雨が降る夜に。

チキンナゲット65p

雨が降る夜

外樹の並木道が雨に濡れ、石畳に男の靴音が虚しく響く。街灯の下、コートを着たビジネスマンが立ち尽くす。

紺の傘から滴る水が、

彼の握るカバンに落ちる。

帰る家はないのか、ただ夜に溶け込むように佇む男は持っていたカバンを開けた。

カバンのなかは暗くて何も見えない。

外の暗さのせいか。

いや、何も見えないのだ。

闇が広がっている。

カバンの中は空間そのものがないようだ。

男は慣れた顔をして次は腕時計を見ている。時計の針の音は雨を避けているのか、

雨粒の音の間からしっかり響く。

時間だ。男は開いたままの傘を捨て、

カバンをより大きく開けた。

雨がカバンの中へ吸い込まれていく。

この地域一帯の雨が

すーっと吸い込まれていく。

男は動じることなく、ただカバンを広げて持っている。

続けて夜がシルクの布のように

するする吸い込まれ、薄青い空が現れた。そう。朝は夜の布に覆い被さっていたのだ。男は深く頷き、

カバンを両の手でカッチリ締めた。

男は開いたままの傘を拾い上げ、

一、二度、雨のしずくを払い、

傘を広げたままそっと空へ送り出す。

そうだった。傘は太陽だった。

男はまたもや深く頷き、

大事そうにカバンを抱えて

ヨタヨタ歩いて帰った。

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