、F評価からB評価まで上がるなんて、通常ありえないことだ」
教室内の会話が止み、全員が俺たちに注目している。
「運が良かっただけさ」俺は軽く受け流そうとした。
「運?」ヴィクターは冷笑した。「それとも…何か裏があるのか?」
その言葉に俺の心臓が早鐘を打ち始めた。彼は何か気づいているのだろうか?
「何も裏はないよ」俺は真剣な表情で言った。「ただ、必死に練習した結果だ」
「ふん」彼は明らかに納得していなかった。「いずれ真実が明らかになる。そして、その時は…」
言葉を最後まで言わず、彼は自分の席へと向かった。その背後から、シルヴィアが俺に冷たい視線を送っていた。しかし、その紫紺の瞳には以前とは違う何か—好奇心のようなもの—が宿っているように見えた。
「あいつ、なんなんだよ」ルークが小声で言った。「まるで敵ができたみたいだな」
「ヴィクターは学院首席の座を脅かされると思ってるんだろう」俺は苦笑した。「心配しなくていい。あいつの成績には遠く及ばないよ」
授業が始まり、俺は一時的に緊張から解放された。しかし、クラスメートたちの好奇の視線と、ヴィクターの冷たい敵意は、一日中俺につきまとった。
---
その日の最後の授業は魔法理論Ⅲ。マグナス教授の講義だ。俺の唯一の得意科目で、常に満点を取っていた。
「今日は魔力共鳴理論について学ぶ」教授は白髪の眉を上げながら講義を始めた。「現代魔法ではあまり注目されていない概念だが、古代魔法では核心的な役割を果たしていた」
俺は思わず身を乗り出した。まさに最近、エリナと研究していた内容だ。
「魔力共鳴とは、術者の内的魔力と外界の魔力が調和し、増幅される現象だ」教授は黒板に図を描きながら説明した。「現代魔法では制御の難しさから敬遠されているが、効率性では圧倒的に優れている」
これは「星継の書」に書かれていた内容と完全に一致していた。古代魔法の本質がここにある。
授業中、俺は熱心にノートを取り、いくつか質問もした。マグナス教授は俺の洞察力に感心した様子で、詳細な回答をくれた。
授業終了後、教授が俺を呼び止めた。
「グレイソン、少し時間があるか?」
「はい、教授」
他の学生たちが教室から出て行くのを待ち、マグナス教授は本題に入った。
「中間試験の結果を聞いた。素晴らしい進歩だ」彼は温かい目で俺を見た。「ゼイガー教授も驚いていたよ」
「ありがとうございます」俺は少し緊張した。
「しかし」教授の表情が真剣になった。「急激な成長の理由が気になっている。何か特別な方法でも見つけたのかね?」
質問は穏やかだったが、その瞳には鋭い観察力が宿っていた。教授は何か感づいているのだろうか?
「いえ…」俺は言葉を選びながら答えた。「ただ、魔力への理解が深まったんです。特に、今日の授業にあった魔力共鳴の概念が…」
「ほう?」教授は興味深そうに眉を上げた。「魔力共鳴か。それは興味深い。その概念に辿り着いたのはどうしてだ?」
「図書館で見つけた古い文献からです」嘘ではない。「古代魔法の理論が現代魔法の限界を補う鍵になるのではと思いまして」
「その通りだ」教授は嬉しそうに頷いた。「古代と現代、二つの魔法体系の融合は、多くの学者が追求してきたテーマだ。だが、実践例は極めて少ない」
教授は少し考え、決心したように続けた。
「グレイソン、私から提案がある。特別補習をしてみないか?君の理論的理解と実践力を更に伸ばせると思う」
「特別補習…ですか?」
これは予想外の展開だった。教授との個人指導は名誉なことだが、古代魔法を使っている秘密がバレるリスクも高まる。
「週に一度、夕方の時間を使って」教授は続けた。「君の才能は伸ばすべきだと思う」
断るべきだろうか?しかし、それも不自然だ。考えた末、俺は折衷案を提案した。
「光栄です、教授。ただ、今は図書館での研究も進めているので、隔週ではいかがでしょうか?」
「構わないよ」教授は微笑んだ。「来週の水曜日、午後6時に私の研究室へ来なさい」
「ありがとうございます」
教室を出ると、廊下にエリナが待っていた。彼女は授業の終わりを待っていたようだ。
「どうだった?」彼女は小声で尋ねた。
「マグナス教授から特別補習の誘いがあった」俺は困惑した表情で答えた。「断るわけにもいかなくて…」
「それは…複雑ね」エリナも眉をひそめた。「でも、いい機会かもしれないわ。現代魔法の専門家から学べることも多いはず」
「そうだな」俺は頷いた。「ただ、古代魔法の秘密は守らないと」
「そのために私たちで対策を考えましょう」彼女の緑色の瞳が決意に満ちていた。「今夜、図書館で会いましょう」
別れ際、彼女は小声で付け加えた。
「あと、気をつけて。今日、何人かの学生があなたのことを見張っていたみたい」
「見張っていた?」
「特にヴィクターの取り巻きが…あなたを尾行してたわ。何か探っているのかも」
その言葉に、背筋に冷たいものが走った。俺の秘密が危険にさらされている—この状況は予想以上に複雑になりつつあった。
「分かった、注意する」
エリナと別れ、俺は学院の中庭を通って寮へと向かった。視線を感じて振り返ると、噴水の向こうにシルヴィアの姿が見えた。彼女は俺と目が合うと、薄く微笑んだ。その笑みには何か意味がありそうで、俺の不安はさらに深まった。
古代魔法の力を得た代償として、俺は新たな敵と危険を作り出してしまったのかもしれない。しかし後戻りはできない。この力の真実を知るためにも、前に進むしかないのだ。
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